11 / 100
11.証拠品は回収できたみたい
しおりを挟む
嫁いだ後も実家に頼るのは、まれにある話だ。国家間での政略結婚なら、嫁ぎ先の国に支援をすることもあるだろう。ただ、それが一般的な応援の意味でなら構わない。嫁ぎ先の貴族に金品をばら撒いて味方を作り、正当なる王家の後継者を殺そうと企むのは別の話だった。
今回、ミューレンベルギアが犯した失態は、息子を直接動かしたこと。失敗を察知する能力が低く、うっかり失言をしたこと。相手の力量を謀り損ねて罠を仕掛けたこと。ぱちんと音をさせて扇を畳み、カレンデュラは満面の笑みを浮かべた。
「陛下、構いませんわね?」
「任せる」
国王フィゲリウスの全権委任を取付けた公爵令嬢は、斜め後ろで息を殺して見守る婚約者を振り返った。
「やっておしまいになって!」
本当は「やっておしまい!」と悪役っぽく言い放ってみたかったカレンデュラだが、コルジリネ皇太子への言葉遣いとしては問題がある。少しばかり品よく装うとして、失敗した気がした。
「我が姫君の仰せのままに。やれ」
やだっ、その乱暴な最後の一言にときめいちゃう。カレンデュラが頬を赤らめて見惚れる皇太子殿下は、さっと指先で首を落とす仕草をした。動いたのは護衛騎士達だ。普段から連れ歩く双子の騎士が、一礼して前に立った。
夜会に参加する貴族達は危険を察知し、窓や壁に身を寄せる。ミューレンベルギアが、助けを求めるように国王へ視線を向けた。いつもなら、隣国との関係を重視して、彼女を助けてきた。それが悪い方向へ働いている。国王は己の失態を自覚した。
「ああ、私は最初から間違えたのだな」
出会った時から、新たな妃への接し方を間違えた。その後もずるずると触らずに距離を置き、小さな悪意を大きく育てたのだ。自覚した国王フィゲリウスは、首を横に振った。もう助けることはないと、突き放した形だ。この騒動が終わったら、第二王子へ譲位する覚悟も決まった。
「っ! 役立たず」
悔しそうに吐き捨てたミューレンベルギアに、国王の表情がすとんと落ちた。無表情で睨むでもなく、ただ見つめる。居心地の悪さを感じたのか、先に視線を逸らせたのは妃の方だった。
「捕えよ」
「なんの権限があって、そのような……」
吐き捨てるように短く発せられた騎士の命令に、ミューレンベルギアが抵抗するも……。開いた扉から入ってきた男の手にある物を見て、がくりと崩れ落ちた。立ち上がった椅子から滑る形で床にへたり込む。
「遅いですわ、お父様」
「悪い。なにしろ荷物が多くてな。探すのに時間がかかった」
ミューレンベルギアが部屋を出た隙に、デルフィニューム公爵が部屋の調査を行う。国王の許可を得て行われる上、彼女の侍女や侍従はすべて拘束した。情報を遮断し操り、娘であるカレンデュラが罠を仕掛ける。
自白を引き出す以外に、妃を自室へ戻らせない目的もあった。嬉しそうなカレンデュラは、一瞬……意識が逸れた。すべてが描いた通りに動き、万能感に支配される。その油断をついた形で、ミューレンベルギアが動いた。
「危ない! カレンデュラ様」
「させるか」
窓から離れたビオラが叫び、慌てたコルジリネが走る。振り返ったカレンデュラは……目を見開いた。
今回、ミューレンベルギアが犯した失態は、息子を直接動かしたこと。失敗を察知する能力が低く、うっかり失言をしたこと。相手の力量を謀り損ねて罠を仕掛けたこと。ぱちんと音をさせて扇を畳み、カレンデュラは満面の笑みを浮かべた。
「陛下、構いませんわね?」
「任せる」
国王フィゲリウスの全権委任を取付けた公爵令嬢は、斜め後ろで息を殺して見守る婚約者を振り返った。
「やっておしまいになって!」
本当は「やっておしまい!」と悪役っぽく言い放ってみたかったカレンデュラだが、コルジリネ皇太子への言葉遣いとしては問題がある。少しばかり品よく装うとして、失敗した気がした。
「我が姫君の仰せのままに。やれ」
やだっ、その乱暴な最後の一言にときめいちゃう。カレンデュラが頬を赤らめて見惚れる皇太子殿下は、さっと指先で首を落とす仕草をした。動いたのは護衛騎士達だ。普段から連れ歩く双子の騎士が、一礼して前に立った。
夜会に参加する貴族達は危険を察知し、窓や壁に身を寄せる。ミューレンベルギアが、助けを求めるように国王へ視線を向けた。いつもなら、隣国との関係を重視して、彼女を助けてきた。それが悪い方向へ働いている。国王は己の失態を自覚した。
「ああ、私は最初から間違えたのだな」
出会った時から、新たな妃への接し方を間違えた。その後もずるずると触らずに距離を置き、小さな悪意を大きく育てたのだ。自覚した国王フィゲリウスは、首を横に振った。もう助けることはないと、突き放した形だ。この騒動が終わったら、第二王子へ譲位する覚悟も決まった。
「っ! 役立たず」
悔しそうに吐き捨てたミューレンベルギアに、国王の表情がすとんと落ちた。無表情で睨むでもなく、ただ見つめる。居心地の悪さを感じたのか、先に視線を逸らせたのは妃の方だった。
「捕えよ」
「なんの権限があって、そのような……」
吐き捨てるように短く発せられた騎士の命令に、ミューレンベルギアが抵抗するも……。開いた扉から入ってきた男の手にある物を見て、がくりと崩れ落ちた。立ち上がった椅子から滑る形で床にへたり込む。
「遅いですわ、お父様」
「悪い。なにしろ荷物が多くてな。探すのに時間がかかった」
ミューレンベルギアが部屋を出た隙に、デルフィニューム公爵が部屋の調査を行う。国王の許可を得て行われる上、彼女の侍女や侍従はすべて拘束した。情報を遮断し操り、娘であるカレンデュラが罠を仕掛ける。
自白を引き出す以外に、妃を自室へ戻らせない目的もあった。嬉しそうなカレンデュラは、一瞬……意識が逸れた。すべてが描いた通りに動き、万能感に支配される。その油断をついた形で、ミューレンベルギアが動いた。
「危ない! カレンデュラ様」
「させるか」
窓から離れたビオラが叫び、慌てたコルジリネが走る。振り返ったカレンデュラは……目を見開いた。
483
お気に入りに追加
702
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる