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69.国交を結ぶのはどうかな
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方法はいくつかある。単純に追い払う方法、これは後でまた攻めてくる口実を与えてしまう。王族を脅す方法、これまた脅えさせて軍を派遣する理由にされかねない。だからと言って、暗殺や国を滅ぼす手段は選びたくなかった。
消去法でこれしかないだろう。
『国交を結ぶのはどうかな』
向こうは国で、こちらも幸いにして国家の形を形成しつつある。こちらには魔王の元宰相ベリアルがいた。彼の有能さは今さら口にするまでもない。出向いて交渉することも可能だった。琥珀王が幼いから侮られないよう、宰相としてベリアルに対応してもらう。その上で、護衛を僕やバルテルが務めれば完璧だった。
手短に説明した僕は、突然尻尾を噛まれて飛び上がる。
『いてっ、何……ニー?』
母猫ニーが唸りながら僕の尻尾を齧って離す。不満があるなら言葉でお願いします。尻尾は急所のひとつだからさ、不意打ちはやめて欲しかった。マジで痛い。くるんと巻いた尻尾は、痛かったけど曲がったりしていない。絶妙な力加減だな。
「考えが甘いんだと」
ニーの通訳をしてくれたシェンが、にやりと笑う。これは嫌な予感がする。
「我も手伝ってやろう。龍がおれば、容易く仕掛けることも出来まい」
牽制に使えと言われても、過剰戦力な気がする。あまり力の差を見せつけると、脅威と見做される。人間は特に嫌な方面へ知恵が回る生き物だった。今回の臆病さからして、破れかぶれで喧嘩を売られる可能性が高いと思う。
『シェンがいると、攻撃の理由にならないか?』
「返り討ちにすればよい」
『うん、わかった。シェンは留守番』
不満そうに唸る古龍に対し、庇うように僕とシェンの間に立つ琥珀が「ダメ」と叫んだ。こうなるとシェンが引くしかない。両手を上げて降参だと示しながら、シェンは溜め息を吐いた。
「わかった、だが……何かあると困るからな。これを持っていけ」
シェンは鱗を一枚差し出した。きらきらと光る黒い鱗は、光に透けると赤や青が混じった複雑な色をしている。ありとあらゆる属性が混じった色という話を思い出した。
「これ、シェン呼べる?」
受け取った鱗を、以前僕が入っていた袋にしまう琥珀が尋ねる。呼び出し用の装置にしては、鱗は豪華すぎた。だが、シェンは笑って頷く。
「もちろん。呼べば届くし、我の力の一部を使うことも出来る。まあコハクのためというより、一緒に行くバルテルやシドウを守る道具だ」
話を聞き終えるなり、琥珀は鱗の入った袋を僕の首にかけた。一本角があるから、気をつけてくれよ。琥珀に刺さるとかトラウマだからな。動かないようにした僕の首にかけられた袋は、なんとも味気ない。
「イマイチだな。新しい袋をアルマに頼むか」
バルテルの提案で、アルマに見栄えのする袋を頼むことになった。琥珀も珍しく膨れたりしないで素直に頷く。国交を結ぶなら、騎士団を攻撃するのは悪手だった。彼らには丁重にお帰りいただく方法を考えてある。
『琥珀、あの人間達を森に入れないようにしてくれ』
「わかった」
ざっくり簡単に指示したことを悔やむのは、わずか数分後。
「シドウ様、騎士団が樹木に吊るされていました」
確認したベリアルの報告に、僕は顔色を失った。なんだって!?
「逆さにした、森に入れない」
げらげら笑って転げ回り、呼吸困難に陥るシェンの横で、僕はがくりと項垂れた。国交は無理かもしれない。
消去法でこれしかないだろう。
『国交を結ぶのはどうかな』
向こうは国で、こちらも幸いにして国家の形を形成しつつある。こちらには魔王の元宰相ベリアルがいた。彼の有能さは今さら口にするまでもない。出向いて交渉することも可能だった。琥珀王が幼いから侮られないよう、宰相としてベリアルに対応してもらう。その上で、護衛を僕やバルテルが務めれば完璧だった。
手短に説明した僕は、突然尻尾を噛まれて飛び上がる。
『いてっ、何……ニー?』
母猫ニーが唸りながら僕の尻尾を齧って離す。不満があるなら言葉でお願いします。尻尾は急所のひとつだからさ、不意打ちはやめて欲しかった。マジで痛い。くるんと巻いた尻尾は、痛かったけど曲がったりしていない。絶妙な力加減だな。
「考えが甘いんだと」
ニーの通訳をしてくれたシェンが、にやりと笑う。これは嫌な予感がする。
「我も手伝ってやろう。龍がおれば、容易く仕掛けることも出来まい」
牽制に使えと言われても、過剰戦力な気がする。あまり力の差を見せつけると、脅威と見做される。人間は特に嫌な方面へ知恵が回る生き物だった。今回の臆病さからして、破れかぶれで喧嘩を売られる可能性が高いと思う。
『シェンがいると、攻撃の理由にならないか?』
「返り討ちにすればよい」
『うん、わかった。シェンは留守番』
不満そうに唸る古龍に対し、庇うように僕とシェンの間に立つ琥珀が「ダメ」と叫んだ。こうなるとシェンが引くしかない。両手を上げて降参だと示しながら、シェンは溜め息を吐いた。
「わかった、だが……何かあると困るからな。これを持っていけ」
シェンは鱗を一枚差し出した。きらきらと光る黒い鱗は、光に透けると赤や青が混じった複雑な色をしている。ありとあらゆる属性が混じった色という話を思い出した。
「これ、シェン呼べる?」
受け取った鱗を、以前僕が入っていた袋にしまう琥珀が尋ねる。呼び出し用の装置にしては、鱗は豪華すぎた。だが、シェンは笑って頷く。
「もちろん。呼べば届くし、我の力の一部を使うことも出来る。まあコハクのためというより、一緒に行くバルテルやシドウを守る道具だ」
話を聞き終えるなり、琥珀は鱗の入った袋を僕の首にかけた。一本角があるから、気をつけてくれよ。琥珀に刺さるとかトラウマだからな。動かないようにした僕の首にかけられた袋は、なんとも味気ない。
「イマイチだな。新しい袋をアルマに頼むか」
バルテルの提案で、アルマに見栄えのする袋を頼むことになった。琥珀も珍しく膨れたりしないで素直に頷く。国交を結ぶなら、騎士団を攻撃するのは悪手だった。彼らには丁重にお帰りいただく方法を考えてある。
『琥珀、あの人間達を森に入れないようにしてくれ』
「わかった」
ざっくり簡単に指示したことを悔やむのは、わずか数分後。
「シドウ様、騎士団が樹木に吊るされていました」
確認したベリアルの報告に、僕は顔色を失った。なんだって!?
「逆さにした、森に入れない」
げらげら笑って転げ回り、呼吸困難に陥るシェンの横で、僕はがくりと項垂れた。国交は無理かもしれない。
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