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80.婚約者の捕獲要請
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世の中にさまざまな異世界ラノベがあれど、婚約者を捕獲してほしいと要請されるヒロインっているのかしら。悪役令嬢に置き換えてもいないわよね。
逃走した皇太子を捕獲する要請書を手に、カレンデュラは窓の外へ目を向ける。遠い目……というやつだ。やらかした婚約者が到着するより、公式書類の方が早かった。こうなると、見つけ次第捕まえることになるのだけれど……。
「訪ねてきたらお知らせしますわ」
リクニス国に住むセントーレア帝国の使者が住む屋敷が、連絡先になっている。約束して帰ってもらったが、すでに部屋にいると思うのよね。天井を見上げるカレンデュラは、大きく息を吐いた。
ティアレラも察したようで、苦笑いを浮かべた。滞在先として離れを貸したため、アスカは確保済みだ。この状況で『コロ.ナリア建国記』を知るコルジリネの登場は、望むところなのだ。問題はセントーレア帝国と揉めることだろうか。
「ささっと話を済ませて、帰るよう説得するしかないわね」
日本語でメモした紙束を閉じた手帳は、後ろ半分が白紙である。清書したカレンデュラの意見で、書き足せるよう白紙の束を追加させた。実際にコロ.ナリアの話が出てきたので、その判断は正解だ。
二階の自室へ向かい、扉を開く。侍女が閉じたはずの窓が開いており、ベッドが膨らんでいた。侵入者は疲れを癒しているようだ。すたすたと歩み寄り、ばさっと上掛けを剥ぐ。見慣れた婚約者の黒髪が現れた。
「カレン、眩しい……」
「起きて頂戴、帝国の使者が来ちゃったわ」
「それは早いね」
最短記録じゃないか? 身を起こしたコルジリネは乱れた髪を手櫛で直す。部屋の入り口で足を止めたティアレラは、視線を逸らしながらソファに落ち着いた。直視してはいけない気がしたのだ。夫婦の寝室を子供が覗いてしまった時のような、居心地の悪さがある。
「内緒で男を連れ込んだなんて、心配した私が暴走するのも当然だろう」
「皇太子殿下なのですから、脱走は困りますわ」
私の方に来るってバレていますし、嘘をつくのは可哀想ではありませんか。もっともな言い分で、反論を封じるカレンデュラだが、ふわっと笑みを浮かべた。寝癖が直っていない左耳の上に指先を滑らせ、何度か毛先を捻る。上手に内側へ差し込んだ。
「ああ、助かる」
「いいえ。アスカ殿に会えば、満足しますの?」
「いや、この屋敷にいるのが気に入らない」
「保護した対象ですし、離れにいますのよ」
「離れ?」
思っていたのと違うぞ……そんな顔でコルジリネが考え込む。そこへカレンデュラが追い打ちをかけた。
「こういった言動が、婚約に悪影響を与える可能性があります。私と結婚したいなら、しばらく大人しくなさって」
「結婚する! 大人しく……する、ように頑張る」
何か呑み込むような歯切れの悪さを残しながらも、コルジリネは素直に応じた。あの父王なら、皇太子としての役目を妨げると言って、婚約の解消くらい行いそうだ。もちろん、そんな事態になったら皇位簒奪してやるが。物騒な考えを笑顔の裏に隠し、コルジリネはカレンデュラの手を引いた。
ぽすんとベッドに座った彼女に顔を寄せるも、ティアレラの妨害が入った。
「私も同室していますので、お忘れなく」
近づいた距離が一瞬で離れてしまった。
逃走した皇太子を捕獲する要請書を手に、カレンデュラは窓の外へ目を向ける。遠い目……というやつだ。やらかした婚約者が到着するより、公式書類の方が早かった。こうなると、見つけ次第捕まえることになるのだけれど……。
「訪ねてきたらお知らせしますわ」
リクニス国に住むセントーレア帝国の使者が住む屋敷が、連絡先になっている。約束して帰ってもらったが、すでに部屋にいると思うのよね。天井を見上げるカレンデュラは、大きく息を吐いた。
ティアレラも察したようで、苦笑いを浮かべた。滞在先として離れを貸したため、アスカは確保済みだ。この状況で『コロ.ナリア建国記』を知るコルジリネの登場は、望むところなのだ。問題はセントーレア帝国と揉めることだろうか。
「ささっと話を済ませて、帰るよう説得するしかないわね」
日本語でメモした紙束を閉じた手帳は、後ろ半分が白紙である。清書したカレンデュラの意見で、書き足せるよう白紙の束を追加させた。実際にコロ.ナリアの話が出てきたので、その判断は正解だ。
二階の自室へ向かい、扉を開く。侍女が閉じたはずの窓が開いており、ベッドが膨らんでいた。侵入者は疲れを癒しているようだ。すたすたと歩み寄り、ばさっと上掛けを剥ぐ。見慣れた婚約者の黒髪が現れた。
「カレン、眩しい……」
「起きて頂戴、帝国の使者が来ちゃったわ」
「それは早いね」
最短記録じゃないか? 身を起こしたコルジリネは乱れた髪を手櫛で直す。部屋の入り口で足を止めたティアレラは、視線を逸らしながらソファに落ち着いた。直視してはいけない気がしたのだ。夫婦の寝室を子供が覗いてしまった時のような、居心地の悪さがある。
「内緒で男を連れ込んだなんて、心配した私が暴走するのも当然だろう」
「皇太子殿下なのですから、脱走は困りますわ」
私の方に来るってバレていますし、嘘をつくのは可哀想ではありませんか。もっともな言い分で、反論を封じるカレンデュラだが、ふわっと笑みを浮かべた。寝癖が直っていない左耳の上に指先を滑らせ、何度か毛先を捻る。上手に内側へ差し込んだ。
「ああ、助かる」
「いいえ。アスカ殿に会えば、満足しますの?」
「いや、この屋敷にいるのが気に入らない」
「保護した対象ですし、離れにいますのよ」
「離れ?」
思っていたのと違うぞ……そんな顔でコルジリネが考え込む。そこへカレンデュラが追い打ちをかけた。
「こういった言動が、婚約に悪影響を与える可能性があります。私と結婚したいなら、しばらく大人しくなさって」
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近づいた距離が一瞬で離れてしまった。
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