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99章 変化し続ける世界の中で
1350. 初雪に染まる白い季節
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季節が廻り、寒さを増していく。この寒さが消える頃、暖かな日差しの中で結婚式が執り行われる予定だった。
窓の外にちらつく雪を見つけ、ルシファーは手を止めた。己の衣装合わせだが、特に急ぐこともない。今日の予定はこれで終わりだった。
日暮れ前なのに薄暗いと思ったが、これが原因か。曇った灰色の空から、ちらほらと雪が降ってくる。美しい六角形の結晶が窓枠に触れた。僅かな時間で溶ける雪を見守りながら、初雪だと騒ぐ声に気づいた。テラスの扉を少し開くと、冷えた空気が入り込んでくる。
「雪だわ! 綺麗!!」
「もうこんな季節だったのですね」
「だから頭痛がしたのか」
はしゃぐリリスやルーシアをよそに、寒さに弱いレライエは体調が悪そうだ。顳顬を押さえる仕草をみせ、アムドゥスキアスが心配そうに顔を覗き込んだ。ルーサルカは自分のショールを彼女に譲り、シトリーがお茶を用意すると室内に駆けて行った。
出会った当初は心配ばかりだったが、徐々に彼女達も打ち解けて友人関係を築いている。オレと大公達のように心地よい関係になればいい。抱いた願いは、どうやら叶っているようだった。
「温かいスープでも差し入れるか」
ぱたんと扉を閉めて風を遮断し、ふふっと笑いながら振り返って凍り付く。室内は、ある意味外より寒かった。
「陛下、書類を片付けてからになさってください。それと……今の風で書類が散りました」
ベールに厳しく指摘され、苦笑いして手で拾う。すでに署名済みの書類が、未処理の書類を巻き込んで崩れたらしい。風の悪戯というが、本当に厄介だった。署名の有無を確認しながら左右に仕分け、その後分類してまた山を積み直す。
慣れてはいけないのに慣れた作業を淡々とこなし、ルシファーは溜め息を吐いた。リリスのところへ逃げそびれた。お茶の時間くらい同席したかったのだが……ちらりと視線を向けた先で、ベールは書類を確認している。
「その……」
「お茶なら、リリス様とご一緒にどうぞ。私はルキフェルが戻るまで待ちます」
「あ、ああ。そうする」
さっさと部屋を出て廊下を進み、階段を降り始めたところで気づく。もしかして、ベールに気を使われてしまったか。ルシファーがそわそわしていたことも、集中力が切れて休憩を望んだことも、理解していただろう。付き合いが長い分だけ、互いのことを知っている。
今日のルキフェルは設置する自動防御魔法陣のテストに向かい、夜まで戻らないはずだ。近くにいたコボルトに、執務室へお茶を運ぶよう頼んだ。それからリリス達のいる一階で誘いをかけ、彼女達を連れて階段を戻る。
ちょうどお茶を運ぶアデーレと遭遇した。
「よし、行くぞ」
ノックなしで入室したことに小言を貰いながら、お茶を並べてもらう。お茶菓子を持ち込んだ大公女達の期待を裏切れず、ベールは書類処理の手を止めた。これでよし。リリスを膝に座らせ、ご満悦でお茶と温かいスープを引き寄せた。
「リリスはどっちから飲む?」
「スープがいいわ。だって指先が冷えちゃったの」
ぴたっと首筋に冷たい指を当てる彼女に、肩を揺らしたルシファーが慌てて手を包み込む。冷え切った指がほんのり赤い。スープボールに手を添えさせ上から包んだ。温める間に、スープは冷めたらしい。
「ありがとう、ルシファー。飲みましょう」
リリスに促され、ポタージュを味わう。あちこちでほっとした少女達の吐息が漏れ、自然と笑いが溢れた。窓の外の雪はさらに激しく降り始め、落ちてくる粒も大きくなった。
「積もるかしら」
「積もりそうだな」
同時に同じ言葉を発したルシファーとリリスは顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
窓の外にちらつく雪を見つけ、ルシファーは手を止めた。己の衣装合わせだが、特に急ぐこともない。今日の予定はこれで終わりだった。
日暮れ前なのに薄暗いと思ったが、これが原因か。曇った灰色の空から、ちらほらと雪が降ってくる。美しい六角形の結晶が窓枠に触れた。僅かな時間で溶ける雪を見守りながら、初雪だと騒ぐ声に気づいた。テラスの扉を少し開くと、冷えた空気が入り込んでくる。
「雪だわ! 綺麗!!」
「もうこんな季節だったのですね」
「だから頭痛がしたのか」
はしゃぐリリスやルーシアをよそに、寒さに弱いレライエは体調が悪そうだ。顳顬を押さえる仕草をみせ、アムドゥスキアスが心配そうに顔を覗き込んだ。ルーサルカは自分のショールを彼女に譲り、シトリーがお茶を用意すると室内に駆けて行った。
出会った当初は心配ばかりだったが、徐々に彼女達も打ち解けて友人関係を築いている。オレと大公達のように心地よい関係になればいい。抱いた願いは、どうやら叶っているようだった。
「温かいスープでも差し入れるか」
ぱたんと扉を閉めて風を遮断し、ふふっと笑いながら振り返って凍り付く。室内は、ある意味外より寒かった。
「陛下、書類を片付けてからになさってください。それと……今の風で書類が散りました」
ベールに厳しく指摘され、苦笑いして手で拾う。すでに署名済みの書類が、未処理の書類を巻き込んで崩れたらしい。風の悪戯というが、本当に厄介だった。署名の有無を確認しながら左右に仕分け、その後分類してまた山を積み直す。
慣れてはいけないのに慣れた作業を淡々とこなし、ルシファーは溜め息を吐いた。リリスのところへ逃げそびれた。お茶の時間くらい同席したかったのだが……ちらりと視線を向けた先で、ベールは書類を確認している。
「その……」
「お茶なら、リリス様とご一緒にどうぞ。私はルキフェルが戻るまで待ちます」
「あ、ああ。そうする」
さっさと部屋を出て廊下を進み、階段を降り始めたところで気づく。もしかして、ベールに気を使われてしまったか。ルシファーがそわそわしていたことも、集中力が切れて休憩を望んだことも、理解していただろう。付き合いが長い分だけ、互いのことを知っている。
今日のルキフェルは設置する自動防御魔法陣のテストに向かい、夜まで戻らないはずだ。近くにいたコボルトに、執務室へお茶を運ぶよう頼んだ。それからリリス達のいる一階で誘いをかけ、彼女達を連れて階段を戻る。
ちょうどお茶を運ぶアデーレと遭遇した。
「よし、行くぞ」
ノックなしで入室したことに小言を貰いながら、お茶を並べてもらう。お茶菓子を持ち込んだ大公女達の期待を裏切れず、ベールは書類処理の手を止めた。これでよし。リリスを膝に座らせ、ご満悦でお茶と温かいスープを引き寄せた。
「リリスはどっちから飲む?」
「スープがいいわ。だって指先が冷えちゃったの」
ぴたっと首筋に冷たい指を当てる彼女に、肩を揺らしたルシファーが慌てて手を包み込む。冷え切った指がほんのり赤い。スープボールに手を添えさせ上から包んだ。温める間に、スープは冷めたらしい。
「ありがとう、ルシファー。飲みましょう」
リリスに促され、ポタージュを味わう。あちこちでほっとした少女達の吐息が漏れ、自然と笑いが溢れた。窓の外の雪はさらに激しく降り始め、落ちてくる粒も大きくなった。
「積もるかしら」
「積もりそうだな」
同時に同じ言葉を発したルシファーとリリスは顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
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