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6.名付け親の苦労を知る
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強そうな名、優しそうな響き、可愛らしい言葉……考え始めるとキリがない。人に名付けるって、こんなに難しいんだな。この世界だと3文字の名前が一般的だった。貴族はさらにミドルネームやら苗字やらいくつも並べる。眠くなる呪文みたいな名前が好まれた。
子どもの姿をよく観察する。肌は荒れているが、健康的に日焼けしていた。緑色の艶を帯びた黒髪で、目の色は金色だ。琥珀と表現した方が近いかも。この世界に樹液の宝石である琥珀が存在するか知らないが、前世の記憶で一番近い色が琥珀だった。
コハクはどうか。3文字だし響きも綺麗だ。僕を大切に持ち歩く子に提案してみた。
「こはく……」
繰り返して嬉しそうに頬を緩める。こんなに愛らしいのに、行動は野生的だった。兎を生で齧る姿は可哀想で、この子をどうにかしてやりたいと思った。育児放棄もいいところだ。煮たり焼いたりすれば、腹を壊す確率も減る。安全を確保したら、煮炊きの方法を教えることにしよう。カタコトの言葉もどうにかしてやりたい。
「おれ、こはく。なによぶ?」
まず自分を示して琥珀と呟き、僕を指差して尋ねるから名前を問うたのだと気づいた。前世の名でいいか。紫藤、そう教えた。それは苗字だが、下の名前は思い出せない。
「しどう、こはく!」
僕を指差し、続いて自分を指さす。にこにこしながら、兎を咀嚼する母猫を示し「にー」と呼んだ。まさか、名前か? 3匹の子猫も勝手に名付けてしまった。左の三毛はナウ、中央の黒猫はクウ、最後の母猫そっくりのぶち猫がラウだ。母猫の名前と共通点はないが、まあいいだろう。どうせ呼ぶのは僕と琥珀くらいだ。
人族はよくわからないが、魔族は名を隠す習性があった。前世の日本での記憶にある鬼や神と同じだ。名を知られることは弱点らしい。だから通称名や響きを変えて発音する。幸いなことに、琥珀は自分の名前が漢字だと知らない。名付け親の僕以外は、彼の名の本当の発音を知らないのだ。
愛らしい顔立ちに似合わぬ短いツノ、これが親に捨てられた原因かも知れない。魔族と人族の間に生まれ、おそらく人族の母親に育てられた。途中でツノが生えたため、魔族と交わった際に生まれた子だと気づいて捨てたのだろう。魔族の子にツノが生えるのは3歳前後だからな。
魔王の頭上で見てきた知識から推測できたのは、気分のいい答えではなかった。
「しどう、たべる?」
要らない。魔力は勝手に回復するし、食事は不要だった。真っ赤な手で兎肉を頬張る琥珀にはっきり答え、今後のことを考える。今日もここで眠るなら、ある程度の備えが必要だ。狼や蛇に襲われたのは、母猫の出入りが目立つという現実がある。人族の領地内は勝手が分からないが、まあ、何とかなるだろ。
僕はこの時点で、琥珀が気に入っていた。言葉が通じないのに魔力を搾取する魔王より、全然いい。今夜は結界を張って眠り、明日は移動するよう伝えた。素直に頷いた琥珀は、覚えたばかりの魔法で結界を築く。またごっそり魔力を抜かれるが、不思議と気分は悪くなかった。
子どもの姿をよく観察する。肌は荒れているが、健康的に日焼けしていた。緑色の艶を帯びた黒髪で、目の色は金色だ。琥珀と表現した方が近いかも。この世界に樹液の宝石である琥珀が存在するか知らないが、前世の記憶で一番近い色が琥珀だった。
コハクはどうか。3文字だし響きも綺麗だ。僕を大切に持ち歩く子に提案してみた。
「こはく……」
繰り返して嬉しそうに頬を緩める。こんなに愛らしいのに、行動は野生的だった。兎を生で齧る姿は可哀想で、この子をどうにかしてやりたいと思った。育児放棄もいいところだ。煮たり焼いたりすれば、腹を壊す確率も減る。安全を確保したら、煮炊きの方法を教えることにしよう。カタコトの言葉もどうにかしてやりたい。
「おれ、こはく。なによぶ?」
まず自分を示して琥珀と呟き、僕を指差して尋ねるから名前を問うたのだと気づいた。前世の名でいいか。紫藤、そう教えた。それは苗字だが、下の名前は思い出せない。
「しどう、こはく!」
僕を指差し、続いて自分を指さす。にこにこしながら、兎を咀嚼する母猫を示し「にー」と呼んだ。まさか、名前か? 3匹の子猫も勝手に名付けてしまった。左の三毛はナウ、中央の黒猫はクウ、最後の母猫そっくりのぶち猫がラウだ。母猫の名前と共通点はないが、まあいいだろう。どうせ呼ぶのは僕と琥珀くらいだ。
人族はよくわからないが、魔族は名を隠す習性があった。前世の日本での記憶にある鬼や神と同じだ。名を知られることは弱点らしい。だから通称名や響きを変えて発音する。幸いなことに、琥珀は自分の名前が漢字だと知らない。名付け親の僕以外は、彼の名の本当の発音を知らないのだ。
愛らしい顔立ちに似合わぬ短いツノ、これが親に捨てられた原因かも知れない。魔族と人族の間に生まれ、おそらく人族の母親に育てられた。途中でツノが生えたため、魔族と交わった際に生まれた子だと気づいて捨てたのだろう。魔族の子にツノが生えるのは3歳前後だからな。
魔王の頭上で見てきた知識から推測できたのは、気分のいい答えではなかった。
「しどう、たべる?」
要らない。魔力は勝手に回復するし、食事は不要だった。真っ赤な手で兎肉を頬張る琥珀にはっきり答え、今後のことを考える。今日もここで眠るなら、ある程度の備えが必要だ。狼や蛇に襲われたのは、母猫の出入りが目立つという現実がある。人族の領地内は勝手が分からないが、まあ、何とかなるだろ。
僕はこの時点で、琥珀が気に入っていた。言葉が通じないのに魔力を搾取する魔王より、全然いい。今夜は結界を張って眠り、明日は移動するよう伝えた。素直に頷いた琥珀は、覚えたばかりの魔法で結界を築く。またごっそり魔力を抜かれるが、不思議と気分は悪くなかった。
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