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99章 変化し続ける世界の中で

1360. 伝達という最大の懸念払拭――残り3日

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 当日の予定を書いた紙を手に、ベールとアスタロトは真剣に協議を重ねた。分単位のスケジュールを組んでも、あの魔王と魔王妃は台無しにする。そのため大雑把な予定表に、補佐すべき事項を書き込む形で詰められていく。ある意味、主役二人の性格をよく理解していた。

 同時に、後見を務める大公女達の結婚式にも配慮しなくてはならない。彼女らはまだ幼く、婚約者達をある程度教育したとはいえ、不安要素が大きかった。細かく決めた予定表が欲しいと言われたが、それは丸暗記で対応するつもりだろう。

 それ以外にも当日の情報伝達に関する懸念も大きかった。即位記念祭のように、突然ルシファーが自由行動を始めたら大惨事だ。予定など一瞬で崩れてしまう。着飾った正装で、主君を探し回るのはご免だった。

 予定表を作るのは問題ないが、主役二人が自由過ぎる。絶対に予定は崩されるはずだ。その際に、丸暗記では対応できなかった。ざっくりした予定表を渡しても納得しないはず、と唸る。妙なところで悩むベールを探していたルキフェルが、ふらりと顔を見せた。

「予定表で悩んでるの? あのさ、これ使えると思う」

 新しい魔法陣だった。新作披露がてら、採用を促しに来たのだ。

「連絡用ですか?」

 簡単に表面の機能を読み取ったアスタロトが目を瞬く。だがルキフェルは首を横に振った。そんな簡単な機能なら、すでに実用化されている。

「改良版だよ。これを腕とか……今回だと手のひらがいいかな。貼り付けるでしょ」

 説明しながら、ベールの隣に座って彼の手に魔法陣を貼った。促されて手を出したアスタロトの手のひらにも、同様に魔法陣を置く。それからルキフェルは自分の左手のひらにも描いた。右手の指先から魔力を流しつつ「今日のおやつは果物がいい」と呟く。

 その呟きが、アスタロトとベールの手のひらに反映された。じわりと温かくなった手のひらに文字が浮かんで見える。

「これは便利ですね」

「一度握って魔力を流すと消えるよ」

 言われた通りにすると、今度はルキフェルの魔法陣に受信者の名前が表示された。

「ほら、読んだかどうかも確認できるんだよ。便利でしょ? これを結婚式の予定用に使ったらどうかと思って」

 送信者が相手を指定することで、個々にやり取りも可能だった。素晴らしいアイディアだと褒めていると、ぽりぽりと顳を掻いたルキフェルが溜め息を吐く。

「作ったのは僕だけど、考えたのはアベルだ。アンナやイザヤもそうだけど、異世界の日本で使ってた機能なんだって。使いたいから何とかならないか相談されたんだよね」

 驚いた顔をした二人だが、異世界の知識と言われて苦笑いした。使える知識は今後も提供してもらうとして、その分の特許料を支払うために手続きをする。結婚式で使用するため、事前に侍従や侍女達の連絡用として採用することになった。

 多くの人が使った場合も混乱しないか、確認する目的もある。当日に混線したら大騒ぎだろう。二日間のテスト期間を経て、この魔法陣は正式採用されることとなった。

「ところで、おやつは?」

「果物でしたね。梨でよければ、すぐに剥きましょう」

 ベールが黄緑色の果実を取りだす。目を輝かせるルキフェルの目の前で、器用に刃物を操り出した。

「ベール、その剣を使うのはおやめなさい。ルシファー様から賜った宝剣ですよ」

「普段使わないので、たまには……と思いまして。それに自浄や浄化が付属しているので便利なのです」

 ベールはしれっと言い切ったが、浄化機能が余計なのですよとアスタロトは眉を顰めた。眩しい宝剣から目を逸らし、収納から無花果を取りだす。

「あ、アスタロト。それも欲しい」

 強請られたアスタロトがいくつか手渡すと、嗅ぎつけたようにリリスとルシファーが合流した。

「お、うまそうだな。これをやるから分けてくれ」

 芒果と苺を手土産の魔王が席に着く。当然のように膝に座るリリスが目を輝かせた。

「無花果だわ! そういえばベルゼ姉さんがアケビをもってたかも」

 珍しいアケビの登場にルキフェルが喜び、ベルゼビュートと夫エリゴスが召喚されてお茶会は非常に盛り上がった。ついでに新作魔法陣の情報も共有され、テスト期間満了日に関係者全員の手のひらに貼り付けることが承認される。

 予定通りに進まず急遽変更があっても、これで連絡が行き届く。アスタロトは安堵の息を吐いた。結婚式での一番の懸念が消えたのだ。それに伴い、多少の改良が裏で行われるが……事情を知るのは大公達だけであった。
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