1,202 / 1,397
87章 お勉強の一部やり直し
1197. 混乱は連鎖するようで
しおりを挟む
ヤンの背中から降りようとしたアンナは、急な腹痛に身を丸めた。転がるようにして落ちた彼女を、慌ててイザヤが支える。膨らんだ腹の下を抱く姿勢で呻く妻に、イザヤは混乱した。生まれるのか? だがまだ少し早い。
初産はどの種族でも予定通りに行かず不規則になる話は聞いているが、これがそうだろうか。万が一にも別の症状だったらどうしよう。おろおろするイザヤに、ヤンが吠えた。
「父になるのであろう! 母体を屋敷内に運び、湯を沸かせ。産婆は誰を頼んでおるのか!」
「と、隣の隣に住む犬獣人のお婆さんだ」
産婆の居場所だけ聞くと、ヤンはすぐに駆け出した。受け止められた姿勢が辛いアンナが「うぅ」と呻き声を上げた。慌てて抱き上げようとしたが、どうやっても腹が圧迫される。通りがかった熊獣人に助けを求め、屋敷内に運び込んだ。
向かいに住む竜族の奥さんが気付き、大急ぎで白い布を大量に提供する。ちょうどシーツを新調しようと買い込んでいたのだ。まだ未使用の綿を机の上に積み上げた。そこへ産婆の首を咥えたヤンが帰ってくる。どさりと産婆を屋敷の床に下ろした。
「早く見てやってくれ」
「はいはい、年寄りを乱暴に扱うもんじゃないよ。フェンリル様だとて、少し労って欲しいものじゃ」
文句を言いながらも、しっかりした足取りでベッドに近づく。以前は二階が寝室だったが、妊婦になってからリビング脇の小部屋に寝室を移動していた。
「オスは外じゃ!」
イザヤを含め、ヤンも熊獣人も外へ蹴り出した産婆は、向かいの奥さんと一緒にぴしゃりと扉を閉めた。呆然と顔を見合わせる男達だが、我に返ったイザヤが熊獣人に頭を下げた。
「ありがとう、本当に助かった」
「構わんよ、赤子を産む嫁さんを大事にしてやってくれ」
普段は市場にいるから、元気な赤子が生まれたら見せてくれと言いのこし、彼は去っていった。見送ったヤンものそのそと庭へ出て、まだ戻らぬ敷地内の離れを睨む。
「アベルはどうした?」
「今日はルーサルカちゃんとデートだと聞いている」
イザヤ情報で、邪魔をするべきか迷う。デートも久しぶりだろうし、大公女の仕事は忙しい。イザヤは苦笑いして付け足した。
「呼んでも、出産に役立つことはなさそうだ」
「ふむ、それもそうか。城には産気づいたと報告しておこう。明日以降の参加は無理だからな」
軽い動きで塀を乗り越えたヤンは、魔王城へ向かう。心配してついていても役に立たないので、報告を優先したのだ。夫であるイザヤがついていれば良い。門を開けると閉めなければならないので、楽をしたフェンリルは風のような速さで城門をくぐった。
飛びついたピヨを避け、アラエルに引き渡す。いい加減、ママ離れを計画しているヤンだが、鳳凰としてはまだ赤子のピヨにそんな気はなかった。アラエルの隙をついて、ヤンの背に飛び乗る。
振り落とすことを諦めたヤンは、コブ付きで魔王の居室がある最上階へ向かった。階段を駆け上り、部屋の前でぺたりと腰を落として座る。背中のピヨが転げ落ちた。
「我が君、ご報告がございます」
「ヤン? 入っていいわよ」
リリスの返答があったので、ノブを器用に回して扉を開けた。部屋の床に倒れたルシファーに馬乗りになるリリスの姿に、目を見開く。これは……最悪の場面で乱入したのでは?! 過呼吸に陥りそうなほど混乱したヤンだが、リリスはきょとんとした顔で見ている。
よく見るとルシファーは伏せており、腰というより背中に彼女は跨がっていた。
「な、何をして、おられる、か」
「マッサージよ、アデーレに習ったの」
ややこしい。大きく息を吐いたフェンリルの項垂れた姿に、リリスは先を促した。
「それで、何の報告があったの?」
初産はどの種族でも予定通りに行かず不規則になる話は聞いているが、これがそうだろうか。万が一にも別の症状だったらどうしよう。おろおろするイザヤに、ヤンが吠えた。
「父になるのであろう! 母体を屋敷内に運び、湯を沸かせ。産婆は誰を頼んでおるのか!」
「と、隣の隣に住む犬獣人のお婆さんだ」
産婆の居場所だけ聞くと、ヤンはすぐに駆け出した。受け止められた姿勢が辛いアンナが「うぅ」と呻き声を上げた。慌てて抱き上げようとしたが、どうやっても腹が圧迫される。通りがかった熊獣人に助けを求め、屋敷内に運び込んだ。
向かいに住む竜族の奥さんが気付き、大急ぎで白い布を大量に提供する。ちょうどシーツを新調しようと買い込んでいたのだ。まだ未使用の綿を机の上に積み上げた。そこへ産婆の首を咥えたヤンが帰ってくる。どさりと産婆を屋敷の床に下ろした。
「早く見てやってくれ」
「はいはい、年寄りを乱暴に扱うもんじゃないよ。フェンリル様だとて、少し労って欲しいものじゃ」
文句を言いながらも、しっかりした足取りでベッドに近づく。以前は二階が寝室だったが、妊婦になってからリビング脇の小部屋に寝室を移動していた。
「オスは外じゃ!」
イザヤを含め、ヤンも熊獣人も外へ蹴り出した産婆は、向かいの奥さんと一緒にぴしゃりと扉を閉めた。呆然と顔を見合わせる男達だが、我に返ったイザヤが熊獣人に頭を下げた。
「ありがとう、本当に助かった」
「構わんよ、赤子を産む嫁さんを大事にしてやってくれ」
普段は市場にいるから、元気な赤子が生まれたら見せてくれと言いのこし、彼は去っていった。見送ったヤンものそのそと庭へ出て、まだ戻らぬ敷地内の離れを睨む。
「アベルはどうした?」
「今日はルーサルカちゃんとデートだと聞いている」
イザヤ情報で、邪魔をするべきか迷う。デートも久しぶりだろうし、大公女の仕事は忙しい。イザヤは苦笑いして付け足した。
「呼んでも、出産に役立つことはなさそうだ」
「ふむ、それもそうか。城には産気づいたと報告しておこう。明日以降の参加は無理だからな」
軽い動きで塀を乗り越えたヤンは、魔王城へ向かう。心配してついていても役に立たないので、報告を優先したのだ。夫であるイザヤがついていれば良い。門を開けると閉めなければならないので、楽をしたフェンリルは風のような速さで城門をくぐった。
飛びついたピヨを避け、アラエルに引き渡す。いい加減、ママ離れを計画しているヤンだが、鳳凰としてはまだ赤子のピヨにそんな気はなかった。アラエルの隙をついて、ヤンの背に飛び乗る。
振り落とすことを諦めたヤンは、コブ付きで魔王の居室がある最上階へ向かった。階段を駆け上り、部屋の前でぺたりと腰を落として座る。背中のピヨが転げ落ちた。
「我が君、ご報告がございます」
「ヤン? 入っていいわよ」
リリスの返答があったので、ノブを器用に回して扉を開けた。部屋の床に倒れたルシファーに馬乗りになるリリスの姿に、目を見開く。これは……最悪の場面で乱入したのでは?! 過呼吸に陥りそうなほど混乱したヤンだが、リリスはきょとんとした顔で見ている。
よく見るとルシファーは伏せており、腰というより背中に彼女は跨がっていた。
「な、何をして、おられる、か」
「マッサージよ、アデーレに習ったの」
ややこしい。大きく息を吐いたフェンリルの項垂れた姿に、リリスは先を促した。
「それで、何の報告があったの?」
20
お気に入りに追加
5,069
あなたにおすすめの小説
魔王様、逃がすわけないでしょう?
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「あの人はどこに逃げやがりましたか」
怒りを滲ませて、私アスタロトは魔王を捜しまくる。毎日懲りることなく、仕事を放り出して単独で出歩く魔王ルシファー様を追いかけた。
魔王即位から千年余り。魔王の地位を争った実力者は、全員、ルシファー様の部下となった。魔王を支える大公の地位を得て、ベールやベルゼビュートと並び称される私は彼の補佐官をしている。
実力はあるが、どこか抜けている主君は今日も騒動を引き寄せる。後始末ばかり押し付けて、あなたという人は! 捕まえて、今日こそ反省していただきます。
※魔王様シリーズの最新話ですが、時間軸は初期になります。外伝に近い形で、主役はアスタロトです。リリスやルキフェルは出てきません。単独で楽しめるよう頑張ります(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2025/03/14……エブリスタ、トレンド1位
2025/03/13……連載開始

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる