1,187 / 1,397
85章 始まる準備がひと騒動
1182. 譲れないことのひとつ
しおりを挟む
仲良く果物を食べて、浄化をしたあと抱き合って眠ってしまった。ルシファーのテントが静かになったのを見計らい、そっと確認する大公達が頷く。ちなみにベルゼビュートは悪さをしないよう拘束された状態で、ルキフェルはすでに夢の中だった。確認したのはベールとアスタロトの2人である。
「リリス様の奔放さは何とかしないと」
唸るアスタロトに、ベールが肩を竦める。
「昔の陛下を思い出します」
そう言われれば……似たような感じだった。他者に伝言を残せばいいのに、ふらりと出かけてドラゴンを叩きのめしていたり。自分勝手な理由で、どこぞの山に穴を開けたり。騒動が大きい人だった。今でこそだいぶ落ち着いたが、あの頃のルシファーを思い返せば……リリスの方がよほど大人しい。
「比較対象が間違ってる気もしますが」
「生まれたばかりの魔族だと思えば、叱りすぎるのも可哀想です」
ベールの領地は神獣や幻獣ばかりだ。特殊な生活環境を好んだり、奇妙な習性をもつ種族が多かった。その意味で慣れているのもあるが、新しい種族が生まれる確率も一番高い。たいていの魔族は、生まれてすぐ騒動を起こす。それを宥めて叱り、躾ていくのが大公の役目でもあった。
リリスが新種の魔族と考えれば、魔力量が異常に多い種族に分類される。魔王城を吹き飛ばしたり、山を陥没させる可能性もあったのだ。目測を誤って大公や魔王の上に雷を落とす程度、大した問題ではなかった。翡翠竜はドラゴン分類とされているが、実際は変異種扱いだ。その彼は魔王城を半壊させた。
そう考えると、リリスの行いが可愛いレベルに思えてくるのが不思議だった。彼女の言動が大騒ぎになるのは、その都度ルシファーが巻き込まれる所為だ。魔王絡みなので、騒ぎが大きくなり収集が付かなくなる。つまり……。
「ルシファー様が原因ですね」
「否定はしません」
赤子のリリスに歯が生えてきた頃、通り魔のように獣人に噛みつく事件があった。あれも、通常なら叱られて終わりだ。獣人達のふわふわした毛皮や耳が気になったのだろう。狩りの習性と考えれば、納得しないながらも理解は出来る。ルシファーがリリスを庇おうと証拠隠滅をしなければ、あんなに叱られることもなかった。事実、被害者に補償と謝罪をしたことで事件は示談となったのだから。
「今回もそう、ルシファー様の所為でした」
魔の森の娘が里帰りしただけ。ただ伝言を忘れた。事実を箇条書きにしたら、たいした事件ではない。それが魔王軍が森に野営地を作る騒動に発展したのは、魔王ルシファーが「リリスが出て来るまで動かない」と宣言したのが理由だった。徐々に目が据わっていくアスタロトに、ベールが苦笑いする。
「仕方ありません。8万年も孤高の存在として独りだった陛下が、ようやく見つけた伴侶ですから」
愛する存在が消えたら、誰でも慌てる。状況が分からなければ心配するし、出て来るまで待とうと試みるだろう。それはルシファーだからではなく、どの魔族でも同じだった。
騒ぎが大きくなるのは、それだけ愛して大切にしている証拠だ。人族の脅威が消え、勇者が曖昧になった今、多少の騒動はご愛嬌なのでは? 余裕を見せるベールは、集結した軍の半数に通常業務へ戻るよう指示を出していた。この後はもう事件もないと踏んだのだ。
「そうですね。誰でも譲れないことはあります」
孤独だった魔王に寄り添う存在が出来た。自ら選んで育て愛し、応えてくれる存在――己の命を投げ出してでも守りたい存在は、大公達も心当たりがある。誰にでも公平に優しく、公平に笑みを向けてきた魔王の唯一。リリスという存在が魔王を救うのなら、混乱も楽しむくらいの余裕を持つのが大公でしょう。顔を見合わせた2人は諦めを含んだ口元を歪めて笑い、テントの前から静かに離れた。
「なによ。男同士で通じ合って、もう! あたくしを忘れるなんていい度胸じゃない」
縛り上げられ動けない状態で転がされたベルゼビュートが悪態をつく。ぐっすり眠って満足した魔王がテントを出て最初に踏んだのは、地面ではなく精霊女王だった……とか。
「リリス様の奔放さは何とかしないと」
唸るアスタロトに、ベールが肩を竦める。
「昔の陛下を思い出します」
そう言われれば……似たような感じだった。他者に伝言を残せばいいのに、ふらりと出かけてドラゴンを叩きのめしていたり。自分勝手な理由で、どこぞの山に穴を開けたり。騒動が大きい人だった。今でこそだいぶ落ち着いたが、あの頃のルシファーを思い返せば……リリスの方がよほど大人しい。
「比較対象が間違ってる気もしますが」
「生まれたばかりの魔族だと思えば、叱りすぎるのも可哀想です」
ベールの領地は神獣や幻獣ばかりだ。特殊な生活環境を好んだり、奇妙な習性をもつ種族が多かった。その意味で慣れているのもあるが、新しい種族が生まれる確率も一番高い。たいていの魔族は、生まれてすぐ騒動を起こす。それを宥めて叱り、躾ていくのが大公の役目でもあった。
リリスが新種の魔族と考えれば、魔力量が異常に多い種族に分類される。魔王城を吹き飛ばしたり、山を陥没させる可能性もあったのだ。目測を誤って大公や魔王の上に雷を落とす程度、大した問題ではなかった。翡翠竜はドラゴン分類とされているが、実際は変異種扱いだ。その彼は魔王城を半壊させた。
そう考えると、リリスの行いが可愛いレベルに思えてくるのが不思議だった。彼女の言動が大騒ぎになるのは、その都度ルシファーが巻き込まれる所為だ。魔王絡みなので、騒ぎが大きくなり収集が付かなくなる。つまり……。
「ルシファー様が原因ですね」
「否定はしません」
赤子のリリスに歯が生えてきた頃、通り魔のように獣人に噛みつく事件があった。あれも、通常なら叱られて終わりだ。獣人達のふわふわした毛皮や耳が気になったのだろう。狩りの習性と考えれば、納得しないながらも理解は出来る。ルシファーがリリスを庇おうと証拠隠滅をしなければ、あんなに叱られることもなかった。事実、被害者に補償と謝罪をしたことで事件は示談となったのだから。
「今回もそう、ルシファー様の所為でした」
魔の森の娘が里帰りしただけ。ただ伝言を忘れた。事実を箇条書きにしたら、たいした事件ではない。それが魔王軍が森に野営地を作る騒動に発展したのは、魔王ルシファーが「リリスが出て来るまで動かない」と宣言したのが理由だった。徐々に目が据わっていくアスタロトに、ベールが苦笑いする。
「仕方ありません。8万年も孤高の存在として独りだった陛下が、ようやく見つけた伴侶ですから」
愛する存在が消えたら、誰でも慌てる。状況が分からなければ心配するし、出て来るまで待とうと試みるだろう。それはルシファーだからではなく、どの魔族でも同じだった。
騒ぎが大きくなるのは、それだけ愛して大切にしている証拠だ。人族の脅威が消え、勇者が曖昧になった今、多少の騒動はご愛嬌なのでは? 余裕を見せるベールは、集結した軍の半数に通常業務へ戻るよう指示を出していた。この後はもう事件もないと踏んだのだ。
「そうですね。誰でも譲れないことはあります」
孤独だった魔王に寄り添う存在が出来た。自ら選んで育て愛し、応えてくれる存在――己の命を投げ出してでも守りたい存在は、大公達も心当たりがある。誰にでも公平に優しく、公平に笑みを向けてきた魔王の唯一。リリスという存在が魔王を救うのなら、混乱も楽しむくらいの余裕を持つのが大公でしょう。顔を見合わせた2人は諦めを含んだ口元を歪めて笑い、テントの前から静かに離れた。
「なによ。男同士で通じ合って、もう! あたくしを忘れるなんていい度胸じゃない」
縛り上げられ動けない状態で転がされたベルゼビュートが悪態をつく。ぐっすり眠って満足した魔王がテントを出て最初に踏んだのは、地面ではなく精霊女王だった……とか。
20
お気に入りに追加
4,892
あなたにおすすめの小説
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです
藤一
恋愛
消失か残留か・・異世界での私の未来は、この二つしか無いらしい・・。
残業帰りの最終電車に乗っていたら、私は異世界トリップしてしまった。
異世界に飛ばされたショックの所為か、私は自分の名前を忘れてしまう。
飛ばされた先では、勝手に「オオトリ様」と呼ばれ「繁栄の象徴」だと大切にされる事に。
戻れる可能性が高いが、万が一、戻れなかった時の為に、一人では寂しかろうと「生涯の伴侶」(複数)まで選定中。
「自分の名前を思い出せば還れるかも」と言うヒントを貰うが、それには伴侶候補たちとの交流が非常に重要らしい。
元の世界に戻る(かもしれない)私が、還る為だけに伴侶候補たちと絆を深めなきゃいけないって・・!
**********
R18な内容を含む話には※を付けております(もれている場合はお知らせ下さい)苦手な方はご注意を下さい。
じれじれなので、じれったい展開が苦手な方もご注意下さい。
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
病弱聖女は生を勝ち取る
代永 並木
ファンタジー
聖女は特殊な聖女の魔法と呼ばれる魔法を使える者が呼ばれる称号
アナスタシア・ティロスは不治の病を患っていた
その上、聖女でありながら魔力量は少なく魔法を一度使えば疲れてしまう
そんなアナスタシアを邪魔に思った両親は森に捨てる事を決め睡眠薬を入れた食べ物を食べさせ寝ている間に馬車に乗せて運んだ
捨てられる前に起きたアナスタシアは必死に抵抗するが抵抗虚しく腹に剣を突き刺されてしまう
傷を負ったまま森の中に捨てられてたアナスタシアは必死に生きようと足掻く
そんな中不幸は続き魔物に襲われてしまうが死の淵で絶望の底で歯車が噛み合い力が覚醒する
それでもまだ不幸は続く、アナスタシアは己のやれる事を全力で成す
天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます
波木真帆
BL
日本の田舎町に住む高校生の僕・江波弓弦は、物心ついた時には家族は母しかいなかった。けれど、僕の顔には父の痕跡がありありと残っていた。
光に当たると金髪にも見える薄い茶色の髪、そしてグリーンがかった茶色の瞳……日本人の母にはないその特徴で、父は外国人なのだと分かった。けれど、父の手がかりはそれだけ。母に何度か父のことを尋ねたけれど、悲しそうな顔をするだけで、僕は聞いてはいけないことだと悟り、父のことを聞くのをやめた。母ひとり子ひとりで大変ながらも幸せに暮らしていたある日、突然の事故で母を失い、天涯孤独になってしまう。
どうしたらいいか途方に暮れていた時、母が何かあった時のためにと残してくれていたものを思い出し、それを取り出すと一枚の紙が出てきて、そこには11桁の数字が書かれていた。
それが携帯番号だと気づいた僕は、その番号にかけて思いがけない人物と出会うことになり……。
イケメンでセレブな外国人社長と美少年高校生のハッピーエンド小説です。
R18には※つけます。
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる