1,197 / 1,397
86章 溢れ出たあれこれの後始末
1192. 情報漏洩からの宴
しおりを挟む
魔王軍の撤収に合わせて魔王と魔王妃が城に戻った。が……なぜか中庭がお祭り騒ぎになっている。転移した直後に目に入った状況に驚くルシファーへ、迎えに出たベールが頭を下げた。
「お帰りなさいませ、陛下」
「何かあったのか?」
きらきらした目で見つめられ、居心地が悪い。そう伝えると、申し訳なさそうに打ち明けられた。
「実は……陛下の背の翼が白くなった話が広がってしまいました」
「ああ、なるほど」
その短い説明ですべてを察した。魔王に心酔する住人が多い城下町ダークプレイスの民が、お祝いに駆け付けた。ついでに一目でいいから、白い翼を見たいのだろう。全部広げてもいいのだが、先日も魔王軍の一部が魔力酔いに襲われたこともあり躊躇った。
「どうしたものか」
「2枚程度なら問題ないかと思われます」
いつの間にか距離を詰めていたアスタロトの言葉に、リリスが嬉しそうに見上げる。
「ルシファーは人気があるんだもの。みんな喜ぶわ」
「そうか? 12枚の黒でも消し飛んだ魔族はいなかったし、2枚なら問題ないか」
迷いながら一対2枚だけ広げる。途端に悲鳴に近い甲高い声や、男達の低い雄叫びが上がった。驚き過ぎて、リリスがルシファーにしがみついている。蝉のようなリリスの姿を笑う者はなく、歓喜の渦に包まれた中庭の興奮は最高潮となった。
大地を揺らすような興奮の中、ルシファーの結界がいつもの倍ほどに増えたのはご愛嬌である。襲われるかと思った、それが後日の言い訳だった。
「びっくり、したわ」
なんとか気持ちを落ち着けたリリスが、両手両足でしがみついた魔王から身を離す。その間、リリスのどこを支えていいか迷うルシファーの手が、右往左往していた。良く我慢したと満足げなアスタロトに促され、用意された台の上に移動した。
「魔王陛下の12枚の翼はすべて、このように白くなりました。我らが最強の純白の魔王陛下に栄光あれ!!」
「「「「栄光あれ!!」」」」
煽られた民が盛り上がる様を、ドン引きした魔王が興奮した婚約者を抱き寄せて見つめる。異様な興奮を発散するためか、多少喧嘩や暴動が起きているのは仕方ないだろう。
「せっかく集まったのですし、備蓄の肉を出しましょうか」
「……足りるのか?」
数十年単位で魔力不足に陥った動物を食べることになる魔物や魔獣のために、過去に捕らえた魔力豊富な獲物を供出する手筈は整えた。だが備蓄にそんな余裕があっただろうか。
不安になるルシファーへ、きょとんとした顔のリリスが首を傾げた。
「溢れるほど豊富な魔力を含んだ草を食べるのよ? 動物も魔力を持つ魔獣になりそうな程なの。魔物や魔獣が食事から吸収する魔力量は、増えると思うわ」
だから備蓄は不要だ。結論を導いたリリスの話を噛み砕き、納得して頷いた。魔の森が人族やモレクの魔力を回収する前は、魔力が枯渇して森の木々や草に魔力がなかった。草食系の動物や魔獣は栄養失調になったが……今の森の草や木々を齧る動物は、魔力が飽和するほど吸収することになるだろう。下手すれば、魔力なしの動物が魔獣や魔物に変化する。大量の魔力に満ちた森は、ざわりと葉を揺らした。
「新種の魔族や魔獣が増える可能性が高く、巡回を密にしました」
ルキフェルと仲直り出来たらしい。ベールは淡々とした様子ながら、嬉しそうに報告した。その足元で、まだ民が騒いでいる。何もなしで帰しては、この興奮が街中に持ち込まれてしまうか。
「よし! 前にやったバーベキューを開催しよう、城門の外へ移動だ」
「お帰りなさいませ、陛下」
「何かあったのか?」
きらきらした目で見つめられ、居心地が悪い。そう伝えると、申し訳なさそうに打ち明けられた。
「実は……陛下の背の翼が白くなった話が広がってしまいました」
「ああ、なるほど」
その短い説明ですべてを察した。魔王に心酔する住人が多い城下町ダークプレイスの民が、お祝いに駆け付けた。ついでに一目でいいから、白い翼を見たいのだろう。全部広げてもいいのだが、先日も魔王軍の一部が魔力酔いに襲われたこともあり躊躇った。
「どうしたものか」
「2枚程度なら問題ないかと思われます」
いつの間にか距離を詰めていたアスタロトの言葉に、リリスが嬉しそうに見上げる。
「ルシファーは人気があるんだもの。みんな喜ぶわ」
「そうか? 12枚の黒でも消し飛んだ魔族はいなかったし、2枚なら問題ないか」
迷いながら一対2枚だけ広げる。途端に悲鳴に近い甲高い声や、男達の低い雄叫びが上がった。驚き過ぎて、リリスがルシファーにしがみついている。蝉のようなリリスの姿を笑う者はなく、歓喜の渦に包まれた中庭の興奮は最高潮となった。
大地を揺らすような興奮の中、ルシファーの結界がいつもの倍ほどに増えたのはご愛嬌である。襲われるかと思った、それが後日の言い訳だった。
「びっくり、したわ」
なんとか気持ちを落ち着けたリリスが、両手両足でしがみついた魔王から身を離す。その間、リリスのどこを支えていいか迷うルシファーの手が、右往左往していた。良く我慢したと満足げなアスタロトに促され、用意された台の上に移動した。
「魔王陛下の12枚の翼はすべて、このように白くなりました。我らが最強の純白の魔王陛下に栄光あれ!!」
「「「「栄光あれ!!」」」」
煽られた民が盛り上がる様を、ドン引きした魔王が興奮した婚約者を抱き寄せて見つめる。異様な興奮を発散するためか、多少喧嘩や暴動が起きているのは仕方ないだろう。
「せっかく集まったのですし、備蓄の肉を出しましょうか」
「……足りるのか?」
数十年単位で魔力不足に陥った動物を食べることになる魔物や魔獣のために、過去に捕らえた魔力豊富な獲物を供出する手筈は整えた。だが備蓄にそんな余裕があっただろうか。
不安になるルシファーへ、きょとんとした顔のリリスが首を傾げた。
「溢れるほど豊富な魔力を含んだ草を食べるのよ? 動物も魔力を持つ魔獣になりそうな程なの。魔物や魔獣が食事から吸収する魔力量は、増えると思うわ」
だから備蓄は不要だ。結論を導いたリリスの話を噛み砕き、納得して頷いた。魔の森が人族やモレクの魔力を回収する前は、魔力が枯渇して森の木々や草に魔力がなかった。草食系の動物や魔獣は栄養失調になったが……今の森の草や木々を齧る動物は、魔力が飽和するほど吸収することになるだろう。下手すれば、魔力なしの動物が魔獣や魔物に変化する。大量の魔力に満ちた森は、ざわりと葉を揺らした。
「新種の魔族や魔獣が増える可能性が高く、巡回を密にしました」
ルキフェルと仲直り出来たらしい。ベールは淡々とした様子ながら、嬉しそうに報告した。その足元で、まだ民が騒いでいる。何もなしで帰しては、この興奮が街中に持ち込まれてしまうか。
「よし! 前にやったバーベキューを開催しよう、城門の外へ移動だ」
20
お気に入りに追加
4,916
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜
みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。
魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。
目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた?
国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。
【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「貴様のような下賤な魔女が、のうのうと我が妻の座を狙い画策するなど! 恥を知れ」
味方のない夜会で、婚約者に罵られた少女は涙を零す。その予想を覆し、彼女は毅然と顔をあげた。残虐皇帝の名で知られるエリクはその横顔に見惚れる。
欲しい――理性ではなく感情で心が埋め尽くされた。愚かな王太子からこの子を奪って、傷ついた心を癒したい。僕だけを見て、僕の声だけ聞いて、僕への愛だけ口にしてくれたら……。
僕は君が溺れるほど愛し、僕なしで生きられないようにしたい。
明かされた暗い過去も痛みも思い出も、僕がすべて癒してあげよう。さあ、この手に堕ちておいで。
脅すように連れ去られたトリシャが魔女と呼ばれる理由――溺愛される少女は徐々に心を開いていく。愛しいエリク、残酷で無慈悲だけど私だけに優しいあなた……手を離さないで。
ヤンデレに愛される魔女は幸せを掴む。
※2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/07/09 完結
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
※メリバ展開はありません。ハッピーエンド確定です。
【同時掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる