1,239 / 1,397
90章 臆病な精霊女王の恋愛事情
1234. 驚き過ぎて失礼な反応
しおりを挟む
婚約が調ったと報告した途端、あんぐりと顎が外れそうなほど驚いたベールの横で、ルキフェルが研究用のビーカーを落とした。得体の知れない紫の煙が出る緑のネバネバが床に染みこんでいく。
「ルキフェル、それ……危険はないのか?」
「安心して。床が溶けるくらいだよ。それより、本当なの? あのベルゼビュートが婚約!? 本当に絶対? 嘘じゃなくて?」
そんなに確認するほど異常事態だろうか。ぽかんと口を開けたベールの顔を見ながら、首を傾げる。失礼なほど驚くベールの足元を、緑のネバネバが逃げていった。あれは生き物だったのか。
「ルキフェル、逃げてるぞ」
「うん、捕まえるけど。ベルゼビュートの婚約の衝撃が凄すぎて、どうでもよくなるよね」
「ロキちゃん、緑のが何か飲み込んでるわ」
うろちょろするネズミを捕まえて襲い掛かるネバネバに、リリスが目を見開く。ああ、うんと答えながらルキフェルは素手でネバネバを回収した。ビーカーに流し入れようとするが、ネズミが引っ掛かって入らない。ようやく我に返ったベールが悲鳴を上げた。
「ルキフェルっ! その溶解生物が手に!?」
もごもごとネズミを咀嚼する姿が、まるでルキフェルの手を食べているように見えたらしい。ベールの一撃でネバネバはビーカーに逃げ込んだ。炎が弱点らしい。鳳凰の炎も操るベールの高温攻撃により、得体の知れない液状生物の脱走騒動は収束しそうだ。
もそもそと怯えた様子を見せる液状生物を見つめる魔王とリリスをよそに、ベール達はひそひそと衝撃の事実を確認し合った。
「いま、幻聴が聞こえましたが……」
「僕も夢かと思ったけど、本当らしいよ。あのベルゼビュートが嫁に行くって」
「ルキフェル、嘘はいけません」
「僕だって信じられないよ。だけどさ、現実を見ようよ」
いい加減失礼なのではないだろうか。苦笑いしたルシファーが窘めようと口を開くより早く、アスタロトが駆け込んできた。
「大変です。天変地異の前触れです! 早く何らかの対策を取らないと……まずは民の魔王城への避難を誘導し、それから」
「何があったか、説明しろ」
ルシファーの表情が引き締まる。民に危険が及ぶ天変地異の前触れとあれば、ルシファー自身も表に出て対応しなくてはならない。きりりと表情を引き締めたのはリリスも同様だった。
「あのベルゼビュートが求婚されて頷いたとか、もし事実なら世界が崩壊するかもしれません」
「いやいや、お前達は彼女を何だと思ってるんだ。目の前で見てきたが仲睦まじいし、相手もなかなかの好青年だったぞ」
魔獣になるとメスだけど、それは不要な情報なので省く。絶対に現状で混乱を招く追加情報だからだ。リリスがムッとした顔で腰に手を当てて怒り出した。
「もう! 姉さんの幸せをどうして素直に喜んであげられないのよ!! 最低よっ!!」
「だって、ベルゼビュートだよ? 今までの彼女の振る舞いを思い出して、それでも結婚できると思う?」
ルキフェルが空を仰いで嘆く。気持ちが理解できるルシファーは苦笑いし、逆にリリスはさらに激怒した。真っ赤な顔で怒鳴る。
「出来るわよ! ベルゼ姉さんは純粋だし、すごく可愛い人なのに。みんな誤解してるわ!!」
「……まあまあ。落ち着け。婚約の話は本当で、オレとリリスの結婚式の前に結婚予定だから、祝いの品を選んでくれ。装飾品はダメだが、それ以外で候補を上げておいてくれると助かる。じゃあ」
これ以上一緒にしておくと遺恨が残るケンカになりそうだ。距離を置くのが一番、年の功でそう判断したルシファーはリリスを抱き上げて強引に離脱を計った。最低限の用件は伝えたので問題ないだろう。
リリスが生まれるより前のベルゼビュートを知っている男性達は、皆似た反応を示す可能性がある。お相手のエリゴスの耳に入る前に、箝口令を敷く必要がありそうだ。
「ルキフェル、それ……危険はないのか?」
「安心して。床が溶けるくらいだよ。それより、本当なの? あのベルゼビュートが婚約!? 本当に絶対? 嘘じゃなくて?」
そんなに確認するほど異常事態だろうか。ぽかんと口を開けたベールの顔を見ながら、首を傾げる。失礼なほど驚くベールの足元を、緑のネバネバが逃げていった。あれは生き物だったのか。
「ルキフェル、逃げてるぞ」
「うん、捕まえるけど。ベルゼビュートの婚約の衝撃が凄すぎて、どうでもよくなるよね」
「ロキちゃん、緑のが何か飲み込んでるわ」
うろちょろするネズミを捕まえて襲い掛かるネバネバに、リリスが目を見開く。ああ、うんと答えながらルキフェルは素手でネバネバを回収した。ビーカーに流し入れようとするが、ネズミが引っ掛かって入らない。ようやく我に返ったベールが悲鳴を上げた。
「ルキフェルっ! その溶解生物が手に!?」
もごもごとネズミを咀嚼する姿が、まるでルキフェルの手を食べているように見えたらしい。ベールの一撃でネバネバはビーカーに逃げ込んだ。炎が弱点らしい。鳳凰の炎も操るベールの高温攻撃により、得体の知れない液状生物の脱走騒動は収束しそうだ。
もそもそと怯えた様子を見せる液状生物を見つめる魔王とリリスをよそに、ベール達はひそひそと衝撃の事実を確認し合った。
「いま、幻聴が聞こえましたが……」
「僕も夢かと思ったけど、本当らしいよ。あのベルゼビュートが嫁に行くって」
「ルキフェル、嘘はいけません」
「僕だって信じられないよ。だけどさ、現実を見ようよ」
いい加減失礼なのではないだろうか。苦笑いしたルシファーが窘めようと口を開くより早く、アスタロトが駆け込んできた。
「大変です。天変地異の前触れです! 早く何らかの対策を取らないと……まずは民の魔王城への避難を誘導し、それから」
「何があったか、説明しろ」
ルシファーの表情が引き締まる。民に危険が及ぶ天変地異の前触れとあれば、ルシファー自身も表に出て対応しなくてはならない。きりりと表情を引き締めたのはリリスも同様だった。
「あのベルゼビュートが求婚されて頷いたとか、もし事実なら世界が崩壊するかもしれません」
「いやいや、お前達は彼女を何だと思ってるんだ。目の前で見てきたが仲睦まじいし、相手もなかなかの好青年だったぞ」
魔獣になるとメスだけど、それは不要な情報なので省く。絶対に現状で混乱を招く追加情報だからだ。リリスがムッとした顔で腰に手を当てて怒り出した。
「もう! 姉さんの幸せをどうして素直に喜んであげられないのよ!! 最低よっ!!」
「だって、ベルゼビュートだよ? 今までの彼女の振る舞いを思い出して、それでも結婚できると思う?」
ルキフェルが空を仰いで嘆く。気持ちが理解できるルシファーは苦笑いし、逆にリリスはさらに激怒した。真っ赤な顔で怒鳴る。
「出来るわよ! ベルゼ姉さんは純粋だし、すごく可愛い人なのに。みんな誤解してるわ!!」
「……まあまあ。落ち着け。婚約の話は本当で、オレとリリスの結婚式の前に結婚予定だから、祝いの品を選んでくれ。装飾品はダメだが、それ以外で候補を上げておいてくれると助かる。じゃあ」
これ以上一緒にしておくと遺恨が残るケンカになりそうだ。距離を置くのが一番、年の功でそう判断したルシファーはリリスを抱き上げて強引に離脱を計った。最低限の用件は伝えたので問題ないだろう。
リリスが生まれるより前のベルゼビュートを知っている男性達は、皆似た反応を示す可能性がある。お相手のエリゴスの耳に入る前に、箝口令を敷く必要がありそうだ。
20
お気に入りに追加
4,943
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる