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100章 幸せになろう
1372. 全員後ろへ下がりなさい
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「ここからここまで、全員後ろへ51センチです。早くしなさい」
魔王軍を仕切るベールは、銀髪を緩やかに結った正装姿で言い渡した。その言葉と声の冷たさに、言い訳の余地などない。全員が顔を引き攣らせて後ずさった。かなり調整したはずなのに、進んだ距離はあっさりバレた。
魔王城へじわじわと近づいていた竜族が下がると、後ろで乗じて前進した妖精族が後退する。さらに鉢植えで移動したアルラウネ達が鉢植え2つ分下がった。後ろでも巨人族が無言で半歩後ろに戻っていく。
「今度同じことをしたら、映像投影魔法陣を取り上げますからね」
アスタロトが笑顔で釘を刺し、全員が青い顔で頷いた。逆らう愚を犯す者はいない。あの人はやると言ったら絶対にやる。嫌な方向で有言実行だった。
ベールは肩を竦め、魔王軍の精鋭達を呼び出した。監視要員である。すっと指先で線を引く仕草をして、大地に光る印を残した。
「この線より前にでた者は捕縛してください。貴族でも例外はありません」
「「「はっ」」」
「わかっていますね。ルシファー様のためです」
「「「魔王様に忠誠を!!」」」
陛下と堅苦しい呼び方を厭うルシファーに合わせ、魔王軍では少し砕けた表現で「魔王様」と呼ぶ。せっかくの晴れの日に仕事だが、魔王軍に所属する彼らはこの役目を光栄に思っていた。誰より民を気遣ってきた王の結婚式だ。晴れの舞台を守る機会を与えられたと興奮していた。
きっちり等間隔で並んだ魔王軍の若者達を確認し、ベールは満足げに頷く。まだルシファーの支度やら、進行に必要な仕事が残っているので、羽を広げてひらりと飛んだ。見送った後、アスタロトが苦笑いしながら髪をかき上げた。
まだ支度の途中だった彼は、するりと足元の影に身を滑り込ませる。髪を結い上げ衣装を着替える必要があった。時間短縮のため、魔王城へ一瞬で移動する。大公二人が消えて、魔族達は画像投影用の魔法陣を設置する場所について盛り上がった。
「ここがいいんじゃないか」
「奥の人が見えないんだよね」
「拡大魔法が使えるんじゃない?」
「画質が荒くなったらどうするんだよ」
あれこれ揉めているが、楽しそうだ。食べ物をおく場所、祝いの品を飾る位置。自分達が着飾るより先に、準備を進めた。それから大慌てで着替え始める。飾りの花が足りないと言い出し、リザードマンが隣の精霊達に頼み込む。花を咲かせる精霊に感謝したところで、駆け寄った有鱗族も花を希望した。
あちこちで同様の声が上がり、精霊と妖精族が協力し合って魔法を放つ。見渡す限り花が咲き乱れる庭と化した広場で、お礼に酒や菓子が行き来し始めた。
午前中で準備を終え、お昼の直前から結婚式だ。午後は魔王様と魔王妃様のお披露目があり、各種族を回ってくれる。近くで見られるチャンスだった。そのため、各種族とも趣向を凝らした祝いの品を持ち寄り、花嫁花婿を歓迎する舞台を作る。花はその飾り付けに使われた。
花を手折るのではなく、生えた地面ごと移動させて花の位置を調整する。花や植物も生きている。その考えが根付いている彼らは、魔の森同様に小さな植物も愛した。地面ごと鉢の形にして花を移動させ、ステージを飾って互いに見せ合う。思わぬところで、各種族の交流が行われた。
「そろそろ時間じゃないか?」
見上げた太陽の傾きに、期待を込めた声が上がる。ざわざわと木の葉が揺れるように、魔族の間に興奮が伝わった。
中でも大公女やその婚約者を擁する一族は、興奮度が高い。尊敬してやまぬ魔王ルシファーと魔王妃リリスの記念すべき結婚式に、自分達の親族が結婚するのだから。魔王夫妻に続いて、大公女夫妻も各種族へ顔見せに回る。わくわくする彼らの耳に、待ち侘びた鐘の音が届いた。
魔王軍を仕切るベールは、銀髪を緩やかに結った正装姿で言い渡した。その言葉と声の冷たさに、言い訳の余地などない。全員が顔を引き攣らせて後ずさった。かなり調整したはずなのに、進んだ距離はあっさりバレた。
魔王城へじわじわと近づいていた竜族が下がると、後ろで乗じて前進した妖精族が後退する。さらに鉢植えで移動したアルラウネ達が鉢植え2つ分下がった。後ろでも巨人族が無言で半歩後ろに戻っていく。
「今度同じことをしたら、映像投影魔法陣を取り上げますからね」
アスタロトが笑顔で釘を刺し、全員が青い顔で頷いた。逆らう愚を犯す者はいない。あの人はやると言ったら絶対にやる。嫌な方向で有言実行だった。
ベールは肩を竦め、魔王軍の精鋭達を呼び出した。監視要員である。すっと指先で線を引く仕草をして、大地に光る印を残した。
「この線より前にでた者は捕縛してください。貴族でも例外はありません」
「「「はっ」」」
「わかっていますね。ルシファー様のためです」
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まだ支度の途中だった彼は、するりと足元の影に身を滑り込ませる。髪を結い上げ衣装を着替える必要があった。時間短縮のため、魔王城へ一瞬で移動する。大公二人が消えて、魔族達は画像投影用の魔法陣を設置する場所について盛り上がった。
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あちこちで同様の声が上がり、精霊と妖精族が協力し合って魔法を放つ。見渡す限り花が咲き乱れる庭と化した広場で、お礼に酒や菓子が行き来し始めた。
午前中で準備を終え、お昼の直前から結婚式だ。午後は魔王様と魔王妃様のお披露目があり、各種族を回ってくれる。近くで見られるチャンスだった。そのため、各種族とも趣向を凝らした祝いの品を持ち寄り、花嫁花婿を歓迎する舞台を作る。花はその飾り付けに使われた。
花を手折るのではなく、生えた地面ごと移動させて花の位置を調整する。花や植物も生きている。その考えが根付いている彼らは、魔の森同様に小さな植物も愛した。地面ごと鉢の形にして花を移動させ、ステージを飾って互いに見せ合う。思わぬところで、各種族の交流が行われた。
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