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100章 幸せになろう
1369. 幸せな花嫁という仕上がり
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半分寝ぼけたままお風呂に入り、温めた肌に香油を塗り込まれる。アデーレや他の侍女の手際のよさに、我が侭を口にする暇もなかった。今日は私の支度に全員がかかりっきりになるわけにいかない。リリスもそれは理解していた。
大公女4人の支度がある。各婚約者の支度はコボルトの侍従が担当するとしても、女性の支度や着替えは同性に限られた。何といっても、結婚式の準備なのだ。着付けに関しては、衣装を作ったアラクネが手伝いを申し出た。大きめの部屋を前日用意していたのも知ってる。
潤った肌が柔らかくなった。薔薇のいい香りがするわ。うっとりしながら目を閉じようとしたリリスは、ぐいっと足の裏を強く押された。
「いたっ」
「目が覚めたようで安心しましたわ」
アデーレ、怖い人……。何のツボを押したのかしら。凄い勢いで体に電気が走ったわよ? 驚き過ぎて完全に目が覚めたリリスは、下着を身に纏った状態で朝食を齧る。服を汚せないので、綺麗に包んだパンを頬張った。見ると侍女達も大急ぎで、焼き菓子に似た何かを食べている。口に放り込んだ後、水で流し込むのが不思議だけど。
「それ、美味しそう」
「乾パンですよ」
「非常食です」
他人が食べていると美味しそうに見えるし、何よりリリスは焼き菓子だと思い込んでいた。渡されて口に入れたら、驚くほど硬かった。しかも口の中の水分が吸収されて、ぽそぽそする。
「飲み物を頂戴」
「リリス様、トイレが近くなりますのでコップ一杯だけですよ」
「……はぁ、欲しがったのがいけないのね」
パンだけならコップ一杯で足りたけれど、この乾パンを流し込むのはきつい。アデーレが量を制限した以上、これ以上は貰えない。がくりと肩を落として残りのパンを食べた。林檎の香りがする果実水は、少しレモンが入ってるのかしら。あと蜂蜜も。
ほんのりと甘い口当たりの良さに、もう二杯ほど欲しかった。本格的に着付ける前にトイレに行き、戻ってきたところで薄い絹が巻かれていく。幾重にも重ねたスカート部分がひらひらと風に踊った。それだけ薄い織物なのだ。事前に確認していたが、身に纏えばその軽さに驚いた。
柔らかく曲線を作るスカートの上に、また絹が重ねられた。その間に上半身を補整具が覆っていく。ビスチェが映えるよう、胸を寄せて上げて腰を絞るのだ。
「コルセットにしていただければ楽でしたのに」
ルシファーの反対で、コルセットは全員禁止された。というのも、締め上げすぎて酸欠で気絶するご令嬢が出るのだ。魔族にコルセット禁止令が出されたのは、わずか数年前だった。お陰で、今回はコルセットによる上半身全体の拘束はない。
しかし胸を寄せて上げる必要はあるし、腰を細く見せる努力も必要だった。コルセットより拘束力の弱い補整具が、リリスの腰に巻かれる。ぐいっと絞り、バランスを見ながらリボンを結ぶ。薄いピンクの補整具を着用すると、胸を寄せて上げる準備が始まった。
前屈みになって壁に手をついたリリスの後ろから、アデーレの手が胸元に入り込む。左右の脇肉を寄せて、寄せて、寄せて……内臓まで絞るのか心配になるくらい寄せた。そこから整形しつつ補整具の上に載せる。胸を支える柔らかなクッションの上に載った胸は、普段の倍近くあった。
「すごい! こんなに大きかったの?」
「いいえ。作り物ですわ」
希望をばっさり切り捨てるアデーレは、真剣な顔で作った谷間を覗く。それから左右のバランスを確認し、ようやくビスチェに手を伸ばした。白いビスチェを装着し、後ろをピンクのリボンで編み上げる。本当は銀色だったが、リリスの希望で色を変更していた。
細い紐の編み込みとリボンによる飾り、どちらも解けないよう魔法陣が織り込まれた逸品だ。ここで侍女の大半は席を外した。大公女の着付けの手伝いに向かうのだ。本当はアデーレも義娘ルカの手伝いに行きたいんじゃないかしら。
「ねえ、ルカの着付けに行っていいのよ」
「リリス様が終わったら、髪を結うのは私がする約束なので構いませんわ。それに私にとってはリリス様も、大切な娘同然です」
「あり、がとう」
照れてしまった。黒髪を丁寧に櫛削り、手際よく編んでいく。編んだ部分に銀鎖を絡め、数箇所を髪留めで押さえた。後ろの下の方の黒髪をそのまま垂らし、上部だけ編み上げたスタイルだ。ルシファーが公式行事でも半分ほど編まないので、それに合わせた形だった。
最後にティアラを装着する。リリス専用に作らせたオーダーメイドのティアラは、スプリンガン渾身の力作だった。
「お疲れ様」
「リリス様、お綺麗ですが……まだ化粧が残っております」
え? まだ装うの?! 手際よく化粧を始めたアデーレに任せ、リリスは大人しく目を閉じた。さっき選んだ薔薇はルシファーに届いたかしら。ベルゼビュートに言われ選んだ薔薇は赤と黄色。どちらも私の色よ。
「これで本当に終わりですわ。とてもお綺麗です。幸せな花嫁になってくださいませ」
アデーレの言葉に目を開く。仕上げに胸に留めたコサージュは、白に淡いピンクの筋が入った薔薇だった。鏡に映った己の姿に、リリスは言葉を失う。それからアデーレの言葉に応えるように、ふわりと嬉しそうに笑った。
大公女4人の支度がある。各婚約者の支度はコボルトの侍従が担当するとしても、女性の支度や着替えは同性に限られた。何といっても、結婚式の準備なのだ。着付けに関しては、衣装を作ったアラクネが手伝いを申し出た。大きめの部屋を前日用意していたのも知ってる。
潤った肌が柔らかくなった。薔薇のいい香りがするわ。うっとりしながら目を閉じようとしたリリスは、ぐいっと足の裏を強く押された。
「いたっ」
「目が覚めたようで安心しましたわ」
アデーレ、怖い人……。何のツボを押したのかしら。凄い勢いで体に電気が走ったわよ? 驚き過ぎて完全に目が覚めたリリスは、下着を身に纏った状態で朝食を齧る。服を汚せないので、綺麗に包んだパンを頬張った。見ると侍女達も大急ぎで、焼き菓子に似た何かを食べている。口に放り込んだ後、水で流し込むのが不思議だけど。
「それ、美味しそう」
「乾パンですよ」
「非常食です」
他人が食べていると美味しそうに見えるし、何よりリリスは焼き菓子だと思い込んでいた。渡されて口に入れたら、驚くほど硬かった。しかも口の中の水分が吸収されて、ぽそぽそする。
「飲み物を頂戴」
「リリス様、トイレが近くなりますのでコップ一杯だけですよ」
「……はぁ、欲しがったのがいけないのね」
パンだけならコップ一杯で足りたけれど、この乾パンを流し込むのはきつい。アデーレが量を制限した以上、これ以上は貰えない。がくりと肩を落として残りのパンを食べた。林檎の香りがする果実水は、少しレモンが入ってるのかしら。あと蜂蜜も。
ほんのりと甘い口当たりの良さに、もう二杯ほど欲しかった。本格的に着付ける前にトイレに行き、戻ってきたところで薄い絹が巻かれていく。幾重にも重ねたスカート部分がひらひらと風に踊った。それだけ薄い織物なのだ。事前に確認していたが、身に纏えばその軽さに驚いた。
柔らかく曲線を作るスカートの上に、また絹が重ねられた。その間に上半身を補整具が覆っていく。ビスチェが映えるよう、胸を寄せて上げて腰を絞るのだ。
「コルセットにしていただければ楽でしたのに」
ルシファーの反対で、コルセットは全員禁止された。というのも、締め上げすぎて酸欠で気絶するご令嬢が出るのだ。魔族にコルセット禁止令が出されたのは、わずか数年前だった。お陰で、今回はコルセットによる上半身全体の拘束はない。
しかし胸を寄せて上げる必要はあるし、腰を細く見せる努力も必要だった。コルセットより拘束力の弱い補整具が、リリスの腰に巻かれる。ぐいっと絞り、バランスを見ながらリボンを結ぶ。薄いピンクの補整具を着用すると、胸を寄せて上げる準備が始まった。
前屈みになって壁に手をついたリリスの後ろから、アデーレの手が胸元に入り込む。左右の脇肉を寄せて、寄せて、寄せて……内臓まで絞るのか心配になるくらい寄せた。そこから整形しつつ補整具の上に載せる。胸を支える柔らかなクッションの上に載った胸は、普段の倍近くあった。
「すごい! こんなに大きかったの?」
「いいえ。作り物ですわ」
希望をばっさり切り捨てるアデーレは、真剣な顔で作った谷間を覗く。それから左右のバランスを確認し、ようやくビスチェに手を伸ばした。白いビスチェを装着し、後ろをピンクのリボンで編み上げる。本当は銀色だったが、リリスの希望で色を変更していた。
細い紐の編み込みとリボンによる飾り、どちらも解けないよう魔法陣が織り込まれた逸品だ。ここで侍女の大半は席を外した。大公女の着付けの手伝いに向かうのだ。本当はアデーレも義娘ルカの手伝いに行きたいんじゃないかしら。
「ねえ、ルカの着付けに行っていいのよ」
「リリス様が終わったら、髪を結うのは私がする約束なので構いませんわ。それに私にとってはリリス様も、大切な娘同然です」
「あり、がとう」
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「これで本当に終わりですわ。とてもお綺麗です。幸せな花嫁になってくださいませ」
アデーレの言葉に目を開く。仕上げに胸に留めたコサージュは、白に淡いピンクの筋が入った薔薇だった。鏡に映った己の姿に、リリスは言葉を失う。それからアデーレの言葉に応えるように、ふわりと嬉しそうに笑った。
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