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97章 世界の裂け目を潰せ
1323. 提案は魅力的だった
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異世界人が入った裂け目が徐々に塞がっていく。これでまた落下する心配はないだろう。この場所が成功すれば、次はもっと簡単に効率的に塞ぐことが出来る。改良点を見つけたルシファーが大急ぎでメモを取った。
回路を多少弄ることで、魔力消費量を減らせる。そのメモを受け取ったルキフェルが唸った。見落とした点を指摘され、複雑な心境だが正直ありがたい。
「ありがと」
「この魔法陣の基礎がしっかりしていたから気づいたんだ。素晴らしかったぞ」
褒められて嬉しそうなルキフェルと婚約者の間に入り込み、リリスが楽しそうに笑う。
「ねえ、裂け目を感知するいい方法思いついたわ」
「何かあるのか?」
先を促すルシファーへ、大きな森の木を指さした。
「魔の森の木は、周囲の魔力量に影響されて成長具合が変わるの。歪に感じるほど大きな木が生えてる場所は、怪しいわ」
言われて、彼女が指差した1本の大木を見上げる。確かに立派だ。周辺の木々より5割増しの大きさだった。魔の森は魔力で保たれ、伐られたりして魔力が流出すると強制徴収する。その対象が魔物だったり魔族なので、魔の森を傷つける愚かな魔族はいない。魔の森の危険性を理解せずに伐採するのは、人族くらいだった。
森の木々は一定の大きさまで育つと、今度は枝葉を広げる。それが不自然に上へ伸びるのは、豊富な魔力がある証拠だった。その供給源が、今回のような裂け目である可能性は高い。実際、落ちた異世界人はほとんど魔力を持たないのに、この場所には魔力が滞留していた。
「見分ける方法として、ありかもね」
「不自然に高い木を探すのなら、空から効率的に見渡せる。近づいてから、ルキフェルの感知魔法陣を発動させれば無駄も減るな」
ルシファーの提案に、ルキフェルが頬を緩めた。大公や魔王にとって、魔法陣の一つや二つ、大した疲労もない。しかし現場で動く魔王軍の魔力量はまちまちだった。さまざまな種族が混じった混成部隊なので、当然の結果だ。散らばって動く彼らの効率を考えるなら、リリスの方法も有効だった。
「すぐにマニュアルを作らせよう」
「うん。僕はもう少し魔力量の消費を抑える工夫をしてみるよ」
にこにこするリリスの黒髪を撫でたルキフェルは、大急ぎで城へ戻った。取り残されたルシファーは海水ごと魚を捕まえ始める。
「ルシファー、青いお魚が欲しいわ」
「言っとくけど、食べる用だぞ」
飼うのは無理だ。先に現実を突きつけておく。リリスも「わかってるわ」と頷いた。海水と魚を纏めて収納へ放り込んだルシファーは、リリスを抱き締める。直後、後ろでキンと甲高い音がした。
「矢です」
竜族の若者が、竜化させた腕で矢を弾いた。金属音は鱗に当たった音らしい。ぼっと炎が走るが、この鏃は以前も見たことがある。幸い、竜族は炎に耐性がある個体が多いので、肩を竦めて炎を消した。ケガのひとつもない。
「人族か」
「どうしますか?」
「片付けていいぞ」
この集落は先ほども攻撃する姿勢を見せた。二度目はない。これを許せば、他の魔族が黙っていないだろう。無用な反乱騒ぎを起こされないために、厳しい措置は必要だった。見せしめである。大公と魔王が揃えば、魔族すべてを敵に回しても勝つだろうが、無駄な戦いは好まない。
「躾を任せる」
「承知いたしました」
先に戻ると言い置いて、リリスを腕に抱いたまま転移した。あの集落は魔の森に飲まれる。人がいない場所は火を使わないので、森が海岸線ギリギリまで根を伸ばす。徐々に人が住める範囲が狭まっていくが、自分達の自業自得だと気づいているのか。
まあ、気づかないだろうな。今までの経緯を思い出し、自嘲した。
「ルシファー、お魚焼きましょうよ」
柔らかい笑みでそう告げるリリスは、どこまでルシファーの感情を察しているのか。まったく場を読まない発言のようだが、気を逸らしたいのだ。黒髪を撫でて、上にキスを贈る。
「ああ、折角だから中庭で焼くか」
魅力的な提案をされ、大公女を呼びにいくリリスを見送り、ゆっくり深呼吸する。気持ちを切り替え、いつもの笑みを浮かべた。
回路を多少弄ることで、魔力消費量を減らせる。そのメモを受け取ったルキフェルが唸った。見落とした点を指摘され、複雑な心境だが正直ありがたい。
「ありがと」
「この魔法陣の基礎がしっかりしていたから気づいたんだ。素晴らしかったぞ」
褒められて嬉しそうなルキフェルと婚約者の間に入り込み、リリスが楽しそうに笑う。
「ねえ、裂け目を感知するいい方法思いついたわ」
「何かあるのか?」
先を促すルシファーへ、大きな森の木を指さした。
「魔の森の木は、周囲の魔力量に影響されて成長具合が変わるの。歪に感じるほど大きな木が生えてる場所は、怪しいわ」
言われて、彼女が指差した1本の大木を見上げる。確かに立派だ。周辺の木々より5割増しの大きさだった。魔の森は魔力で保たれ、伐られたりして魔力が流出すると強制徴収する。その対象が魔物だったり魔族なので、魔の森を傷つける愚かな魔族はいない。魔の森の危険性を理解せずに伐採するのは、人族くらいだった。
森の木々は一定の大きさまで育つと、今度は枝葉を広げる。それが不自然に上へ伸びるのは、豊富な魔力がある証拠だった。その供給源が、今回のような裂け目である可能性は高い。実際、落ちた異世界人はほとんど魔力を持たないのに、この場所には魔力が滞留していた。
「見分ける方法として、ありかもね」
「不自然に高い木を探すのなら、空から効率的に見渡せる。近づいてから、ルキフェルの感知魔法陣を発動させれば無駄も減るな」
ルシファーの提案に、ルキフェルが頬を緩めた。大公や魔王にとって、魔法陣の一つや二つ、大した疲労もない。しかし現場で動く魔王軍の魔力量はまちまちだった。さまざまな種族が混じった混成部隊なので、当然の結果だ。散らばって動く彼らの効率を考えるなら、リリスの方法も有効だった。
「すぐにマニュアルを作らせよう」
「うん。僕はもう少し魔力量の消費を抑える工夫をしてみるよ」
にこにこするリリスの黒髪を撫でたルキフェルは、大急ぎで城へ戻った。取り残されたルシファーは海水ごと魚を捕まえ始める。
「ルシファー、青いお魚が欲しいわ」
「言っとくけど、食べる用だぞ」
飼うのは無理だ。先に現実を突きつけておく。リリスも「わかってるわ」と頷いた。海水と魚を纏めて収納へ放り込んだルシファーは、リリスを抱き締める。直後、後ろでキンと甲高い音がした。
「矢です」
竜族の若者が、竜化させた腕で矢を弾いた。金属音は鱗に当たった音らしい。ぼっと炎が走るが、この鏃は以前も見たことがある。幸い、竜族は炎に耐性がある個体が多いので、肩を竦めて炎を消した。ケガのひとつもない。
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