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80章 勇者は魔王の対じゃない?

1100. 浮気現場!?

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 妖狐族の兄妹はすぐに打ち解けた。まだ子供達が小さいこともあり、犬獣人の父親は後見人と定められる。これは妖狐族の男爵位をもつ息子が成人するまでだが……ここで過去の書類を調べていたアスタロトが唸った。

「妖狐族の成人は180歳です」

「……先は長いな」

 先に男爵位を確定させ、父親が後見人となる。ここまでは問題ない気がしたが、父親の寿命問題が出てきた。その辺は都度対応することにする。先のことなど分からないのだ。

 似合うと言いながら、服を見繕う大公女とリリスに翻弄される親子は、種族が違っても幸せそうだった。母親はすでに亡くなったそうだが、神龍族だったと聞いたルシファーが考え込む。

「滅びゆく種族が、先祖返りを生んだ。なんとも皮肉な経緯だな」

「その辺の研究はルキフェルの仕事です。ルシファー様が悩む案件は山ほどありますよ……机の上にね」

 にっこり笑う側近に、へらりと愛想笑いをしてリリスに合流した。ルシファーの背を見送ったアスタロトは、手短に事情を説明する資料を作成してルキフェルへ送る。珍しく眠気が訪れ、アスタロトは欠伸を噛み殺した。

 体温が下がっていますね。長期の眠りの予兆だが、今は寝ている場合ではない。前回が中途半端だったので、今眠ったら十年単位で起きられないだろう。ルシファー様の結婚式を見届けないと、安眠できません。体内の魔力を多めに流して誤魔化し、アスタロトは騒がしい集団に合流した。






「魔の森が広がりすぎて、辺境が海辺になったんだけど」

 辺境巡りを終えたベルゼビュートがぼやく。人族の領域だった場所は、境目を見回るだけだった。大陸全体の2割だが、新しいルートはそれだけで疲れる。見たことがないキノコが生えていたのでサンプル採取したし、森の木々はやたら元気だった。

 精霊女王は木々に絡まれて、お疲れなのだ。乱れた巻毛をくるくると指先で巻き直しながら、温泉がある屋敷に帰ってきた。勝手に自室と認定した庭に面した部屋で服を脱ぎ、裸で中庭を歩いて湯船に入る。ぐったりと湯に浮かんだ美女は、そのまま露天風呂を流れていった。半分寝ていたのかも知れない。気配を探ることもしなかった。

「っ! ごめんなさい」

 誰かにぶつかり、慌てて謝る。金髪を結った白い背中に頭を下げ、直後に固まった。

「ベルゼビュート? 何をしているんですか」

「あ、あなたこそっ!」

 強張りが解けたベルゼビュートが叫ぶ。入浴中のアスタロトは、当然服を着ていない。髪を濡らさないよう簪で留めた彼は、珍しく疲れた様子だった。その物憂げな姿が儚く見えて、ベルゼビュートは目を擦る。

「その失礼な態度は何ですか」

 むっとした口調のアスタロトは、パチンと指を鳴らして薄衣を纏う。

「やだ、なぜかしら。アスタロトがカッコよく見えるわ」

 普段は違うと公言しながら、ベルゼビュートは角度を変えて何度もアスタロトを眺める。当然服を着るような感性はない。彼女にとって裸体は標準なのだ。住まいである精霊の森では、当然衣服は纏わないベルゼビュートは大きな胸を揺らして近づいた。

「服を着なさい」

「だってお風呂よ? 脱いでるのが普通じゃない」

 さっきまで、アスタロトだって裸だったわ。まるでリリスのような理論を振り翳す同僚に、魔王妃となる黒髪の少女が重なる。なるほど……魔の森に近いほど羞恥心が薄いのですね。失礼な判断をしたアスタロトだが、次の声に焦った。

「あ! 大変よ、ルシファー!! アスタロトがベルゼビュートの胸を揉んでる」

「なんだと?!」

 角度的にそう見えたのだろう。顔の前に胸があるので、勘違いされるのはわかるが。今さらベルゼビュートを異性として意識する筈がない。

「違います」

「そうよ、まだだもの」

 リリス以上に空気を読まない精霊女王の言葉に、真っ赤になったルシファーが「ごゆっくり」と扉を閉めた。その後誤解を解くのに半日ほど時間がかかるのだが、ルーサルカに「お義父様の浮気者」と叫ばれ、心に傷をかかえたアスタロトは敵前逃亡する。ちなみにこの事件は『大公閣下の浮気未遂事件』と噂されて広まり、アスタロトのトラウマとなった。
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