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85章 始まる準備がひと騒動
1178. 受け取るって何を?
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真剣に話を聞くルキフェルに、用意した烏龍茶を差し出すベール。向かいで考え込むフリでうたた寝するベルゼビュートに、アスタロトが嫌な笑みを浮かべていた。絶対に後で何か言いつけられるパターンだ。
「つまり、あれでしょ? 魔の森は回収した魔力を植物の中に蓄えた。その影響で森の動物が魔力不足に陥り、魔獣が栄養失調になる――簡単じゃん」
「流れを逆転させればいいのよ」
大好きな焼き菓子を齧りながら、リリスはにっこりと笑った。そう言われるとシンプルな話に変わってしまう。ルキフェルとリリスは妙なところで似ていた。物事を整理して対応することに長けているのだ。暴走すると厄介なところまで、本当によく似ていた。
「流れを逆転? 僕はね、森から回収した余剰魔力を魔獣に注ぐつもりだったけど」
森の循環自体を逆転させると、別の弊害が起きる可能性が高い。余っているなら、足りないところへ供給すればいいと考えた。ルキフェルの発言に、リリスはあっさり意見を覆す。
「じゃあ、そうしましょう」
アスタロトは動かず、ベールはルキフェルを全面支持。まだ起きないベルゼビュートを見ながら、肘をついたルシファーは差し出された菓子を齧る。リリスの白い指が摘んだ菓子は、いつもより甘く感じた。
これが最高会議か。緊張感ゼロなのは仕方ないとして、もう少し意見の交換はないものか。
「ルシファー様、ルキフェルに任せますか?」
確認を取るアスタロトに頷きかけたとき、うたた寝していたベルゼビュートが飛び起きた。びっくりしてルキフェルがお茶を溢す。慌てたベールがそれを拭く。
「火傷しませんでしたか?」
「うん。それより、突然どうしたのさ」
ベールに答えた後、むっとした口調で唇を尖らせたルキフェルへベルゼビュートが焦った様子で話しかけた。
「大変! 森の木々から魔力が溢れちゃってる」
「……溢れる?」
「「はぁ?」」
「理解が追いつかないのですが」
それぞれに彼女の意見を理解しようと努めた結果、誰も理解できずに首を傾げた。アスタロトは言外に「バカの発言は理解できない」と匂わせる始末だ。普段なら噛み付くベルゼビュートだが、おろおろしながら数人の精霊を呼び寄せた。中庭へ転移させた同族が、空中を移動して窓から飛び込んでくる。
「……躾が必要でしょうか」
アスタロトの恐ろしい物言いに震える精霊だが、ベルゼビュートは大急ぎで手招きして、机の隙間に乗せた。思わぬ豪華な顔ぶれの中で、怯える精霊がふわふわと舞う。リリスが手を伸ばして、ひとつを手のひらに乗せた。
「何があったのかしら」
瞬くように点滅して知らせようとするが、ルシファー達もこれは理解できない。誰もが自然とベルゼビュートに視線を集めた。精霊女王である彼女なら、精霊と直接コンタクトが取れる。
「森の木々に大量の魔力が満ちて、ついに溢れてしまったの。このままでは魔力を持たない動物が全滅してしまうわ」
「全滅、ですか」
あまりに規模の大きな話に、ベールが掠れた声で繰り返す。直後、リリスが大きな声を上げた。
「そうよ! その手があるわ!!」
浮かれた様子で窓に向かう彼女を、ルシファーが掴む。背に白い羽を出し、光の輪を頭に乗せた黒髪のリリスはにっこりと笑った。掴まれた腕をそのままに、ルシファーへ言葉を残す。
「もう満ちたから、受け取りに行くわね」
何を、どこへ? 問う前にリリスがするりと通り抜けた。まるで実体を持たない精霊のように、ルシファーの腕を抜けて飛び立つ。焦ったルシファーが翼を広げて後を追い、取り残された大公達は目配せで役割を確認した。
ルシファーの後を追うアスタロトとベルゼビュート、残って溢れた魔力の対処にあたるルキフェル。彼が魔王城の留守を守るので、魔王軍を指揮するベールは緊急招集をかけて待つ。長い間に決まった役割通りに動く彼らの足元で、忘れられたヴラゴがきゅーんと声を上げた。
「つまり、あれでしょ? 魔の森は回収した魔力を植物の中に蓄えた。その影響で森の動物が魔力不足に陥り、魔獣が栄養失調になる――簡単じゃん」
「流れを逆転させればいいのよ」
大好きな焼き菓子を齧りながら、リリスはにっこりと笑った。そう言われるとシンプルな話に変わってしまう。ルキフェルとリリスは妙なところで似ていた。物事を整理して対応することに長けているのだ。暴走すると厄介なところまで、本当によく似ていた。
「流れを逆転? 僕はね、森から回収した余剰魔力を魔獣に注ぐつもりだったけど」
森の循環自体を逆転させると、別の弊害が起きる可能性が高い。余っているなら、足りないところへ供給すればいいと考えた。ルキフェルの発言に、リリスはあっさり意見を覆す。
「じゃあ、そうしましょう」
アスタロトは動かず、ベールはルキフェルを全面支持。まだ起きないベルゼビュートを見ながら、肘をついたルシファーは差し出された菓子を齧る。リリスの白い指が摘んだ菓子は、いつもより甘く感じた。
これが最高会議か。緊張感ゼロなのは仕方ないとして、もう少し意見の交換はないものか。
「ルシファー様、ルキフェルに任せますか?」
確認を取るアスタロトに頷きかけたとき、うたた寝していたベルゼビュートが飛び起きた。びっくりしてルキフェルがお茶を溢す。慌てたベールがそれを拭く。
「火傷しませんでしたか?」
「うん。それより、突然どうしたのさ」
ベールに答えた後、むっとした口調で唇を尖らせたルキフェルへベルゼビュートが焦った様子で話しかけた。
「大変! 森の木々から魔力が溢れちゃってる」
「……溢れる?」
「「はぁ?」」
「理解が追いつかないのですが」
それぞれに彼女の意見を理解しようと努めた結果、誰も理解できずに首を傾げた。アスタロトは言外に「バカの発言は理解できない」と匂わせる始末だ。普段なら噛み付くベルゼビュートだが、おろおろしながら数人の精霊を呼び寄せた。中庭へ転移させた同族が、空中を移動して窓から飛び込んでくる。
「……躾が必要でしょうか」
アスタロトの恐ろしい物言いに震える精霊だが、ベルゼビュートは大急ぎで手招きして、机の隙間に乗せた。思わぬ豪華な顔ぶれの中で、怯える精霊がふわふわと舞う。リリスが手を伸ばして、ひとつを手のひらに乗せた。
「何があったのかしら」
瞬くように点滅して知らせようとするが、ルシファー達もこれは理解できない。誰もが自然とベルゼビュートに視線を集めた。精霊女王である彼女なら、精霊と直接コンタクトが取れる。
「森の木々に大量の魔力が満ちて、ついに溢れてしまったの。このままでは魔力を持たない動物が全滅してしまうわ」
「全滅、ですか」
あまりに規模の大きな話に、ベールが掠れた声で繰り返す。直後、リリスが大きな声を上げた。
「そうよ! その手があるわ!!」
浮かれた様子で窓に向かう彼女を、ルシファーが掴む。背に白い羽を出し、光の輪を頭に乗せた黒髪のリリスはにっこりと笑った。掴まれた腕をそのままに、ルシファーへ言葉を残す。
「もう満ちたから、受け取りに行くわね」
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ルシファーの後を追うアスタロトとベルゼビュート、残って溢れた魔力の対処にあたるルキフェル。彼が魔王城の留守を守るので、魔王軍を指揮するベールは緊急招集をかけて待つ。長い間に決まった役割通りに動く彼らの足元で、忘れられたヴラゴがきゅーんと声を上げた。
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