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83章 勇者が攻めてくる季節
1143. ネズミはどこを通った?
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自分が振り回した剣が弾かれ、ぺたんと尻餅をつく。少女は悔しそうに顔をしかめた。もう一度向かう気力がないのか、尻餅がよほど痛かったのか。そのまま泣き出してしまう。
「どうしたものか」
「ルシファー、誰かに預けましょうよ」
まだ散歩の途中だと告げるリリス、その腕で興奮している小竜を交互に見て頷いた。人族の処遇については、議決が出ている。法として定めたのと同じ効力を持つため、ルシファーの独断で動くことは好ましくなかった。
人族の生存そのものは否定しない。あの殲滅戦を生き残った者や、遠く離れた村で細々と生き延びる者を狩り出す必要はなかった。だが遭遇した魔獣や魔族に攻撃を仕掛けたら、それは反撃が許される。魔族の生存権が優先だった。均衡を崩して魔王を怒らせたのは、人族の方なのだから。
ある一定数以上に増えれば、駆除対象となる。基本は魔物扱いだった。魔族として認める絶対条件は、言葉でなくとも意思疎通の有無だ。その点で言葉が通じるのに話が通じない種族は、魔物として分類することになった。人族はここに分類される。
「アラエルでいいか」
口笛を吹いて呼ぶと、鳳凰は背中に青い雛を乗せて舞い降りた。事情を説明し、泣き続ける少女を地下牢で保護するよう伝える。このまま放置したら、通りがかったドワーフやコボルトに駆除されてしまう。
「畏まりました、陛下」
ピヨが興味深そうに首を傾げ、巨体を縮めて隠れていたヤンを発見した。
「ママだ!!」
大喜びで羽をばたつかせ、番を足蹴にしてフェンリルの背に飛び降りた。ヤンの尻尾がぱたりと垂れる。耳もヘタレて、頭に押しつけられた。
「番がおるのだ、そちらに行け」
冷たく突き放すが、ヤンの言葉をピヨは聞いていなかった。柔らかい毛に顔を埋め、嘴で毛繕いを始める。それは心地よいようで、ヤンの目が細くなった。少し首を傾けたりして、ピヨを誘導する有り様だ。
「ああっと、その……アラエルが泣きそうだぞ」
言われて、我に返ったヤンがピヨを咥えて放り投げる。キャッチしたアラエルがピヨを連れて飛び立った。その足には先程の少女が掴まれている。器用に爪を立てずに連れて行ったので、問題はなさそうだ。
「まだ人族っているのね」
「小さな村で肩を寄せ合って生きる者を追い立てる気はないからな」
「……仲良く出来たらよかったのに」
リリスの呟きに、ルシファーはふわりと微笑んで「そうだな」と相槌を打った。そう考えたから人族の無礼で失礼な言動を見逃してきた。間違っていたのだろう。増長した人族が魔族を傷つけ、リリスを攫われ、ついには召喚魔法で世界の法則を壊そうとした。
さまざまな種族によって成り立つ魔族の形が好きだ。だから許してきた。自分の手が届く範囲なら、責任が取れると思ったからだ。アスタロト達は何度も警告してくれたのに、な。聞き流した結果は、大きな傷となって返された。あの時に決めたのだ。排除することを決めたら躊躇しない。
リリスは無邪気に優しく、どこまでも笑っていればいい。大切な人の笑顔を守るために手を汚す役を、オレは大公達に任せてしまった。魔王という地位は、絶対的な力の象徴だ。揺らいではいけない。だからあの少女に同情は禁物だった。
親を殺されたと泣いたあの子の両親が、ラミア達の皮を剥いだかもしれない。ハルピュイアの羽をもいだ可能性は否定できなかった。狼達を害獣だと言って殺したのではないか。人族であり、魔王に剣を向けるなら相応の罰を受けるべきだ。
再開した散歩の途中で、ルシファーは足を止めた。あの子ども、まともに剣も扱えないのに……どうやって、魔王城の中に入り込んだ? 嫌な予感がした。
「どうしたものか」
「ルシファー、誰かに預けましょうよ」
まだ散歩の途中だと告げるリリス、その腕で興奮している小竜を交互に見て頷いた。人族の処遇については、議決が出ている。法として定めたのと同じ効力を持つため、ルシファーの独断で動くことは好ましくなかった。
人族の生存そのものは否定しない。あの殲滅戦を生き残った者や、遠く離れた村で細々と生き延びる者を狩り出す必要はなかった。だが遭遇した魔獣や魔族に攻撃を仕掛けたら、それは反撃が許される。魔族の生存権が優先だった。均衡を崩して魔王を怒らせたのは、人族の方なのだから。
ある一定数以上に増えれば、駆除対象となる。基本は魔物扱いだった。魔族として認める絶対条件は、言葉でなくとも意思疎通の有無だ。その点で言葉が通じるのに話が通じない種族は、魔物として分類することになった。人族はここに分類される。
「アラエルでいいか」
口笛を吹いて呼ぶと、鳳凰は背中に青い雛を乗せて舞い降りた。事情を説明し、泣き続ける少女を地下牢で保護するよう伝える。このまま放置したら、通りがかったドワーフやコボルトに駆除されてしまう。
「畏まりました、陛下」
ピヨが興味深そうに首を傾げ、巨体を縮めて隠れていたヤンを発見した。
「ママだ!!」
大喜びで羽をばたつかせ、番を足蹴にしてフェンリルの背に飛び降りた。ヤンの尻尾がぱたりと垂れる。耳もヘタレて、頭に押しつけられた。
「番がおるのだ、そちらに行け」
冷たく突き放すが、ヤンの言葉をピヨは聞いていなかった。柔らかい毛に顔を埋め、嘴で毛繕いを始める。それは心地よいようで、ヤンの目が細くなった。少し首を傾けたりして、ピヨを誘導する有り様だ。
「ああっと、その……アラエルが泣きそうだぞ」
言われて、我に返ったヤンがピヨを咥えて放り投げる。キャッチしたアラエルがピヨを連れて飛び立った。その足には先程の少女が掴まれている。器用に爪を立てずに連れて行ったので、問題はなさそうだ。
「まだ人族っているのね」
「小さな村で肩を寄せ合って生きる者を追い立てる気はないからな」
「……仲良く出来たらよかったのに」
リリスの呟きに、ルシファーはふわりと微笑んで「そうだな」と相槌を打った。そう考えたから人族の無礼で失礼な言動を見逃してきた。間違っていたのだろう。増長した人族が魔族を傷つけ、リリスを攫われ、ついには召喚魔法で世界の法則を壊そうとした。
さまざまな種族によって成り立つ魔族の形が好きだ。だから許してきた。自分の手が届く範囲なら、責任が取れると思ったからだ。アスタロト達は何度も警告してくれたのに、な。聞き流した結果は、大きな傷となって返された。あの時に決めたのだ。排除することを決めたら躊躇しない。
リリスは無邪気に優しく、どこまでも笑っていればいい。大切な人の笑顔を守るために手を汚す役を、オレは大公達に任せてしまった。魔王という地位は、絶対的な力の象徴だ。揺らいではいけない。だからあの少女に同情は禁物だった。
親を殺されたと泣いたあの子の両親が、ラミア達の皮を剥いだかもしれない。ハルピュイアの羽をもいだ可能性は否定できなかった。狼達を害獣だと言って殺したのではないか。人族であり、魔王に剣を向けるなら相応の罰を受けるべきだ。
再開した散歩の途中で、ルシファーは足を止めた。あの子ども、まともに剣も扱えないのに……どうやって、魔王城の中に入り込んだ? 嫌な予感がした。
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