【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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98.義妹のために世界も変える

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 辺境伯が手柄を立てて、王女殿下の降嫁を得た。そこから発生した公爵家だ。領地替えを拒み、国境に接する土地に根付く。一部の貴族からは眉を顰められたようだが、クレチマスはその成り立ちを素晴らしいと感じた。

 地位が上がり豊かになっても、家の基礎は土地にある。その考え方は、農耕民族である日本人であり、農家だったクレチマスに馴染んだ。都会の喧騒より、田舎の虫の声を愛する。農民はよく働き、口は悪いが人がいい。

 実家から養子に入ってすぐ、農家に預けられた。体がまだ成長途中のため、体力作りを兼ねていたのか。クレチマスは農地で、前世のチートを遺憾なく発揮した。というのも、鍬や鎌の扱いは慣れている。コツさえ掴めば、さほど大きな力は不要だった。

 前世は専業農家で、様々な野菜を育てたクレチマスは、農作業を難なくこなす。若いのによく働く子だと評価され、本人も楽しんで過ごした。農民とも距離が近づき、貴族の坊ちゃん扱いから脱出する。それを待っていたように、クレチマスは回収された。

 最前線の砦で厳しい訓練をこなし、剣術を身につける。可愛いリッピアが時折、顔を見せてくれた。公爵夫人付き添いだが、いつもドレス姿だ。あの格好で守れるんだろうか。一度そう口にしたら、騎士の一人が身震いして教えてくれた。

「彼の方はとにかく強い。理屈がわからんくらい強いから、余計な発言はするな」

 今より厳しい訓練に放り込まれるぞ、騎士の忠告は予言となり……数年後に厳しい訓練に放り込まれるのだが。この頃のクレチマスは「へぇ、大変なんだな」と他人事だった。

 学業も剣術も馬術も、ついでに農作業も。すべて及第点をもらう頃には入学目前だった。詰め込まれたのはこのためか。またリッピアに会えないと嘆いたら、思わぬご褒美をもらった。王都屋敷に、リッピアも同行できる。

「お兄様、よろしくお願いします」

 にっこりと愛らしい顔で手を差し出す義妹は、将来の妻だ。この世界で頑張れたのは、彼女の存在だった。思い出した記憶に混じっていた、ある物語……彼女が断罪される未来を変えるために。

「こちらこそ、よろしく。リッピア……」

 声に出さず、好きだよと付け足した。にっこり笑うリッピアは、銀の髪を揺らして飛びつく。咄嗟に受け止め、鍛えていてよかったと胸を撫で下ろした。急な動きでも対応できるし、守ってやれる。

 王都で入学して知ったのは、タンジー公爵家の教育水準が異常だったこと。入学した足で、そのまま裏から卒業できそうだ。すでに身につけた知識だけで成績上位を維持し、リッピアと過ごす時間を増やした。

 紆余曲折あったが、結果が良ければすべて呑み込める。可愛いリッピアが真剣にドレスを選ぶ隣で、幸せを噛み締めた。もう騒動は起こさせない。リクニス国を支え、リッピアと生きていく。再びの大往生まで、一緒にいよう……愛してるよ、リッピア。
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