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95.こんなのは嫌よ ***SIDEネモローサ

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 第三王女ミューレンベルギアの侍女になったのは、父の入れ知恵だった。王族から臣籍降下した父は、伯父の地位を狙っている。自らを王とした国を夢見た。

 一つ違っていたら、私が王女だった。彼女と私の違いは、父親の肩書きだけ。祖父母まで遡れば、血筋は同じなのだから。ホスタ王国で王宮に勤めながら、何か足を引っ張る材料はないかと探す日々。

 隣国リクニスの若き王へ嫁ぐ話を聞いて、チャンスだと思った。ついて行って、成り代わってやろう。ミューレンベルギアで満足するような王なら、私が簡単に誘惑できるはず。この時点で、何も理解していなかった。

 国を出て途中で追いついた伝令により、思わぬ事情を知る。すでにリクニスの王は妻帯しており、正妃が存在した。だが側妃ではなく、同格の妃として迎えるよう策を練ったのだと。国境付近での事件も、その時まで知らずにいた。

 曰くつきを知っていたら、絶対に同行しなかったのに。到着したミューレンベルギアを、王はそれなりに扱った。最愛の女性を妻に迎えた男に、無理やり捩じ込んだ妃は邪魔者だ。それでも国のことを考え、我慢して結婚式や初夜を済ませる。

 ミューレンベルギアに成り代わろうと考えた野心は、この時点で方向を変えた。リクニスの国王夫妻を消し、ホスタ王国の一部にする。その際に功績を認めてもらえたら、領地の支配権をもらえるかもしれない。

 期待に胸を高鳴らせ、ホスタ王の命令に従った。ミューレンベルギアを唆し、上手に操り、国を傾けていく。途中までうまく行っていたのに、目付け役のデルフィニューム公爵家が邪魔をした。ミューレンベルギアの首が落ちた日、そっと逃げ出す。

 危険を回避するため、逃げ回った。その間にホスタ王国で叛逆があり、王が消える。王妃だった王太后は、娘を可愛がっていた。このままでは、私の身が危ない。エキナセア神聖国へ亡命しようと、聖女ビオラの一行に交じった。

 災害支援に行くため、様々な職種や階級の人間がいる。お陰で目立たずに入国できた。緊急措置として入国審査も免除され、これで安心と思った矢先……囚われた。

 何も聞かれず、語らない。そのまま塔に閉じ込められ、衣食住は足りているが自由はない。少しして、聖女と間違われたと知った。私は聖女ではないし、そう振る舞ってもいないが……罪人のように扱われ、幽閉を言い渡される。

 ずっと出られないのか。何が悪かった? どこで間違えたの? ただ、人に傅かれる王族としての地位を望んだだけなのに。血筋も能力も美貌も、すべて足りていたはず。

 薄暗い石造りの塔は、牢屋と変わらない。運ばれる食事も、当初は質が良かった。徐々に貧相になり、やがて回数も減っていく。泣いて叫んで求めても、誰も応じてくれなかった。

 こんなの嫌よ。ここから出して。叫びながら石を削り、叩いた。この頃からか、悪夢を見るようになった。ミューレンベルギアの首が、恨めしそうに私を睨む。血の滴る音が響き、日中も幻聴はやまない。もう狂ってしまえたら……。

 でも、最後に一つだけ叶えてよ。日の当たる外へ出してほしい。食事と水が途絶え、乾燥と飢えに苦しみながら手を伸ばした。
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