7 / 97
07.抱き上げていたいのだが、嫌か?
しおりを挟む
お風呂を用意すると言われたけれど、時間がかかるし眠くなりそう。何より、エル様をお待たせしてしまうわ。寝る前にしますと断りを入れ、クロエが用意したドレスに着替えた。
旅支度のワンピースより裾が長く、レースやフリルも多めだ。色は淡いピンクで、子どもっぽくないデザインが気に入っている。腰をきゅっと細くみせるのに、実際はゆったり着られる。色の濃淡を使った切り替えデザインのお陰よ。
お母様も愛用するデザインで、これならコルセットなしでも細く見えるの。淑女必須アイテムだと思う。着心地が良いので、アルドワン王国で流行していた。先日遊びに来たルナン大公領の奥様も、すごく気に入って注文したくらいよ。
柔らかな印象を与える琥珀の首飾りを選び、耳は何もつけない。代わりに金髪を結って、小花のピンをたくさん飾ってもらった。最後に蝶々のピンを一つだけ差し込む。気づいた人はくすっと笑ってくれるし、気づかなくても花に悪い印象を持つ人は少ない。
愛される末っ子にも、コツや秘密の作戦はあるのよ。鏡の前でくるりと回り、おかしなところがないか確かめる。侍女の一人が扉の外へ出た。私の準備が出来たことを伝えに行くのね。
エル様に手を差し出し、エスコートされながら城を歩く。素敵だわ。うっとりしながら待った。
「アン、なんとも可愛らしい花の妖精だ。こちらへおいで」
褒められて微笑み、呼ばれて素直に近づく。が、数歩も行かないうちに抱き上げられた。先ほどと同じ右腕に腰掛ける形だ。内側の長いペチコートのレースが覗き、靴が隠れてしまった。
「あの……歩けますわ」
「私が抱き上げていたいのだが、嫌か?」
そう尋ねられたら「嫌じゃないです」と答える。本心からそう思ってくれている? 本当は重いんじゃないかしら。心配になって顔を覗くと、柔らかな笑顔が向けられた。信じていいのよね。私、馬車の中からずっと歩いていない気がする。
「それに私が抱き上げていれば、遠くまでよく見えるぞ」
「ふふっ、落とさないでくださいね」
任せろと請け負うエル様に抱えられ、城の中を回った。二階は当主一族や客人の部屋が並ぶ。使用人は地下と屋根裏に分散するのだとか。朝早い仕事の料理人などは半分地下になった部屋が都合がいい、そんな話に驚いた。
騎士は本館の脇にある別館に住んでいる。本館から見えないけれど、別館の裏には訓練場があった。土、石畳、芝生と地面の状態が違うのは、どんな環境でも戦えるように訓練するためと聞いて頷く。集まっていた騎士は、黒や焦げ茶の髪色が多かった。
アルドワン王国は淡い髪色ばかりで肌は日焼けしている。逆にモンターニュでは、濃い髪色と白い肌が主流だった。一階の食堂や執務部屋、来客用の応接室も見て、最後に不思議な庭に案内される。レンガ造りの壁に薔薇が伝い、とても美しい空間だった。
ところどころに窓に似た穴があり、日差しが差し込んだり外が見えたりする。完全に隔離された場所ではなくて、でもプライベート空間のような。
「素敵」
「ここは私の母が作らせた。もう主がいないので、アンに管理してほしい」
お母様が作ったのに、もういない? 引っ越しされただけならいいけれど、まさか?
旅支度のワンピースより裾が長く、レースやフリルも多めだ。色は淡いピンクで、子どもっぽくないデザインが気に入っている。腰をきゅっと細くみせるのに、実際はゆったり着られる。色の濃淡を使った切り替えデザインのお陰よ。
お母様も愛用するデザインで、これならコルセットなしでも細く見えるの。淑女必須アイテムだと思う。着心地が良いので、アルドワン王国で流行していた。先日遊びに来たルナン大公領の奥様も、すごく気に入って注文したくらいよ。
柔らかな印象を与える琥珀の首飾りを選び、耳は何もつけない。代わりに金髪を結って、小花のピンをたくさん飾ってもらった。最後に蝶々のピンを一つだけ差し込む。気づいた人はくすっと笑ってくれるし、気づかなくても花に悪い印象を持つ人は少ない。
愛される末っ子にも、コツや秘密の作戦はあるのよ。鏡の前でくるりと回り、おかしなところがないか確かめる。侍女の一人が扉の外へ出た。私の準備が出来たことを伝えに行くのね。
エル様に手を差し出し、エスコートされながら城を歩く。素敵だわ。うっとりしながら待った。
「アン、なんとも可愛らしい花の妖精だ。こちらへおいで」
褒められて微笑み、呼ばれて素直に近づく。が、数歩も行かないうちに抱き上げられた。先ほどと同じ右腕に腰掛ける形だ。内側の長いペチコートのレースが覗き、靴が隠れてしまった。
「あの……歩けますわ」
「私が抱き上げていたいのだが、嫌か?」
そう尋ねられたら「嫌じゃないです」と答える。本心からそう思ってくれている? 本当は重いんじゃないかしら。心配になって顔を覗くと、柔らかな笑顔が向けられた。信じていいのよね。私、馬車の中からずっと歩いていない気がする。
「それに私が抱き上げていれば、遠くまでよく見えるぞ」
「ふふっ、落とさないでくださいね」
任せろと請け負うエル様に抱えられ、城の中を回った。二階は当主一族や客人の部屋が並ぶ。使用人は地下と屋根裏に分散するのだとか。朝早い仕事の料理人などは半分地下になった部屋が都合がいい、そんな話に驚いた。
騎士は本館の脇にある別館に住んでいる。本館から見えないけれど、別館の裏には訓練場があった。土、石畳、芝生と地面の状態が違うのは、どんな環境でも戦えるように訓練するためと聞いて頷く。集まっていた騎士は、黒や焦げ茶の髪色が多かった。
アルドワン王国は淡い髪色ばかりで肌は日焼けしている。逆にモンターニュでは、濃い髪色と白い肌が主流だった。一階の食堂や執務部屋、来客用の応接室も見て、最後に不思議な庭に案内される。レンガ造りの壁に薔薇が伝い、とても美しい空間だった。
ところどころに窓に似た穴があり、日差しが差し込んだり外が見えたりする。完全に隔離された場所ではなくて、でもプライベート空間のような。
「素敵」
「ここは私の母が作らせた。もう主がいないので、アンに管理してほしい」
お母様が作ったのに、もういない? 引っ越しされただけならいいけれど、まさか?
99
お気に入りに追加
564
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
旦那さま、初夜はいつになりますでしょうか?〜溺愛旦那様の艶事情〜
みなつき菫
恋愛
𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
■『利害一致婚のはずですが、ホテル王の一途な溺愛に蕩かされています』のヒーロー弟・隼人くんのお話しです。スピンオフですがそちらを読まなくても影響はありません。
■作品に出てくる企業団体はすべて妄想のフィクションです。
𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
♡マンハッタンで暮らす、甘い歳の差新婚夫婦♡
出会って2年、交際して1年
うち3ヶ月は結婚している私たち
なのに、どうして抱いてくれないんですか…?
大学を出たばかりの年下奥様
香田みな mina kouda――22
『本当は私のこと、子供だと思っていませんか?』
×
大道寺グループ ハウジングホールディング代表取締役社長
大道寺 隼人 hayato daidouj――32
『子供?わからないなら思い知らせてあげる――』
年上のスパダリ旦那さまのその心は……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる