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96章 迷探偵は魔王城に住んでいる
1310. 南下するエリゴスを追え
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隣に現れた瞬間、結界が剣を弾く。転移直後に気づいたが、結界があるので静観した魔王は愛しいリリスを抱き締めて守った。キンと甲高い音がして、直後にはサタナキアの剣がベルゼビュートの鼻先に向けられる。
「陛下、ご無事であらせられるか」
「あらせられるけど……どうした、ベルゼ?」
「も、申し訳ございません。我が君に攻撃するなど、お詫びしようもございません」
真っ赤な顔で怒りを滲ませた彼女の顔色が、驚く早さで青褪める。勘違いして攻撃したのは理解しているし、別に責める気はないのだが……ルシファーが口にするより先に剣を背中に隠して膝を突いた。忠義心の強いベルゼビュートらしい。問題は、隣にエリゴスがいないことだ。
「それはいいが、エリゴスはどこだ」
「……っ、人族に奪われました」
「「は?」」
一斉に後ろの竜族の騎士や将軍が間抜けな声を上げる。そのくらい考えにくい状況だった。あの精霊女王が一緒にいて、夫を奪われたのか? どれほどの強者が出てきたのかと、慌てて周囲を警戒する。集まった人族の者らにそれほどの実力者がいるとは思えない。ただの農民のようだった。
「この、農民に、か?」
「いいえ。お話の前に失礼いたします」
驚きながらも尋ねたルシファーへ、ベルゼビュートは首を横に振った。ひとつ息を吐き出すと、目の前の人族を一瞬で片付ける。集落の半数近くは逃げた後だろう。残った男達の首を刎ねたベルゼビュートは、愛用の剣の血を拭い鞘に収めた。
別に殺さなくて構わないのだが、話を聞かれたくないのと人族への嫌悪感だった。主君を付け狙い、害虫のごとく増え続け、挙句が夫を連れ去ったのだ。腹が立たないわけがない。直接の関係者でなくても、同じ種族という事実だけで憎悪の対象だった。
転がる首と死体に眉を顰める魔族は誰もいない。リリスだけが少しだけぼやいた。
「ベルゼ姉さんの馬鹿、血が飛んだじゃない」
黒い靴の先に赤い血が付いており、苦笑いしたルシファーが浄化で消し去る。サタナキアの部隊は竜族が中心なので、間違えて吸血種に影響を与える心配もなかった。ついでに汚れたベルゼビュートの手足や髪を綺麗にしてやる。
「連れ去られたのは人族相手で間違いないのか?」
「はい、精霊から連絡を受けた際に聞きました」
精霊自体は嘘をつく概念がない。精霊女王となったベルゼビュートは自我が発達したため、他の魔族と同じように振舞う。だが精霊はふわふわとした力の集合体だった。精霊族のように精霊の力を宿した別種族ではない。ベルゼビュートの眷属である以上、主君に偽りを告げる必要もなかった。
「ならば探そう」
「魔力を辿ったら、この村でしたの」
だからエリゴスを返すように命じた。しかし彼らは知らないと口にし、ベルゼビュートを追い返そうとしたのだ。ケンカになるのも頷ける状況だった。ルシファーもエリゴスの魔力を辿ってみるが、もう少し先に移動しているようだ。目を閉じて計測した結果、ゆっくりと南下している。
「南へ移動しているぞ?」
「なんですって! 急がなくちゃ」
「慌てるな。手伝うから、落ち着け」
魔力を感じるなら命はある。転移先を彼の魔力ではなく、すぐ近くに設定した。それから魔法陣を描き、ぽんと飛ぶ。ベルゼビュートは自力で追いかけた。生きている者がいなくなった集落に、精霊が怒りの感情を向ける。
主を傷つけた人が住まう場所……怒りは風を呼び、風は嵐を起こす。海水を含めた水が舞い上がり、風により崩壊した建物を流した。何もない更地になった土地の上に、新たな芽が顔を出す。魔の森の木々の芽だ。一瞬で人の背丈ほどに成長し、葉を揺らした。
ここにはもう、人の住んでいた形跡は欠片もなかった。
「陛下、ご無事であらせられるか」
「あらせられるけど……どうした、ベルゼ?」
「も、申し訳ございません。我が君に攻撃するなど、お詫びしようもございません」
真っ赤な顔で怒りを滲ませた彼女の顔色が、驚く早さで青褪める。勘違いして攻撃したのは理解しているし、別に責める気はないのだが……ルシファーが口にするより先に剣を背中に隠して膝を突いた。忠義心の強いベルゼビュートらしい。問題は、隣にエリゴスがいないことだ。
「それはいいが、エリゴスはどこだ」
「……っ、人族に奪われました」
「「は?」」
一斉に後ろの竜族の騎士や将軍が間抜けな声を上げる。そのくらい考えにくい状況だった。あの精霊女王が一緒にいて、夫を奪われたのか? どれほどの強者が出てきたのかと、慌てて周囲を警戒する。集まった人族の者らにそれほどの実力者がいるとは思えない。ただの農民のようだった。
「この、農民に、か?」
「いいえ。お話の前に失礼いたします」
驚きながらも尋ねたルシファーへ、ベルゼビュートは首を横に振った。ひとつ息を吐き出すと、目の前の人族を一瞬で片付ける。集落の半数近くは逃げた後だろう。残った男達の首を刎ねたベルゼビュートは、愛用の剣の血を拭い鞘に収めた。
別に殺さなくて構わないのだが、話を聞かれたくないのと人族への嫌悪感だった。主君を付け狙い、害虫のごとく増え続け、挙句が夫を連れ去ったのだ。腹が立たないわけがない。直接の関係者でなくても、同じ種族という事実だけで憎悪の対象だった。
転がる首と死体に眉を顰める魔族は誰もいない。リリスだけが少しだけぼやいた。
「ベルゼ姉さんの馬鹿、血が飛んだじゃない」
黒い靴の先に赤い血が付いており、苦笑いしたルシファーが浄化で消し去る。サタナキアの部隊は竜族が中心なので、間違えて吸血種に影響を与える心配もなかった。ついでに汚れたベルゼビュートの手足や髪を綺麗にしてやる。
「連れ去られたのは人族相手で間違いないのか?」
「はい、精霊から連絡を受けた際に聞きました」
精霊自体は嘘をつく概念がない。精霊女王となったベルゼビュートは自我が発達したため、他の魔族と同じように振舞う。だが精霊はふわふわとした力の集合体だった。精霊族のように精霊の力を宿した別種族ではない。ベルゼビュートの眷属である以上、主君に偽りを告げる必要もなかった。
「ならば探そう」
「魔力を辿ったら、この村でしたの」
だからエリゴスを返すように命じた。しかし彼らは知らないと口にし、ベルゼビュートを追い返そうとしたのだ。ケンカになるのも頷ける状況だった。ルシファーもエリゴスの魔力を辿ってみるが、もう少し先に移動しているようだ。目を閉じて計測した結果、ゆっくりと南下している。
「南へ移動しているぞ?」
「なんですって! 急がなくちゃ」
「慌てるな。手伝うから、落ち着け」
魔力を感じるなら命はある。転移先を彼の魔力ではなく、すぐ近くに設定した。それから魔法陣を描き、ぽんと飛ぶ。ベルゼビュートは自力で追いかけた。生きている者がいなくなった集落に、精霊が怒りの感情を向ける。
主を傷つけた人が住まう場所……怒りは風を呼び、風は嵐を起こす。海水を含めた水が舞い上がり、風により崩壊した建物を流した。何もない更地になった土地の上に、新たな芽が顔を出す。魔の森の木々の芽だ。一瞬で人の背丈ほどに成長し、葉を揺らした。
ここにはもう、人の住んでいた形跡は欠片もなかった。
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