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99章 変化し続ける世界の中で

1361. 準備は最終段階へ――前々日

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 侍従や侍女が右往左往し、大公や応援に駆け付けた貴族も準備に忙しい。そんな魔王城内で、当事者達は顔を突き合わせて相談を重ねていた。

「花火に集中しちゃったわね」

「仕方ありません。大勢で一斉に楽しめて、さらに種族関係ない催しって少ないんですもの」

 各自考えてきた催しが、花火一択になってしまった。これはこれで仕方ない。花火の色や種類を変更する方向で調整が始まった。火薬を纏めてから飛ばすか、上空へ風で舞い上げるか。安全な方法を選びながら詰めていく大公女達は、途中から話がズレ始めた。

「ねえ、リリス様への贈り物出来た?」

「まだ加工中よ」

「本当に今回は杖を新調してないのよね?」

「侍女長のお義母様に確認したから間違いない」

 ひそひそと相談し、誰も見ていないのを確認して杖を取りだす。収納に隠しているのだが、形はかなり整ってきた。それぞれの属性を生かして、使いやすく映える杖を作っている。これがなかなか難しかった。式典用なら見栄え重視で問題ない。だが実用性も考えると、あまり軟弱な杖も困る。

「世界樹の枝を頂いたんだから、材質は完璧よ」

 ルーサルカは自分で交渉してもらい受けた枝を撫でる。ルーシアは水の魔石を作り上げて埋め込むために研磨していた。それを天辺に当ててバランスを確認する。シトリーが美しい羽飾りを取りだすが、まだ作りかけだった。急がないと間に合わない。

 握り部分を削るのはレライエの役割だった。アドキスにも協力を依頼し、かなり磨き上げたがまだ途中だ。ルーサルカもクルミの油を取りだして塗っていく。艶が出るし香りもいい。

「間に合わせないと……」

「でも徹夜はダメよ。目の下に隈が出来るわ」

 大公女達も結婚式を控えた主役である。それぞれに互いの体調や顔色を確認した。とにかく時間がないと嘆き、その間も手を動かし続ける。

「今日は時間があるし、出来たら完成させたいの」

「明日はもう動けないからな」

 レライエが指摘した通り、明日は結婚式前日だ。当然、各地の魔族が一斉に集まってくる。今回は魔法陣で転移できるため、集合は前日に限られた。彼らの誘導の手が足りないので、彼女達も手伝いに出る予定だった。

「手伝いの間に交代で抜けられないかな」

「無理だと思うわ。今のうちに完成させるしかないわね」

 あれこれと案を出し合いながら、手は止めずに杖を仕上げていく。艶やかな杖にルーシアが魔石を固定し、ルーサルカの魔力で内側に飲み込ませた。ぐにゃりと形を変えて異物を飲み込んだ杖は、上から3割ほど水色の魔石を覗かせる。表面を丁寧に磨くレライエが、炎で文字を刻み込んだ。

「よし! 飾りが出来たわ」

 シトリーが鳳凰の羽飾りを完成させ、杖に取り付けた。ちなみに羽の提供者はアラエルとピヨである。炎と風の補助になるだろう。水の魔石があり、土や緑の加護がある世界樹という完璧な組み合わせだった。全員で厳しく出来栄えを確認し、ほっとして表情を緩める。

 結婚式に手にして欲しいから、前日の夜に渡すことにした。喜んでもらえるだろうか。黒髪の愛らしい主君を思い浮かべ、笑顔で互いの健闘を称え合った。それから慌てて花火の相談に戻る。






「うっかり見てしまった」

 これはマズイ。バレる前に逃げよう。彼女達が杖を完成させる少し前に、リリスと通りかかってしまったルシファーは足音を消す。結界で包んで、自分達の音や姿を隠した。

「知らないフリで受け取らなくちゃ」

「ありがとう、と微笑んだら分からないと思うぞ」

「そうね」

 魔力に気づかれないよう気配も遮断して、大急ぎで現場を離れた。姿を現すとアデーレに呼び止められる。

「陛下、リリス様。こちらへいらしてください」

 魔族の出席リストをチェックして欲しいと頼まれ、足早に移動する。謁見の間の最終確認も行わなくてはならない。歩く間に次々と確認事項を伝達され、ルシファーは額を押さえた。

「出席リスト、謁見の間の準備、出し物の時間と……なんだっけ」

「お飾りを出して、挨拶の順番だったわ。あとひとつ……」

 隣で聞いていたリリスも唸る。あとひとつ、何か用事を頼まれたんだが。考えながら足早に入った部屋で、出席者リストに目を通した。この他に爵位を持たない民も来るので、種族名が書かれたリストも確認する。相性の悪い種族が近い席にならないよう分けさせ、承認して廊下に出た。

 次は謁見の間を片付けよう。結婚式まであと2日。忙しさはピークに達していた。
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