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47.やっぱり狙われたか

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「ベリアルを出せっ!」

「ここにいるのは分かってるんだ」

 双子の魔族が現れて、上空で喚き散らす。森人は「またか」と溜め息をついた。どうも魔族は他種族を見下ろすのが標準仕様らしい。

 下半身は馬で、しっかり四本足。上半身は人間で、なぜか真っ裸だった。あれだ、ケンタウロスだっけ? 前に重心が偏ってるけど、倒れたりしないんだろうか。余計な心配をしながら、琥珀に握られた状態で観察する。

「ベリアル? 何の用だ」

「貴様らには関係ない」

 バルテルの問いにピシャリと言い返された。完全に舐められてる。ベリアルには出てこないよう通知した。僕の声は、魔力に乗せるから指向性がある。遠くにいても魔力を当てる要領で声を届かせることができた。ちなみに、この技術はベリアルから教わったんだけど。念話の一種だと受け止めた僕の理解は早かった。練習数回で成功したし。

「訪ねてきた用事も言えないガキに答える義務はねえな」

「なんだと!?」

「この集落を焼いてもよいのだぞ」

 バルテルが挑発する。琥珀がぐっと僕を握る手に力を込めた。この程度は痛くないから我慢だ。ちょっと息苦しいけど。どうしてか、琥珀は僕の喉を握る癖がある。毎回ピンポイントだ。

『緊張してるのか、琥珀』

「このくらい」

 両手で示すほど大きな緊張か。指先じゃなく、腕を広げて表現された。こんなに大きな緊張なら、解してやった方がいい。

『こないだの練習覚えてるか? ベリアルと一緒に下から上に風を回すやつだ』

「うん」

『あれを目一杯強くして、遠くまで飛ばしてやろう』

 子どもの想像力は豊かだ。その発想を伸ばす方向で提案する。僕を握った右手の脇で、左手の人差し指がくるくると円を描いた。そう、それだ。イメージしやすいよう、ベリアルは魔法ひとつ一つに仕草を付けた。手話が近いかも知れない。動きを思い出させるだけではなく、暗号めいた所作を知る仲間には次に使う魔法を周知出来る。

 ちらっと確認したバルテルが頷く。彼も同じ仕草をすると、周囲の森人も小さく仕草を伝達した。魔法が発動したら巻き込まれないため、地面に伏すのが正解だ。

「さっさとベリアルの居場所を吐け」

「数人、腑を晒せば喋るか?」

 実力行使に出ると言い出した双子のケンタウロスに、機嫌を損ねた新王琥珀が叫んだ。

「ベリアルはあげない!」

 言い切った直後、琥珀は右腕を掲げて大きく回した。ぶわっと強い風が巻く。バルテルを始めとした森人は一斉に伏せた。ぐるぐると僕を握った琥珀の拳が回る。一緒に僕の目も回った。酔うが我慢だ。

 巨大竜巻が出来上がり、ケンタウロス達は巻き込まれてなす術もなく飛ばされた。空中にいたのが敗因だろう。魔力で作った足場は、琥珀が放出した僕の魔力でかき消された。後は物体と化した彼らを飛ばすだけの、琥珀にとって簡単な仕事だ。

「シドウ、出来た!」

『お、おう……よくやった……げろぉ』

 こういうとき、吐くものや口がないのは辛い。慌てたバルテルに諭され、琥珀は僕を収納袋にしまってくれた。双六すごろくじゃないが、ひとつ休みだ。
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