上 下
1,314 / 1,397
96章 迷探偵は魔王城に住んでいる

1309. 危険を察知する能力は高い

しおりを挟む
「陛下は謎解きをすっかりお忘れのようですが……」

 執務室で処理を終えた書類を積み重ね、丁寧に分類したベールがぼやく。一緒に署名を手伝ったルキフェルが、げらげら笑いだした。

「あはっ、あれは完全に忘れてるよ。殺害予告なんて、あの人にしたら日常だもん」

 かつて勇者やら人族の都から嫌がらせのように、殺害予告をされ続けた立場を考えれば納得できる。見知らぬ者が書いた手紙一枚、記憶にすら残らないだろう。名乗りもしない無礼者の文章であっても、リリス宛と分かった途端にキレたが。

「そっちの謎は僕らで解くしかないと思う」

「仕方ありません。サタナキアが留守にする間、別の部隊を呼び寄せて調査させましょうか」

「僕はベールと動きたいな」

 普段は研究所に籠ることを優先する養い子の発言に、ベールの機嫌は急上昇する。血圧も危険なくらい上がっただろう。青い瞳を輝かせて頷いた。

「ええ、私もルキフェルと調査出来れば最高です」

「うん、頑張ろう」

 忘れてるルシファーに答えを突きつけてやる! よく分からない闘志を燃やすルキフェルの水色の髪を撫でながら、ベールは口元を緩めた。

「ではそちらはお任せしますよ。私は人族が落ちてくる迷惑な穴を塞ぐ手段を考えますから」

 にやりと笑う吸血鬼王の残虐さを隠さない様子は、慣れていても背筋が凍る。ルキフェルは自分の周囲に無意識に結界を張り、さり気なくベールを一緒に守った。気づいたベールはルキフェルの心遣いに笑みを深める。カオスな状況を破ったのは、空気を読まない青い鳥だった。

「ママいるぅ?」

「いません!」

 窓を突き破って乱入したピヨを摘まみ、ぽいっと外へ捨てる。すっと窓の下を横切ったアラエルが拾い、謝罪しながら飛んで行った。番の面倒くらいちゃんと見て欲しいですね。恐ろしい笑顔でぼそっと追撃され、アラエルは全力で逃げた。強者分類の鳳凰といえど、絶対に勝てない相手に立ち向かう蛮勇はない。

 必死で魔王城脱出を図る休暇中のアラエルを見上げながら、ルシファーは転移の準備をしていた。リリスの今日の装いは、キュロットにブラウスだ。軽装がいいと主張したので、膝丈のキュロットだった。上に巻きスカート部分があるため、一見するとスカートである。ブラウスは白に赤いリボンを、キュロットはピンクを採用した。靴下をレースのクリーム色にして膝まで覆う。

 黒い靴は先端が丸く、足首部分でストラップで留める形状だった。歩きやすく、躓きにくい。あれこれ褒めたり宥めたりしながらヒールを諦めさせた、ルシファーの努力の賜物だった。

「アラエルはどうしたんだ?」

「ピヨもいたわ」

 顔を見合わせて、今鳳凰が飛び立った部屋の位置を確認する。テラスに立つ金髪の青年に顔を引き攣らせた。どうやら怒らせてはいけない人に、ピヨがケンカを売ったらしい。アラエルが自らそんな愚行をするとは考えられず、原因はピヨだと頷き合う。

「さっさと出かけよう」(巻き込まれないうちに)

「そうね、急ぎましょう」(危険だわ)

 互いの言葉に重なる副音声に苦笑するサタナキアが指揮する5人とヤン、イポス。護衛は全員揃っている。ルシファーはすぐに転移魔法陣を描いた。ぱちんと指を鳴らして飛ぶ。

 海辺にある人族の集落が見渡せる山の中腹で、予想外の先客に眉を寄せた。

「なんでベルゼがいるんだ?」

「あらほんと、姉さんたら何をしてるのかしら」

 崖になった地点から見下ろす地上の人族は、爪の先ほどの大きさだ。通常なら判別つかないサイズだが、あのピンクの巻毛は間違いない。あの色をもつのは精霊女王のみなのだから。見慣れた色を見間違えたことはない。

「ひとまず、降りてみるか」

 状況が分からないのに議論しても始まらない。リリスとしっかり手を繋いで、護衛を連れた魔王はベルゼビュートを終点に転移した。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?! 異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。 #日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/08/13……完結 2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位 2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位 2024/07/01……連載開始

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...