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93章 大規模視察、留守番は誰

1265. 増えた仕事の分担先は

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 新種が増えたと同時に、いくつかの種族が滅びた。子が産まれないまま最後のメスが死んだ魔獣種や、植物系の魔族が報告される。新種の数が多くてかすむが、彼らも魔族として記録が残される。いつか人狼のように蘇りの対象になる可能性があった。

 この辺は感情を抑えて事務的に作業する魔王と大公達だったが、お茶を運んできたアデーレが入り口で溜め息を吐く。

「雰囲気が暗いですわ。少し休憩されてはいかがです?」

 ずっと仕事をしているのでしょう。そう指摘され、遅れてきたり寝ていた大公もいるものの、半数以上は仕事し続けて疲れた手を止めた。基本的に魔力で体力を補うため、夢中になると寝食を蔑ろにする傾向が強い。普段サボる分だけ、集中したら止まらないのがルシファーだった。

 用意されたお茶を飲み、軽食を口に入れる。そこから今度は備蓄量の話に逸れていった。

「備蓄はまだ十分ですが、新しく集め始める時期を決めておいた方がいいでしょうね。突然、徴収と言われても調整が出来ません」

 現時点で、植物に魔力が満ち始めている。魔の森が眠る前に放出している魔力が落ち着けば、数十年を待たずに備蓄する穀物の調整が可能だった。ルキフェルも首を突っ込み、アスタロトと真剣に計算を始める。横でぱっと算出した数字を突き出し、ベルゼビュートが笑った。

「再来年から集めても問題ないわ。ほら」

 覗いた計算結果の文字をアスタロトが解読し始める。相変わらず汚い文字だが、これが覚書レベルになるとさらに乱れた。ようやく内容を理解したアスタロトが、穀物の徴収時期を決めた申請書類を作成する。その脇で、ルキフェルは別の書類を引っ張り出した。

「これ、どうしよう」

 覗き込んだベールが唸る。領地の配置図だ。新しく編入される人族の領地があった場所は、もう魔の森の領域となった。そのため魔族を配置できるのだが……すでに慣れた領地を離れたくないと申し出る種族もいる。魔獣などは新しい領地に興味があるようで、移住する準備を進める一族も出ていた。

「希望重視で一度地図を描き直し、その上で重なる部分を調整するのが早いだろう」

 後ろから声を掛けるルシファーも、手元に地図を開いている。同じ問題を考えていたらしい。するとリリスが目を輝かせた。

「ねえ、こういう調整ってルカ達もできないかしら」

 大公女達にも仕事を振り分けたらいいわ。リリスの提案に、少し考えた後でベールが頷いた。

「ええ、経験は机上では身に付きません。魔王妃殿下の側近となる以上、種族間の調停は出来ないと困ります。他種族を知るいい機会にもなりますから」

「ですが危険です」

 義娘を心配するアスタロトの発言ももっともだ。気の短い種族もいるし、大公女の存在自体を軽んじる者がいるかも知れない。興奮した状態で割って入れば、ケガをする可能性もあった。

「簡単よ、魔王軍から護衛を頼めばいいの。私やルシファーが外出する時と同じじゃない」

 リリスが思わぬ提案をし、少し検討段階で揉めたものの……最終的にその案が受け入れられた。アスタロトも心配ではあるが、ルカの可能性を潰したいわけではない。ルキフェル開発の、緊急転移魔法陣を持たせることで納得した。

 各種族の領地を魔王城と繋ぐ計画の一環として、どこにいても魔王城に強制的に転移する魔法陣を開発したのだ。それを大公女一人ずつに持たせ、危険が迫れば僅かな魔力で転移して逃げられるよう手配した。さらなる安全対策を検討しつつ、この場では承認となる。しばらく、大公女達は忙しく飛び回ることだろう。

「さて、リリスは何をお望みだ?」

 くすくす笑いながらルシファーが首を傾げる。まだ十数年の付き合いだが、彼女が生まれてから一緒にいたのだ。大公女の案を通したついでに、何か望んでいるのだと気づいた。さらりと流れた純白の髪を掴んだリリスは、満面の笑みで希望を告げる。

「私も一緒に出掛けたいの」
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