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80章 勇者は魔王の対じゃない?
1104. 魔王を騙し討ちする側近
しおりを挟む「僕も気付くのが遅れたんだけど」
前置きしたルキフェルは、統計結果が記された紙を机に広げた。1万5千歳を過ぎたルキフェルは、大公の中で一番若い。後から加わったため、良くも悪くも昔を直接知らなかった。だからこそ、疑問を抱くことができた。
「この辺なんだよ。勇者の発生率が異常に低い。それとここ数千年は多過ぎた」
偏った統計数字に、リリスも頷く。ここまで整理された情報ならば、数字が得意ではないリリスにも判断が出来た。何より、グラフがついていて分かりやすい。
「この盛り上がった部分が最近よね」
「そう。ここはほとんどない」
過去に2万年ほど、ほぼ勇者が現れない時期もあった。懐かしく思いながら記憶を辿り、ルシファーは奇妙なことに気づいた。グラフの中に、もうひとつ別の何かを記したグラフがある。そちらは棒線で示されているが、多少のずれはあるが勇者の数と連動していた。
「これは何の数字だ?」
「魔物の発生数だよ」
魔物の生息数が増えると、勇者の数が増える。奇妙な符合に、ぽんと手を叩いたのはリリスだった。
「わかったわ! 勇者は魔物だった!」
「……ちょっと違うかな」
なかなかの迷推理だ。勇者は人族に多かったが、それは魔族にも出現していたと判明している。魔王に対して攻撃的だったのが、人族だったというだけの話だ。そんな種族に魔王と対抗できそうな者が現れれば、向かってくるのが当たり前だった。一方、のんびりした魔族に勇者の痣が出現しても、動かず気づかなかった可能性の方が大きい。勇者の証を持つ全員が、魔王を敵視する訳ではないのだから。
ルシファーに苦笑いされ、リリスは「違うの?」と首を傾げた。
「リリス、魔物が増える前に勇者が増えてる。逆に考えた方が近いよ。勇者が倒されると魔物が増える」
「勇者はそんなに魔物を退治してたのかしら」
魔王城へ向かう途中で多少の魔物は倒すが、全体数に影響する数ではない。そもそも魔族は、勇者を見たら道を譲るのだ。喧嘩を売ったり前に出て行って敵対したりしない。そうでなければ、弱い人族が魔王城に辿り着ける筈はなかった。
「どうしてルシファーは、いつも勇者と戦うのよ」
根本の問題に気づいたリリスは、自分の発言のインパクトに気づかない。不思議と首をかしげる少女に、周囲の視線が集まった。
「そういえば……何故だろう」
「別に我々が倒しても問題なかった気がします」
ベールも考えながら言葉を選んだ。何故かそうするべきだと思っていた。しかしアスタロトが倒したこともあるが、何も問題は起きなかったのだ。ならば、魔王自ら相手をする義務はなかったのでは?
さらさらと書類をしたため、ベールはにっこりと笑った。
「リリス様のご発案ということで、今後は勇者または勇者もどきが現れた時は、順次手の空いている者が倒すことにいたしましょう」
魔王はラスボスに決まった。手が空いていて門の辺りにいれば、ルシファーが相手をしても問題ない。そして門番のアラエルが倒せるなら、それでも構わなかった。対応する者を大公などの地位で限定しないことで、魔王軍も使える。
「僕、門の前に住む」
戦うことが好きなルキフェルの発言に、ルシファーが笑って指摘した。
「数十年に一度だぞ。人族が消えたからもっと減るんじゃないか?」
「残念」
肩をすくめたルキフェルは、他の資料も取り出した。そこに残された統計から、勇者の全体数は常に30人前後。時に50人以上が同時に痣を持つ可能性があると記されていた。
「法案を先に通してしまいましょう」
承認を求めるベールに急かされて署名し、押印する。すかさず2枚目が差し出され、うっかり署名したルシファーが手を止めた。
「これは違う書類だ」
「もう遅いですよ、陛下」
にやりと笑ったベールは、アスタロトより悪い顔をしていた。
前置きしたルキフェルは、統計結果が記された紙を机に広げた。1万5千歳を過ぎたルキフェルは、大公の中で一番若い。後から加わったため、良くも悪くも昔を直接知らなかった。だからこそ、疑問を抱くことができた。
「この辺なんだよ。勇者の発生率が異常に低い。それとここ数千年は多過ぎた」
偏った統計数字に、リリスも頷く。ここまで整理された情報ならば、数字が得意ではないリリスにも判断が出来た。何より、グラフがついていて分かりやすい。
「この盛り上がった部分が最近よね」
「そう。ここはほとんどない」
過去に2万年ほど、ほぼ勇者が現れない時期もあった。懐かしく思いながら記憶を辿り、ルシファーは奇妙なことに気づいた。グラフの中に、もうひとつ別の何かを記したグラフがある。そちらは棒線で示されているが、多少のずれはあるが勇者の数と連動していた。
「これは何の数字だ?」
「魔物の発生数だよ」
魔物の生息数が増えると、勇者の数が増える。奇妙な符合に、ぽんと手を叩いたのはリリスだった。
「わかったわ! 勇者は魔物だった!」
「……ちょっと違うかな」
なかなかの迷推理だ。勇者は人族に多かったが、それは魔族にも出現していたと判明している。魔王に対して攻撃的だったのが、人族だったというだけの話だ。そんな種族に魔王と対抗できそうな者が現れれば、向かってくるのが当たり前だった。一方、のんびりした魔族に勇者の痣が出現しても、動かず気づかなかった可能性の方が大きい。勇者の証を持つ全員が、魔王を敵視する訳ではないのだから。
ルシファーに苦笑いされ、リリスは「違うの?」と首を傾げた。
「リリス、魔物が増える前に勇者が増えてる。逆に考えた方が近いよ。勇者が倒されると魔物が増える」
「勇者はそんなに魔物を退治してたのかしら」
魔王城へ向かう途中で多少の魔物は倒すが、全体数に影響する数ではない。そもそも魔族は、勇者を見たら道を譲るのだ。喧嘩を売ったり前に出て行って敵対したりしない。そうでなければ、弱い人族が魔王城に辿り着ける筈はなかった。
「どうしてルシファーは、いつも勇者と戦うのよ」
根本の問題に気づいたリリスは、自分の発言のインパクトに気づかない。不思議と首をかしげる少女に、周囲の視線が集まった。
「そういえば……何故だろう」
「別に我々が倒しても問題なかった気がします」
ベールも考えながら言葉を選んだ。何故かそうするべきだと思っていた。しかしアスタロトが倒したこともあるが、何も問題は起きなかったのだ。ならば、魔王自ら相手をする義務はなかったのでは?
さらさらと書類をしたため、ベールはにっこりと笑った。
「リリス様のご発案ということで、今後は勇者または勇者もどきが現れた時は、順次手の空いている者が倒すことにいたしましょう」
魔王はラスボスに決まった。手が空いていて門の辺りにいれば、ルシファーが相手をしても問題ない。そして門番のアラエルが倒せるなら、それでも構わなかった。対応する者を大公などの地位で限定しないことで、魔王軍も使える。
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「数十年に一度だぞ。人族が消えたからもっと減るんじゃないか?」
「残念」
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「これは違う書類だ」
「もう遅いですよ、陛下」
にやりと笑ったベールは、アスタロトより悪い顔をしていた。
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