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99章 変化し続ける世界の中で
1353. 余計なお節介は逆効果だな
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納品されたティアラを確認し、宝石箱に戻す。当然のように横から伸びるベールの手が受け取った。ベリアルに渡され、管理用の部屋に運ばれる。急がせてしまったので、スプリガン達には報酬を多めに支払った。
「納品待ちは何だ?」
「陛下の剣の飾り紐、リリス様の靴ですね」
身の回りの品はほぼ揃った。靴は明日届けられる予定だし、剣の飾り紐は他にも持っている。問題ないな。緊急事態が起きても間に合う。ほっとした。
ぐったりと椅子に寄りかかるルシファーに、ベールが苦笑いしながらお茶を差し出す。香りのいいハーブティに口をつけ、他の手配品の確認をするベールを見つめた。
「どうなさいました」
書類から目を上げないが、視線には気づいたのだろう。ベールは書類を捌く手を止めずに尋ねる。口うるさく注意するのはアスタロトの方が多いが、ベールも昔から規則や法律にうるさかった。あれこれと注意する役目は、ベールの方が早かったのだ。
「いや、いつもながら助けられてると思って」
「感謝の言葉は不吉なのでご遠慮します。死ぬ時にください」
続けるつもりだった礼は不要、と一刀両断される。ベールの中でどう解釈されているのか分からないが、ルシファーがベールに仰々しく感謝を述べると何かが起きる。騒動に振り回され続けた側近は、すっかりトラウマのようだった。
いつ死ねるかわからないが、その時には遠慮容赦なく感謝を受け取ってもらうぞ。くすくす笑って呟いたルシファーへ、ベールは肩を竦める。淡い銀髪が揺れて、光を弾いた。
「なぁ、ベールは結婚しないのか」
「ご存知でしょう。番はすでに失われました」
それを理由に結婚しないのは知ってる。だけど、ルキフェルを可愛がる姿は親子のようで、微笑ましかった。本当は妻子が欲しいのかと邪推するほどに。数千年たって、成長しないルキフェルを溺愛する姿に、ようやく気づいた。互いに居心地のいい空間を手放したくないのだと。
「ふぅ……そんな顔をなさらないでください。結婚しなくていいのですよ。今の状態で満足していますから」
ルキフェルも同じだろうか。子を成す必要もないのだし、大公同士で結婚してもいいと思う。だけど、さすがに口に出せなかった。踏み込みすぎる。これは互いの領域を土足で侵すに等しい行為だ。
「本当に?」
「ええ。満足しています。もしルキフェルに番が見つかって結婚しても、私の彼への愛情に変化はないでしょう」
嫉妬で相手を攻撃することもなければ、束縛しようとしたり、過剰な愛情を向けることもない。ルキフェルの子どもが生まれたなら、我が子のように愛せるはずです。そう告げるベールに、ルシファーはそれ以上何も言わなかった。
自分で気づいてないんだな。今の顔、とても「そのまま」でいられるようには見えなかったぞ。ルキフェルもそうだが、故意にこの手の話を避けてきた。綺麗に塞がった瘡蓋を剥いだら、傷口が生々しいことを理解しているのだ。
「ただいま、ルシファー! 見て、たくさん摘んできたわ」
「どれ、見せてくれるか」
ノックもなしに入室するリリスは相変わらずで、後ろのルキフェルは肩を竦める。今日は珍しいフルーツが実ったとかで、ルキフェルが大公女やリリスを果物狩りに誘った。その間にこちらは書類や雑務を片付ける算段だ。
「これは立派だ。イフリートに頼んで、デザートに出してもらおう」
「そうね! 行きましょう、ロキちゃん」
入ってきた時の勢いそのまま、元気に出ていくリリスを見送る。ルキフェルがちらりと室内を見て、ベールの横顔をじっくり眺めた。それから扉を閉める。
余計な世話を焼かなくても、勝手に動きそうだ。これは手出し無用だったか。お節介を焼こうとした自分を笑い、ルシファーは残った数十枚の書類に取り組んだ。
「納品待ちは何だ?」
「陛下の剣の飾り紐、リリス様の靴ですね」
身の回りの品はほぼ揃った。靴は明日届けられる予定だし、剣の飾り紐は他にも持っている。問題ないな。緊急事態が起きても間に合う。ほっとした。
ぐったりと椅子に寄りかかるルシファーに、ベールが苦笑いしながらお茶を差し出す。香りのいいハーブティに口をつけ、他の手配品の確認をするベールを見つめた。
「どうなさいました」
書類から目を上げないが、視線には気づいたのだろう。ベールは書類を捌く手を止めずに尋ねる。口うるさく注意するのはアスタロトの方が多いが、ベールも昔から規則や法律にうるさかった。あれこれと注意する役目は、ベールの方が早かったのだ。
「いや、いつもながら助けられてると思って」
「感謝の言葉は不吉なのでご遠慮します。死ぬ時にください」
続けるつもりだった礼は不要、と一刀両断される。ベールの中でどう解釈されているのか分からないが、ルシファーがベールに仰々しく感謝を述べると何かが起きる。騒動に振り回され続けた側近は、すっかりトラウマのようだった。
いつ死ねるかわからないが、その時には遠慮容赦なく感謝を受け取ってもらうぞ。くすくす笑って呟いたルシファーへ、ベールは肩を竦める。淡い銀髪が揺れて、光を弾いた。
「なぁ、ベールは結婚しないのか」
「ご存知でしょう。番はすでに失われました」
それを理由に結婚しないのは知ってる。だけど、ルキフェルを可愛がる姿は親子のようで、微笑ましかった。本当は妻子が欲しいのかと邪推するほどに。数千年たって、成長しないルキフェルを溺愛する姿に、ようやく気づいた。互いに居心地のいい空間を手放したくないのだと。
「ふぅ……そんな顔をなさらないでください。結婚しなくていいのですよ。今の状態で満足していますから」
ルキフェルも同じだろうか。子を成す必要もないのだし、大公同士で結婚してもいいと思う。だけど、さすがに口に出せなかった。踏み込みすぎる。これは互いの領域を土足で侵すに等しい行為だ。
「本当に?」
「ええ。満足しています。もしルキフェルに番が見つかって結婚しても、私の彼への愛情に変化はないでしょう」
嫉妬で相手を攻撃することもなければ、束縛しようとしたり、過剰な愛情を向けることもない。ルキフェルの子どもが生まれたなら、我が子のように愛せるはずです。そう告げるベールに、ルシファーはそれ以上何も言わなかった。
自分で気づいてないんだな。今の顔、とても「そのまま」でいられるようには見えなかったぞ。ルキフェルもそうだが、故意にこの手の話を避けてきた。綺麗に塞がった瘡蓋を剥いだら、傷口が生々しいことを理解しているのだ。
「ただいま、ルシファー! 見て、たくさん摘んできたわ」
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余計な世話を焼かなくても、勝手に動きそうだ。これは手出し無用だったか。お節介を焼こうとした自分を笑い、ルシファーは残った数十枚の書類に取り組んだ。
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