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84章 ちょっと忘れ物を
1171. もしかしたら角羽兎?
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提出された議案は可決。残りは恒例の挨拶だった。魔王に拝謁したいと願う貴族は多く、御前会議はいつも満員御礼だ。時には抽選すら行われるのが常だった。今回はリリス付属で謁見が行われる。
「お久しぶりです、魔王陛下」
「おう、元気だったか。今回は息子を連れてきたということは、ついに隠居か」
「はい、足腰が弱りまして」
「大事にいたせ。もし辛いようなら痛みを取る魔法陣を渡そう」
順調に話が進んでいく。小柄な種族からスタートしたのだが、リスに似た小型の魔獣は代替わりを申し出た。渡された書類を受け取ったアスタロトが検分し、問題ないと判断して頷く。世襲制ではない貴族の爵位だが、村長などが務めることも多く、そのまま息子や娘に譲られることも多かった。一族の総意があれば問題ない。
今回もそのパターンだったので、ルシファーは頷いて承認した。書類処理は後回しだ。膝の上のリリスがこてりと首を傾げ、リスに赤子を見せた。
「この子の親を知らないかしら」
てくてくと近づいてじっくり眺めてから、残念そうに首を横に振る。
「申し訳ございません、種族がわかりません」
「ありがとう。お大事にしてね」
手を振って見送るリリスが毎回口を挟みそうだ。そう判断したアスタロトによって、先に赤子の面通しを行うこととなった。魔力で浮かせ掲げた絵姿で、後ろの大型種族まで見えるように手配する。日本人の持ち込んだ写真の概念が、思わぬところで役立っていた。
「この子の種族を知ってる方、いらっしゃいませんか?」
リリスが自ら声を張り上げる。じっくり眺めた貴族たちは心当たりの種族の名をいくつか挙げた。どれも獣人や魔獣系だが、最も数が多いのは滅亡した獣人だ。
牙と一本角、鳥の翼にしては羽毛が少ない羽を持つ角羽兎だった。角がある兎は今も魔獣として存続している。幼いリリスが見つけて抱っこした兎の亜種になる。色は茶や黒の毛皮で、魔獣の角兎と違い人化できる特性があった。そのため、魔獣である角兎とは別種族扱いされてきたのだ。
「……似てる、か?」
常に羽のある兎姿だった角羽兎を思い浮かべる。過去の記憶にあるのは、どれも魔獣姿だった。兎なのに完全肉食で、一切草を食べない。人化した姿は特徴のない人族によく似ており、勘違いされることを恐れて獣化を解くことは滅多になかった。
リリスの腕の中にいる赤子は牙も鋭く、羽と角が外に出ている。進化した、とか? 首を傾げるルシファーに近づいたルキフェルも、やはり不思議そうにしていた。
「進化だとしたら、人化して生きていくためかな」
人化したら便利だし細かな作業も行える。以前は人化した姿が人族に見えるのが屈辱だと言って、ずっと獣姿だった。確かに今の姿なら魔族っぽくて人族には見えない。彼らの努力の結果なら、先祖返りとして納得できる。
「親はどうしたんだろう?」
一度に4人も子供を産むなら魔獣系の可能性が高い。先祖返りの可能性を考慮するなら、獣姿だった角羽兎は魔獣の中に血を残していただろう。
「……たぶん、親は死んでしまったのでは?」
「いや、魔獣だと育てられないから託したのでは」
様々な憶測が飛び交う中、リリスは後者の意見を積極的に受け入れた。
「魔獣の中に、あなたの親が見つかればいいわね」
赤子に頬擦りするリリスの無邪気な希望に、貴族達ははっとした。いくら言葉を理解しない赤子の前であっても、親の死や捨てた可能性を口にするのは失礼だ。慌てて口を噤む彼らに礼を言ったルシファーは、残りの挨拶を受ける。誰もがリリスにも一礼し、赤子の親の噂を聞いたら知らせると約束してくれた。
思わぬ外交効果に、アスタロトとベールが目を瞬かせたのは言うまでもない。ベルゼビュートも精霊経由で調べると言い出した。赤子の親が見つかるのは、数日後かも知れない。
「お久しぶりです、魔王陛下」
「おう、元気だったか。今回は息子を連れてきたということは、ついに隠居か」
「はい、足腰が弱りまして」
「大事にいたせ。もし辛いようなら痛みを取る魔法陣を渡そう」
順調に話が進んでいく。小柄な種族からスタートしたのだが、リスに似た小型の魔獣は代替わりを申し出た。渡された書類を受け取ったアスタロトが検分し、問題ないと判断して頷く。世襲制ではない貴族の爵位だが、村長などが務めることも多く、そのまま息子や娘に譲られることも多かった。一族の総意があれば問題ない。
今回もそのパターンだったので、ルシファーは頷いて承認した。書類処理は後回しだ。膝の上のリリスがこてりと首を傾げ、リスに赤子を見せた。
「この子の親を知らないかしら」
てくてくと近づいてじっくり眺めてから、残念そうに首を横に振る。
「申し訳ございません、種族がわかりません」
「ありがとう。お大事にしてね」
手を振って見送るリリスが毎回口を挟みそうだ。そう判断したアスタロトによって、先に赤子の面通しを行うこととなった。魔力で浮かせ掲げた絵姿で、後ろの大型種族まで見えるように手配する。日本人の持ち込んだ写真の概念が、思わぬところで役立っていた。
「この子の種族を知ってる方、いらっしゃいませんか?」
リリスが自ら声を張り上げる。じっくり眺めた貴族たちは心当たりの種族の名をいくつか挙げた。どれも獣人や魔獣系だが、最も数が多いのは滅亡した獣人だ。
牙と一本角、鳥の翼にしては羽毛が少ない羽を持つ角羽兎だった。角がある兎は今も魔獣として存続している。幼いリリスが見つけて抱っこした兎の亜種になる。色は茶や黒の毛皮で、魔獣の角兎と違い人化できる特性があった。そのため、魔獣である角兎とは別種族扱いされてきたのだ。
「……似てる、か?」
常に羽のある兎姿だった角羽兎を思い浮かべる。過去の記憶にあるのは、どれも魔獣姿だった。兎なのに完全肉食で、一切草を食べない。人化した姿は特徴のない人族によく似ており、勘違いされることを恐れて獣化を解くことは滅多になかった。
リリスの腕の中にいる赤子は牙も鋭く、羽と角が外に出ている。進化した、とか? 首を傾げるルシファーに近づいたルキフェルも、やはり不思議そうにしていた。
「進化だとしたら、人化して生きていくためかな」
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「親はどうしたんだろう?」
一度に4人も子供を産むなら魔獣系の可能性が高い。先祖返りの可能性を考慮するなら、獣姿だった角羽兎は魔獣の中に血を残していただろう。
「……たぶん、親は死んでしまったのでは?」
「いや、魔獣だと育てられないから託したのでは」
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「魔獣の中に、あなたの親が見つかればいいわね」
赤子に頬擦りするリリスの無邪気な希望に、貴族達ははっとした。いくら言葉を理解しない赤子の前であっても、親の死や捨てた可能性を口にするのは失礼だ。慌てて口を噤む彼らに礼を言ったルシファーは、残りの挨拶を受ける。誰もがリリスにも一礼し、赤子の親の噂を聞いたら知らせると約束してくれた。
思わぬ外交効果に、アスタロトとベールが目を瞬かせたのは言うまでもない。ベルゼビュートも精霊経由で調べると言い出した。赤子の親が見つかるのは、数日後かも知れない。
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