81 / 100
81.身柄の引き渡しと自首
しおりを挟む
心象を良くするために、コルジリネには自首してもらうことにした。その前にアスカと知識を擦り合わせてもらう必要がある。
離れに集まった三人は、アスカと向かい合っていた。
「コロ.ナリアという名称に心当たりは?」
「ないなぁ」
うーんと考えながらも、すぐに返答がある。何か思い入れのある単語ではないらしい。だが、未来の国名として使用するなら、何らかの関係があるはず。
コルジリネは名前の話に切り込んだ。アスカが聞き取りにくいのか、発音しにくいのか。こちらの世界に来てから、「アスターと呼ばれている。その話を深掘りした。
「何度も、アスカって訂正したんだ。でも数回呼ぶと、アスターになってる。呼びづらいのかな」
軽く考えるアスカと違い、カレンデュラは不安を覚えた。これって、ラノベ特有の強制力? ティアレラも似たような考えは浮かぶが、この世界でアスターという名前が一般的ではないと眉を寄せる。
アスターが普及していれば、アスカを聞き間違えたり、似た名称と勘違いして呼ぶ可能性が高まる。だが、アスターという名前は聞いたことがなかった。セントーレア帝国でも同様だ。コルジリネも耳にしたことがなかった。
「セントーレア帝国でも、一般的ではないのに、なぜ……」
「セント・レーア?」
びくりと三人は動きを止めた。その表現は、コルジリネの思い出せた数少ない固有名詞だ。独特の響きを口の中で繰り返したアスカは、にっこり笑った。
「セントーレア、よし、覚えたぞ」
じっと見つめたあと、コルジリネはカレンデュラに提案した。
「アスカは、私が預かろう。一石二鳥だ」
最愛の婚約者の周辺から、邪魔な男を引き剥がせる。セントーレア帝国で調べれば、アスカからさらに情報を引き出せる可能性が高い。おまけで、カレンデュラとの文通が増える。二鳥というより、一石三鳥だった。
「いいわ。任せます」
アスカはきょとんとしたままだが、隣国の皇太子が招待すると説明され、大喜びした。異世界に来たばかりで、まだわからないことだらけ。特別なチート能力もないので、困っていたと笑顔で話す。
良い人間関係を築ければ、将来的に帝国を滅ぼされる危険性も減るだろう。しばらく滞在予定だったアスカは、荷造りに向かった。その隙に、カレンデュラは念押しする。
「この騒動が片付かないと、結婚が遅くなるわ。リクニス国が滅びると家族や友人が困るもの」
「安心してくれ。私も力を貸す」
未来の皇妃の実家が潰れるのも外聞が悪いし、他の貴族につけ込まれる要因だ。加えて、自国を滅ぼすかもしれないアスカの保護は重要事項だった。荷造りを終えたアスカを連れ、コルジリネは渋々馬車に乗り込む。
「カレンデュラ」
「どうなさった……?!」
乗り込む直前に振り返って呼ばれ、近づいたところで唇を奪われる。頭の後ろに回した手で引き寄せられ、カレンデュラは目を見開いたままキスを受けた。ぼやける距離のコルジリネが、満面の笑みで「またね」と言い残して離れる。
走り去る馬車が見えなくなる頃、カレンデュラの顔が真っ赤になり……倒れかけてティアレラに支えられた。
「早く私も帰りたいわ、シオン」
婚約者に縋るような言葉を、溜め息に混ぜて吐き出したティアレラは、友人を横抱きにして屋敷へ足を向けた。
離れに集まった三人は、アスカと向かい合っていた。
「コロ.ナリアという名称に心当たりは?」
「ないなぁ」
うーんと考えながらも、すぐに返答がある。何か思い入れのある単語ではないらしい。だが、未来の国名として使用するなら、何らかの関係があるはず。
コルジリネは名前の話に切り込んだ。アスカが聞き取りにくいのか、発音しにくいのか。こちらの世界に来てから、「アスターと呼ばれている。その話を深掘りした。
「何度も、アスカって訂正したんだ。でも数回呼ぶと、アスターになってる。呼びづらいのかな」
軽く考えるアスカと違い、カレンデュラは不安を覚えた。これって、ラノベ特有の強制力? ティアレラも似たような考えは浮かぶが、この世界でアスターという名前が一般的ではないと眉を寄せる。
アスターが普及していれば、アスカを聞き間違えたり、似た名称と勘違いして呼ぶ可能性が高まる。だが、アスターという名前は聞いたことがなかった。セントーレア帝国でも同様だ。コルジリネも耳にしたことがなかった。
「セントーレア帝国でも、一般的ではないのに、なぜ……」
「セント・レーア?」
びくりと三人は動きを止めた。その表現は、コルジリネの思い出せた数少ない固有名詞だ。独特の響きを口の中で繰り返したアスカは、にっこり笑った。
「セントーレア、よし、覚えたぞ」
じっと見つめたあと、コルジリネはカレンデュラに提案した。
「アスカは、私が預かろう。一石二鳥だ」
最愛の婚約者の周辺から、邪魔な男を引き剥がせる。セントーレア帝国で調べれば、アスカからさらに情報を引き出せる可能性が高い。おまけで、カレンデュラとの文通が増える。二鳥というより、一石三鳥だった。
「いいわ。任せます」
アスカはきょとんとしたままだが、隣国の皇太子が招待すると説明され、大喜びした。異世界に来たばかりで、まだわからないことだらけ。特別なチート能力もないので、困っていたと笑顔で話す。
良い人間関係を築ければ、将来的に帝国を滅ぼされる危険性も減るだろう。しばらく滞在予定だったアスカは、荷造りに向かった。その隙に、カレンデュラは念押しする。
「この騒動が片付かないと、結婚が遅くなるわ。リクニス国が滅びると家族や友人が困るもの」
「安心してくれ。私も力を貸す」
未来の皇妃の実家が潰れるのも外聞が悪いし、他の貴族につけ込まれる要因だ。加えて、自国を滅ぼすかもしれないアスカの保護は重要事項だった。荷造りを終えたアスカを連れ、コルジリネは渋々馬車に乗り込む。
「カレンデュラ」
「どうなさった……?!」
乗り込む直前に振り返って呼ばれ、近づいたところで唇を奪われる。頭の後ろに回した手で引き寄せられ、カレンデュラは目を見開いたままキスを受けた。ぼやける距離のコルジリネが、満面の笑みで「またね」と言い残して離れる。
走り去る馬車が見えなくなる頃、カレンデュラの顔が真っ赤になり……倒れかけてティアレラに支えられた。
「早く私も帰りたいわ、シオン」
婚約者に縋るような言葉を、溜め息に混ぜて吐き出したティアレラは、友人を横抱きにして屋敷へ足を向けた。
171
お気に入りに追加
702
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる