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100章 幸せになろう

1379. お色直しの間に乾杯!

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 大公夫人らしく着飾ったアデーレに連れられ、主役の女性達が控室に戻る。本来予定していたカラードレスに着替えるのだ。リリスも、前夜祭で着用しなかった黒いドレスを身に纏う予定だった。

 お色直しは結婚式の華と言い切ったアンナだが、今日は双子を連れて屋台の裏側にいた。というのも、屋台を出店したのがイザヤなのだ。新刊でも発行したのかと許可を出したアスタロトが覗くと、不思議な食べ物が作られていた。

「何ですか、これは」

 以前もたこ焼きを広めた彼らが作っているのは、薄茶色の煮物だ。見た目が非常に地味な色合いだった。

「肉じゃがですね」

 アンナは我が子に離乳食を食べさせながら微笑む。幼子の足元には魔法陣が描かれたシートが敷かれ、魔法で作られた柵が周囲を囲んでいた。幼子自身の魔力によって発動する新型防護柵である。下のシートがあれば、魔獣でも発動可能なので飛ぶように売れていた。

 当然のように便利グッズを手に入れたアンナは、双子を中で遊ばせる。逃げ出してケガをする危険はないし、育児が楽になったと笑った。

「肉じゃが、ですか」

「味見してください」

 イザヤに渡された器の中身を、特に用心するでもなく口に入れる。日本人が過去に持ち込んだ料理はどれも美味しかったし、幸いにして毒は効かないので倒れる心配もなかった。大きな芋を半分に割った。驚くほど簡単に割れ、口に入れるとほろほろ崩れる。甘辛い独特な味に目を見開く。

「これは……美味しいですね」

 周囲で様子を見ていた魔族が一斉に駆け寄り、我先にと受け取る。本日は祝いの宴であるため、すべての料理や酒の代金は魔王城持ちだった。屋台に関しては申請した時点で、必要経費や利益を払い込むシステムだ。お陰で各屋台は気合を入れて大量に料理を持ち込んだ。

 牛や豚の丸焼きを、巨人族の若者が丸ごと齧る。その脇でドワーフはワイン樽に顔を突っ込んで飲み、エルフが甘いフルーツに頬を緩めた。アラクネ達も昆虫食を大量に持ち込み、別種族と交換している。盛り上がる宴会の中央に置かれたテーブルは、華はあるものの男性ばかり並んでいた。

「リリスはまだか」

「魔法陣で着替えるんでしたよね」

「心配だ」

「迎えに行きましょう」

 ルシファーの呟きに、新郎達がこぞって反応する。それぞれの妻となった少女達が主役なのだ。美しい花々が欠けたテーブルは、顔の整った男性が着飾っていても華やかさが足りなかった。

「料理でも食べて、大人しく待っていてください。女性の身支度を邪魔するなど、立派な成人魔族の行いではありません」

 ベールが窘めると、浮かせかけた腰が一斉に椅子に落ち着いた。ルシファーは秘蔵の葡萄酒を樽ごと取り出す。上の蓋を指を鳴らして取り除き、グラスに注いだ。

「ここは乾杯と行こう」

「「はい」」

 それぞれにグラスを受け取る彼らを見て、ルキフェルが大々的に音を鳴らして注目を集める。

「魔王陛下と魔王妃殿下の結婚を祝して! 大公女4人とその夫君の幸せを祈って! 全員グラスを手に注目!!」

 ルキフェルの宣言に、魔族は大慌てでグラスを手にした。近くにあった酒樽や酒瓶がふわりと浮き上がり、空のグラスを満たしていく。収納の応用で作り上げた空間は、他にも仕掛けがされていたらしい。便利な機能にベールが苦笑いした。そんな彼のグラスにも、ルシファーの酒樽からワインが注がれる。

 背に2枚の翼を広げたルシファーが立ち上がる。心得たように、魔族は口を噤んだ。シンと静まった会場に、純白の魔王の言葉が響く。

「祝ってくれてありがとう! 花嫁到着後に改めて祝杯をあげる予定だが、まずは一杯だ。乾杯っ!!」

 グラスを掲げるルシファーに、魔族がグラスを持ち上げた。わっとざわめきが戻り、口々にお祝いを叫ぶ。ぐいっとグラスを空にした彼らは、近くにいる他種族と何やら相談を始めた。
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