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97章 世界の裂け目を潰せ
1324. 火のないところも煙だらけ
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大量の煙と匂いを城に充満させた罰として、ルシファーは面倒な作業を押し付けられた。魚の量が少なかったのが原因で、一口食べたいと殺到した人の治療と報告書作りだ。ドミノ倒しが起きてケガ人が出たのは、ルシファーの失態になってしまった。
「えっと、右肘と足首……左右どっちだった?」
「左です!」
「左の足首ねん挫」
隣で書記として大公女達が交互に応対している。中庭の魚はすでに食べ尽くされ、このカルテ作りが終わったら魔王軍を引き連れて、魚捕りが計画された。食べたりないらしい。海は大きいので食べ尽くす心配がないのが救いだ。
リリスも包帯片手に待機するが、使う機会はないぞ。治癒魔法で傷やケガが消えてしまう。視線でそう告げるものの、リリスは「形が大事なの」とよく分からない主張で笑った。まあ端的に言えば、彼女は何もしていないのだ。手は動かさないが、患者と話をするのは好きで楽しそうだった。
「シア、交代して」
ルーサルカとルーシアが交代する。その間にレライエが患者の数を確認した。あと50人ほどだ。それが終われば魚捕りに同行する予定だった。ルシファーの非常識な無限サイズの収納へ、魚を大量に保管する計画だ。食べられずがっかりした民もいたので、魚捕りに異論はない。
「手早く片づけて出かけるとしよう」
早くしないと夕食に間に合わない。空を見上げると、太陽はやや傾いていた。魚捕りと聞いて、並ぶ魔族が協力的になる。今夜は魚焼きパーティーだ。治してもらったデュラハンが、馬の俊足を生かして城下町に出店の要請に向かった。
大公女と被害者の協力もあり、30分ほどで作業は終わった。面倒になったルシファーがまとめて治癒を掛け、痛みがあった場所を自己申告してもらう反則技に出たのだ。バレたら叱られるが、嘘申告する魔族がいないため成立する方法だった。
「よし、魚捕りだ」
サタナキア率いる12人の部隊が同行する。ルシファー、リリス、休暇中のシトリーを除く大公女3人が彼らと魔法陣で海岸へ飛ぶ。空を飛ぶより圧倒的に早いので、時間に制約がある時は便利だった。
「……高さを設定し間違えたか?」
足首まで砂に埋もれたルシファーが唸る。咄嗟に抱き上げたリリスは無事で、すとんと砂の上に降り立った。大公女や魔王軍も足首まで埋まっている。大した深さではないので、すぽんと足を抜いた。数人が慌てて砂の中に手を突っ込み、靴を探して逆さに振っている。
「足首消えたりしてないな?」
「「「平気です(わ)」」」
悲鳴もなかったので大丈夫だと思う。ルシファーは失敗をなかったことにし、海へ向けて魔力を放った。投網のようにして海水をろ過して魚を捕まえる。つぎつぎと海辺へ打ち上げ、大公女や魔王軍の精鋭が拾って積み上げた。
「手がぬるぬるするわ」
「うわっ!」
暴れる魚に苦戦する声が聞こえる。リリスも一緒に魚を拾い、鋭い歯を覗き込んだ。結界のお陰でケガはしないので、本人の好きにさせる。大量の魚を確保したところで、収納へすべて放り込んだ。砂を収納対象から排除することで、収納の中に砂が溜まらない。こうした細工はルシファーの得意技だった。
「じゃあ帰るぞ」
「待って! これも」
リリスの声に振り返ったルーサルカが悲鳴を上げる。
「きゃぁあ! リリス様が襲われて」
「なんだと!?」
慌てて振り返ると、腕を軟体動物に絡まれたリリスがきょとんとした顔で首をかしげる。もごもごと動く赤茶の生き物は、まるで彼女の手を咀嚼しているように見えた。
「痛くないわよ。これ、食べられると思うの」
「いや、無理ではないですか?」
サタナキアが眉を寄せる。食べ物には見えない。どこをどう見てそう判断したのか。だが、大公女達も大きく頷いた。
「もしかしたら小説に出てきた、タコじゃないかしら」
「焼いて食べるのよね」
「塩でぬめりが取れたっけ?」
大公女3人の呟きに、レライエにしがみ付いて震えるアムドゥスキアスが呟いた。それは男性陣の心境を的確に表現するものだ。
「食べられるとしても……化け物」
「えっと、右肘と足首……左右どっちだった?」
「左です!」
「左の足首ねん挫」
隣で書記として大公女達が交互に応対している。中庭の魚はすでに食べ尽くされ、このカルテ作りが終わったら魔王軍を引き連れて、魚捕りが計画された。食べたりないらしい。海は大きいので食べ尽くす心配がないのが救いだ。
リリスも包帯片手に待機するが、使う機会はないぞ。治癒魔法で傷やケガが消えてしまう。視線でそう告げるものの、リリスは「形が大事なの」とよく分からない主張で笑った。まあ端的に言えば、彼女は何もしていないのだ。手は動かさないが、患者と話をするのは好きで楽しそうだった。
「シア、交代して」
ルーサルカとルーシアが交代する。その間にレライエが患者の数を確認した。あと50人ほどだ。それが終われば魚捕りに同行する予定だった。ルシファーの非常識な無限サイズの収納へ、魚を大量に保管する計画だ。食べられずがっかりした民もいたので、魚捕りに異論はない。
「手早く片づけて出かけるとしよう」
早くしないと夕食に間に合わない。空を見上げると、太陽はやや傾いていた。魚捕りと聞いて、並ぶ魔族が協力的になる。今夜は魚焼きパーティーだ。治してもらったデュラハンが、馬の俊足を生かして城下町に出店の要請に向かった。
大公女と被害者の協力もあり、30分ほどで作業は終わった。面倒になったルシファーがまとめて治癒を掛け、痛みがあった場所を自己申告してもらう反則技に出たのだ。バレたら叱られるが、嘘申告する魔族がいないため成立する方法だった。
「よし、魚捕りだ」
サタナキア率いる12人の部隊が同行する。ルシファー、リリス、休暇中のシトリーを除く大公女3人が彼らと魔法陣で海岸へ飛ぶ。空を飛ぶより圧倒的に早いので、時間に制約がある時は便利だった。
「……高さを設定し間違えたか?」
足首まで砂に埋もれたルシファーが唸る。咄嗟に抱き上げたリリスは無事で、すとんと砂の上に降り立った。大公女や魔王軍も足首まで埋まっている。大した深さではないので、すぽんと足を抜いた。数人が慌てて砂の中に手を突っ込み、靴を探して逆さに振っている。
「足首消えたりしてないな?」
「「「平気です(わ)」」」
悲鳴もなかったので大丈夫だと思う。ルシファーは失敗をなかったことにし、海へ向けて魔力を放った。投網のようにして海水をろ過して魚を捕まえる。つぎつぎと海辺へ打ち上げ、大公女や魔王軍の精鋭が拾って積み上げた。
「手がぬるぬるするわ」
「うわっ!」
暴れる魚に苦戦する声が聞こえる。リリスも一緒に魚を拾い、鋭い歯を覗き込んだ。結界のお陰でケガはしないので、本人の好きにさせる。大量の魚を確保したところで、収納へすべて放り込んだ。砂を収納対象から排除することで、収納の中に砂が溜まらない。こうした細工はルシファーの得意技だった。
「じゃあ帰るぞ」
「待って! これも」
リリスの声に振り返ったルーサルカが悲鳴を上げる。
「きゃぁあ! リリス様が襲われて」
「なんだと!?」
慌てて振り返ると、腕を軟体動物に絡まれたリリスがきょとんとした顔で首をかしげる。もごもごと動く赤茶の生き物は、まるで彼女の手を咀嚼しているように見えた。
「痛くないわよ。これ、食べられると思うの」
「いや、無理ではないですか?」
サタナキアが眉を寄せる。食べ物には見えない。どこをどう見てそう判断したのか。だが、大公女達も大きく頷いた。
「もしかしたら小説に出てきた、タコじゃないかしら」
「焼いて食べるのよね」
「塩でぬめりが取れたっけ?」
大公女3人の呟きに、レライエにしがみ付いて震えるアムドゥスキアスが呟いた。それは男性陣の心境を的確に表現するものだ。
「食べられるとしても……化け物」
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