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100章 幸せになろう

1376. 種族も肩書きも関係なく共に生きたい

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 普段から暗色の多い大公達は、後見する大公女に合わせた明るい色のローブを纏っていた。アスタロトは義娘の瞳の色で薄灰色、ベルゼビュートは青いドレスに水色のローブを。ルキフェルは緑に金の刺繍が入ったチャイナ風、輝きを抑えた銀に赤い裾飾りを入れたベール。

 全員が髪を半分ほど結い上げ、残りを左右や後ろへ流していた。ベルゼビュートは巻き毛を上で結って揺らす形だ。それぞれに工夫を凝らした後見人は、リングピローを手に控室で盛り上がっていた。

「この指輪、素敵じゃない? 私が用意したのよ」

「僕だって、こないだ仕事で出かけた時にちゃんと石を掘ってきた」

「かなり前に入手した宝石ですが、役に立ってよかったです」

 アスタロトが指輪を届けに出た後、3人はそれぞれに用意した指輪を見せ合う。さすがにルシファーのように宝石から削り出した指輪はなかった。そもそも、指輪の習慣がない魔族である。今回の小説の流行りに便乗した形だが、慌てて調べた彼らは必死に指輪を調達したのだ。

 結婚式が近かったこともあり、細工物を得意とする小人族スプリガンへの発注は不可能だった。すでに受注限界を超えている彼らに無理をさせるわけにいかず、自分達で材料を選んで削り、金属を混ぜて形にする。言葉にすると簡単だが、かなり難しかった。

 作業そのものより、指輪の形に関する知識に不足だ。実は誰も口にしないが、魔王を含む全員が指輪の知識をイザヤに尋ね、合金の配合などをドワーフに相談している。口が堅い彼らのお陰で、互いに相談していた事実を知らなかった。

「アスタロトが戻るから、次は私ね」

 ベルゼビュートがひとつ深呼吸する。正直、自分の結婚式より緊張していた。茶化す者はなく、頑張れと拳を握って見送る。白に近い薄水色のリングピローに、ベルゼビュートはこっそり魔法をかけた。間違って落としたら、指輪を探すのが大変だからだ。本番に弱い自分をよく知っていた。

 グラデーションで下が濃くなる青のドレスを纏い、水色のローブを揺らしたベルゼビュート。踏み出すたびにスリットから白い足と金色の靴が覗く。ルーシアとジンは、すでに舞台に上がっていた。

 ハートのリングピローの上で輝くのは、青い金属製の指輪だった。サイズ調整の魔法陣を裏側に刻んである。中央に細い溝が二本あり、その部分にオリハルコンを流した手の込んだデザインだ。

「結婚おめでとう、幸せになってね」

 微笑んだベルゼビュートは軽く裾を踏むが、何事もなかったように持ちこたえた。ほんの少し浮いて誤魔化したのだ。気づいたのは大公や魔王くらいだろう。額を抑えて笑うベールの横で、ルキフェルが堪えていた。

「彼女らしいですね」

 アスタロトは苦笑いして、ぱちんと指を鳴らした。僅かに起こした風でベルゼビュートの裾を揺らし、足下を隠してしまう。

「風の精霊族ジンは、水の精霊族ルーシアを妻として愛することを誓います。属性や種族の違いを乗り越えて、必ず幸せにするから」

 繋いだ手に力を込めるジンへ微笑み返し、ルーシアは小さく頷いた。顔を上げて、目の前に立つ後見人であり大公のベルゼビュートを見上げる。凛として美しい大公のように、胸を張って生きていく決意を口にした。

「私ルーシアは、愛するジンと命が尽きて風や水に還る日まで……互いを尊重して並んで生きていくことを誓います。これからもずっと、あなたと一緒にいたいわ」

 種族も肩書きもなく、侯爵令嬢の地位も捨てて。大公女であるより先に、ただのルーシアだ。そう宣言して愛を誓った。彼女らしい。ふふっと笑うリリスとルシファーは、祝福の声と拍手を送った。
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