7 / 159
第7話 初めてだし観光したいわ
しおりを挟む
魔法があるのはフルール大陸だけ。なぜなら魔王であるドラゴンが地下に埋められているから。フルール大陸に生まれた者は、ドラゴンの魔力を浴びて育つので魔法が使えると伝えられてきた。
いわば封じたドラゴンの恩恵だ。代わりに魔力を多く受け継ぐ者は、ドラゴンが蘇らぬように封印を行う義務があった。
アイリーンが住む東開大陸にも龍は存在するが、神として崇められている。扱いが真逆だった。神の子孫と言われる皇族は、他の一族での代替えは不可能と言われる。圧倒的な陰陽の術と霊力を授けられた、神々の子孫――アイリーンはその末子である。
生き神のように崇められる皇族の姫君は、いま……大興奮していた。
「すごいわ、全然景色が違うもの」
『遊びに来たんじゃないんだけどね』
呆れたと呟くココを抱き上げ、姉達より膨らみの足りない胸元に押し付ける。
「そんな意地悪言わないでよ。すぐに捕まえて、観光しましょう。初めてのフルール大陸よ! きっと食べたことないものや見たことない物がたくさんあるわ」
『……僕は甘いのが好き』
文句を言った口が、すぐに希望を告げる。狐姿でお稲荷さんとか大好きなのに、甘いお団子も好きなのだ。知ってるわと笑い、アイリーンは窓の外を眺めた。二階建てのこの屋敷は、街の外れにある。小高い丘の上に建つため周囲に民家は少なくて、近隣の人に出入りが見つかりにくい利点があった。
屋根に登れば、街を一望できそう。この大陸では魔法があるから、屋根に人がいてもおかしくないわよね。齧った知識をフル活用し、窓枠に手をかける。
『何するのさ』
「屋根の上へ行くの。きっとよく視えるわ」
術を使えば常人の10倍近い視力のアイリーンの言葉を、ココは真面目に狗を探す気なのだと受け止める。普段はいい加減だけど、ちゃんと仕事する気あるんだね。逃したのが自分だから、責任感じたのかな。なんだかんだ、ちゃんとお姫様なんだ。ココは笑顔になった。
『僕は上で待ってるね』
「わかったわ、すぐ行く」
窓枠に掛けた手に力を入れ、スカートの長さを確かめてから裾を掴んで飛んだ。何もない空中に、指先で横線を描く。それだけで霊力が一時的に固まり、硬いガラスの床のように変質した。便利で簡単、ぽんぽんと足場代わりに跳びながら、屋根の上に立つ。
首を引っ込めるほど冷たい風が吹いた。慌てて左手で風の壁を作る。霊力を使うと消耗するので、式神を呼び出した。風を操る式神を立たせる。もっとも風除けに使うわけではなくて。
陰陽術は常に陰陽のバランスを取るため、単体で式神を呼ぶことはなかった。今回も反対側に別の式神を呼び出している。
「風鬼、雷鬼。強い隠気を探してちょうだい」
無言で目くばせし合った2人の式神が消えた。彼らは距離も時間も関係ない。置いて帰っても主君であるアイリーンを見つけられるので、探索に式神は最適だった。式神は神に最も近い霊であるため、使役の代償が必要になる。それを霊力で補うアイリーンは、屋根の上で大きく伸びをした。
「不思議、私いま別の大陸にいるのよね」
『リン、もらった仮面をして』
「わかってるわよ」
皇族とバレないために顔を隠すのよね。取り出したのは、神狐様の面。白いマスクをして下半分を隠し、右反面を縦に仮面で覆った。裏に特殊な札が貼り付けられている。
『どう?』
「うん。よく見えるわ」
契約した神狐のココの白と対称になる黒、私とココが陰陽の対ね。粋な計らいに微笑んだところで、式神が禍狗を発見した知らせが届く。
「行くわよ、ココ」
肩に飛び乗ったココを連れ、私は夜の街に飛び出した。
いわば封じたドラゴンの恩恵だ。代わりに魔力を多く受け継ぐ者は、ドラゴンが蘇らぬように封印を行う義務があった。
アイリーンが住む東開大陸にも龍は存在するが、神として崇められている。扱いが真逆だった。神の子孫と言われる皇族は、他の一族での代替えは不可能と言われる。圧倒的な陰陽の術と霊力を授けられた、神々の子孫――アイリーンはその末子である。
生き神のように崇められる皇族の姫君は、いま……大興奮していた。
「すごいわ、全然景色が違うもの」
『遊びに来たんじゃないんだけどね』
呆れたと呟くココを抱き上げ、姉達より膨らみの足りない胸元に押し付ける。
「そんな意地悪言わないでよ。すぐに捕まえて、観光しましょう。初めてのフルール大陸よ! きっと食べたことないものや見たことない物がたくさんあるわ」
『……僕は甘いのが好き』
文句を言った口が、すぐに希望を告げる。狐姿でお稲荷さんとか大好きなのに、甘いお団子も好きなのだ。知ってるわと笑い、アイリーンは窓の外を眺めた。二階建てのこの屋敷は、街の外れにある。小高い丘の上に建つため周囲に民家は少なくて、近隣の人に出入りが見つかりにくい利点があった。
屋根に登れば、街を一望できそう。この大陸では魔法があるから、屋根に人がいてもおかしくないわよね。齧った知識をフル活用し、窓枠に手をかける。
『何するのさ』
「屋根の上へ行くの。きっとよく視えるわ」
術を使えば常人の10倍近い視力のアイリーンの言葉を、ココは真面目に狗を探す気なのだと受け止める。普段はいい加減だけど、ちゃんと仕事する気あるんだね。逃したのが自分だから、責任感じたのかな。なんだかんだ、ちゃんとお姫様なんだ。ココは笑顔になった。
『僕は上で待ってるね』
「わかったわ、すぐ行く」
窓枠に掛けた手に力を入れ、スカートの長さを確かめてから裾を掴んで飛んだ。何もない空中に、指先で横線を描く。それだけで霊力が一時的に固まり、硬いガラスの床のように変質した。便利で簡単、ぽんぽんと足場代わりに跳びながら、屋根の上に立つ。
首を引っ込めるほど冷たい風が吹いた。慌てて左手で風の壁を作る。霊力を使うと消耗するので、式神を呼び出した。風を操る式神を立たせる。もっとも風除けに使うわけではなくて。
陰陽術は常に陰陽のバランスを取るため、単体で式神を呼ぶことはなかった。今回も反対側に別の式神を呼び出している。
「風鬼、雷鬼。強い隠気を探してちょうだい」
無言で目くばせし合った2人の式神が消えた。彼らは距離も時間も関係ない。置いて帰っても主君であるアイリーンを見つけられるので、探索に式神は最適だった。式神は神に最も近い霊であるため、使役の代償が必要になる。それを霊力で補うアイリーンは、屋根の上で大きく伸びをした。
「不思議、私いま別の大陸にいるのよね」
『リン、もらった仮面をして』
「わかってるわよ」
皇族とバレないために顔を隠すのよね。取り出したのは、神狐様の面。白いマスクをして下半分を隠し、右反面を縦に仮面で覆った。裏に特殊な札が貼り付けられている。
『どう?』
「うん。よく見えるわ」
契約した神狐のココの白と対称になる黒、私とココが陰陽の対ね。粋な計らいに微笑んだところで、式神が禍狗を発見した知らせが届く。
「行くわよ、ココ」
肩に飛び乗ったココを連れ、私は夜の街に飛び出した。
2
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる