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33.絶対の約束の抜け道
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距離が遠いからと説得され、扉の前で下ろしてもらう約束をする。絶対ですよと指切りの歌も付けた。何度も絶対だと約束したエル様の腕で、私はこっそりお顔を眺める。いつもながらカッコいい。
この国の貴族令嬢で、エル様と結婚したい人ってたくさんいたんじゃないかな。政略結婚で連れてこられた私を見て貶したり罵ったりする人がいるかも。そういった悪意に慣れているわけではないけれど、これでも王族ですから、それなりに対応できるはず。
ぐっと拳を握って覚悟を決める私に、エル様はくすくすと笑いだした。
「百面相をしているところ悪いが、考えが漏れてるぞ」
「え? 口に出てましたか?」
やだ、全部話しちゃったのかな。エル様によれば、考えが全部顔に出ていた模様。今後は百面相ではなく鉄仮面を装わないと。大丈夫、私はやれば出来る子だわ。
「表情が読めないのは悲しいな」
「……贅沢ですのね」
「これでも王弟だからね、我が侭なんだ」
笑いながら言われて、そんなに深刻になる必要はないのかなと緊張が緩む。ちょうど扉の前についたので、ぽんと肩を叩いて下ろしてもらった。自分で歩いて部屋に入らないと、甘えん坊の子ども扱いされてしまう。未来の義兄や義姉になる方々に勘違いさせるわ。
「王弟フェルナン殿下、ならびにアルドワン王国王女アンジェル姫様のご到着です」
随分丁寧に呼ばれた。一礼して淑女の挨拶を終えた途端、また抱き上げられた。ふわっと浮いた体に驚いて、腕を首に回してしまう。落ちるかと思ったわ。
「エル様!」
驚いた分だけ責める口調になった響きに、エル様は申し訳なさそうに眉尻を下げた。もうこの表情だけで許したいわ。
「約束は守ったぞ。部屋に入る前に下ろした」
「でも今、抱っこされています」
「ここは室内だからな」
屁理屈……大人は狡い。様々な感情で変な顔になった自覚はある。泣く気はないけれど、ぐっと唇を突き出して不満を表明した。
「あらぁ! 泣かせたら許しませんよ」
「まったくだ。姫はもう立派な淑女なのに、失礼だぞ」
王妃殿下と国王陛下が注意したことで、エル様はむっとした顔になった。そのまま兄弟喧嘩のような言い争いになり、突然王妃殿下が打ち切った。
「そこまでよ。お食事にしましょう」
やっぱりモンターニュ国で一番強くて偉いのは、王妃殿下だわ。絶対に仲良くして頂かなくちゃ。テーブルの奥に国王陛下、右腕側にエル様と私、左腕側に王妃殿下が着座する。お料理は海産物が多かった。
貝殻に載ったまま蒸した料理や、丸ごとのお魚、どうやって食べるのか困る海老の姿焼き。全部エル様が切り分けて、目の前のお皿に移してくれる。私は一口ずつ楽しみ、気に入ったものをお代わりした。
「こんな形の晩餐でごめんなさいね」
王妃殿下はそう言って微笑む。家族だから大皿を取り分けて食べたかったと聞いて、嬉しくなった。私は家族として認められているのだわ。
「いいえ。アルドワンの家族とも同じように大皿で食べておりましたので」
慣れています。そのつもりの発言を、国王夫妻は違う意味に受け取った。すなわち、自分達はもう家族だと。アルドワンの家族と表現したことで、モンターニュの家族が浮かんだみたい。こういうのって、あれよね。ケガの功名だっけ?
この国の貴族令嬢で、エル様と結婚したい人ってたくさんいたんじゃないかな。政略結婚で連れてこられた私を見て貶したり罵ったりする人がいるかも。そういった悪意に慣れているわけではないけれど、これでも王族ですから、それなりに対応できるはず。
ぐっと拳を握って覚悟を決める私に、エル様はくすくすと笑いだした。
「百面相をしているところ悪いが、考えが漏れてるぞ」
「え? 口に出てましたか?」
やだ、全部話しちゃったのかな。エル様によれば、考えが全部顔に出ていた模様。今後は百面相ではなく鉄仮面を装わないと。大丈夫、私はやれば出来る子だわ。
「表情が読めないのは悲しいな」
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「エル様!」
驚いた分だけ責める口調になった響きに、エル様は申し訳なさそうに眉尻を下げた。もうこの表情だけで許したいわ。
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「でも今、抱っこされています」
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屁理屈……大人は狡い。様々な感情で変な顔になった自覚はある。泣く気はないけれど、ぐっと唇を突き出して不満を表明した。
「あらぁ! 泣かせたら許しませんよ」
「まったくだ。姫はもう立派な淑女なのに、失礼だぞ」
王妃殿下と国王陛下が注意したことで、エル様はむっとした顔になった。そのまま兄弟喧嘩のような言い争いになり、突然王妃殿下が打ち切った。
「そこまでよ。お食事にしましょう」
やっぱりモンターニュ国で一番強くて偉いのは、王妃殿下だわ。絶対に仲良くして頂かなくちゃ。テーブルの奥に国王陛下、右腕側にエル様と私、左腕側に王妃殿下が着座する。お料理は海産物が多かった。
貝殻に載ったまま蒸した料理や、丸ごとのお魚、どうやって食べるのか困る海老の姿焼き。全部エル様が切り分けて、目の前のお皿に移してくれる。私は一口ずつ楽しみ、気に入ったものをお代わりした。
「こんな形の晩餐でごめんなさいね」
王妃殿下はそう言って微笑む。家族だから大皿を取り分けて食べたかったと聞いて、嬉しくなった。私は家族として認められているのだわ。
「いいえ。アルドワンの家族とも同じように大皿で食べておりましたので」
慣れています。そのつもりの発言を、国王夫妻は違う意味に受け取った。すなわち、自分達はもう家族だと。アルドワンの家族と表現したことで、モンターニュの家族が浮かんだみたい。こういうのって、あれよね。ケガの功名だっけ?
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