1,312 / 1,397
96章 迷探偵は魔王城に住んでいる
1307. 緊急会議は雑談がいっぱい
しおりを挟む
予想外の話を聞いたことで、アスタロトが緊急事態会議を招集した。これは重要な会議の場合のみで、魔王以外に大公がそれぞれ招集を掛けられる。魔王の執務室に集まった人数は5人、そこでベールが首を傾げた。
「リリス様がおられるのはなぜですか」
「魔王妃なんだから当然だろう」
ルシファーが胸を張って答える。正式にはまだ魔王妃ではないので、参加の義務はない。参加を拒む理由もないのでそれ以上追及しなかった。
「ベルゼビュートはどうしました? また遅刻ですか」
眉を寄せるアスタロトへ、ルシファーが肩を竦めて擁護した。
「いや、オレの独断で省いた。可哀想だろ、まだ休暇中だ。8万年独身だったんだぞ。18回も結婚したお前には分からないかも知れないが」
「ええ、わかりませんね。そういうルシファー様は彼女の気持ちがよく理解できているようですし」
にやりと笑う。なぜか足首がひやりとした。あれだ、悪い言質を取られた時のような寒気が襲う。ぶるりと身を震わせたルシファーは、思わず結界を確認してしまった。破られたわけじゃない、心理的な効果だろう。弱みを握られたような居心地の悪さに目を逸らした。
「研究の途中だから早くしてよ」
イライラした様子のルキフェルが先を促す。いつもそうだが、緊急会議なのに雑談が多過ぎるのだ。慌てて居住まいを正すルシファーの膝で、リリスは兎のぬいぐるみを抱き締めた。見た目は非情に愛らしいが、会議の緊張感とそぐわない。
「まあいいでしょう。今回の人族の増加についてですが、日本人のイザヤから思わぬ見解を示されました。以前に巨大な亀スッポンが落下した事件を覚えていますね?」
全員が頷く。だが気持ちはそれぞれ違っていた。あの甲羅は素晴らしかった、と研究材料を思い浮かべたルキフェル。攻撃が効かなかったことを遺憾に思うベールは眉間に皺をよせ、ルシファーは亀を食べようと群がった女性の剣幕が浮かんだ。リリスは「美味しかったわ」と率直に感想を述べる。
「スッポンは異世界からの落下物であり、空間に裂け目が出来たことが原因でした。あの際に鱗を持つ有鱗族も一緒にこの世界に来たのですが……今回の人族も同じことが起きたのではないかと考えています」
「いや、スッポンは見てないぞ」
「私、お鍋がいいわ」
ルシファーとリリスの言葉はスルーされ、水色の髪をぐしゃりと乱したルキフェルが唸る。
「世界同士の境目が曖昧になったってこと?」
「そういえば、人族を殲滅する少し前に武器を持った者が出現し、リザードマンを傷つけた事件がありました」
ルキフェルの仮説に、ベールが材料を提示していく。本来会議とはこうあるべきで、魔王と魔王妃になる少女の対応は間違っていた。アスタロトは指摘するのも面倒だと、他の大公達と話を詰める。武器を持った人族は、アベル達の世界と環境が近かったらしい。
今回現れた人族が外の世界から来たとしたら、新たに裂け目が出来た可能性が高い。まずは裂け目を探すことから始めることにした。話が一段落したところでアスタロトが振り返ると、リリスとルシファーが地図を眺めている。
「会議に参加せず何を……え?」
「ここだ。この辺りで変な気配がする」
「わかるわ。私はここだと思うの」
人族の僅かな生き残りが住む海岸付近を指さす2人は頷きあい、アスタロトに宣言した。
「明日、ちょっと様子を見てくる」
「大丈夫よ、魔の森に守ってもらうから。いざとなったら森の領域に飛び込めばいいんだもの」
すでに決定事項として口にされた内容に、アスタロトが肩を落とす。折角魔王ルシファーとリリスを魔王城に閉じ込めていたのに、出掛けられては台無しだ。
「私が行ってきますので、留守を守ってください」
「「いやだ(よ)」」
即答され、強引に押し切られることとなった。
「リリス様がおられるのはなぜですか」
「魔王妃なんだから当然だろう」
ルシファーが胸を張って答える。正式にはまだ魔王妃ではないので、参加の義務はない。参加を拒む理由もないのでそれ以上追及しなかった。
「ベルゼビュートはどうしました? また遅刻ですか」
眉を寄せるアスタロトへ、ルシファーが肩を竦めて擁護した。
「いや、オレの独断で省いた。可哀想だろ、まだ休暇中だ。8万年独身だったんだぞ。18回も結婚したお前には分からないかも知れないが」
「ええ、わかりませんね。そういうルシファー様は彼女の気持ちがよく理解できているようですし」
にやりと笑う。なぜか足首がひやりとした。あれだ、悪い言質を取られた時のような寒気が襲う。ぶるりと身を震わせたルシファーは、思わず結界を確認してしまった。破られたわけじゃない、心理的な効果だろう。弱みを握られたような居心地の悪さに目を逸らした。
「研究の途中だから早くしてよ」
イライラした様子のルキフェルが先を促す。いつもそうだが、緊急会議なのに雑談が多過ぎるのだ。慌てて居住まいを正すルシファーの膝で、リリスは兎のぬいぐるみを抱き締めた。見た目は非情に愛らしいが、会議の緊張感とそぐわない。
「まあいいでしょう。今回の人族の増加についてですが、日本人のイザヤから思わぬ見解を示されました。以前に巨大な亀スッポンが落下した事件を覚えていますね?」
全員が頷く。だが気持ちはそれぞれ違っていた。あの甲羅は素晴らしかった、と研究材料を思い浮かべたルキフェル。攻撃が効かなかったことを遺憾に思うベールは眉間に皺をよせ、ルシファーは亀を食べようと群がった女性の剣幕が浮かんだ。リリスは「美味しかったわ」と率直に感想を述べる。
「スッポンは異世界からの落下物であり、空間に裂け目が出来たことが原因でした。あの際に鱗を持つ有鱗族も一緒にこの世界に来たのですが……今回の人族も同じことが起きたのではないかと考えています」
「いや、スッポンは見てないぞ」
「私、お鍋がいいわ」
ルシファーとリリスの言葉はスルーされ、水色の髪をぐしゃりと乱したルキフェルが唸る。
「世界同士の境目が曖昧になったってこと?」
「そういえば、人族を殲滅する少し前に武器を持った者が出現し、リザードマンを傷つけた事件がありました」
ルキフェルの仮説に、ベールが材料を提示していく。本来会議とはこうあるべきで、魔王と魔王妃になる少女の対応は間違っていた。アスタロトは指摘するのも面倒だと、他の大公達と話を詰める。武器を持った人族は、アベル達の世界と環境が近かったらしい。
今回現れた人族が外の世界から来たとしたら、新たに裂け目が出来た可能性が高い。まずは裂け目を探すことから始めることにした。話が一段落したところでアスタロトが振り返ると、リリスとルシファーが地図を眺めている。
「会議に参加せず何を……え?」
「ここだ。この辺りで変な気配がする」
「わかるわ。私はここだと思うの」
人族の僅かな生き残りが住む海岸付近を指さす2人は頷きあい、アスタロトに宣言した。
「明日、ちょっと様子を見てくる」
「大丈夫よ、魔の森に守ってもらうから。いざとなったら森の領域に飛び込めばいいんだもの」
すでに決定事項として口にされた内容に、アスタロトが肩を落とす。折角魔王ルシファーとリリスを魔王城に閉じ込めていたのに、出掛けられては台無しだ。
「私が行ってきますので、留守を守ってください」
「「いやだ(よ)」」
即答され、強引に押し切られることとなった。
20
お気に入りに追加
5,069
あなたにおすすめの小説
魔王様、逃がすわけないでしょう?
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「あの人はどこに逃げやがりましたか」
怒りを滲ませて、私アスタロトは魔王を捜しまくる。毎日懲りることなく、仕事を放り出して単独で出歩く魔王ルシファー様を追いかけた。
魔王即位から千年余り。魔王の地位を争った実力者は、全員、ルシファー様の部下となった。魔王を支える大公の地位を得て、ベールやベルゼビュートと並び称される私は彼の補佐官をしている。
実力はあるが、どこか抜けている主君は今日も騒動を引き寄せる。後始末ばかり押し付けて、あなたという人は! 捕まえて、今日こそ反省していただきます。
※魔王様シリーズの最新話ですが、時間軸は初期になります。外伝に近い形で、主役はアスタロトです。リリスやルキフェルは出てきません。単独で楽しめるよう頑張ります(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2025/03/14……エブリスタ、トレンド1位
2025/03/13……連載開始

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる