1,089 / 1,397
78章 温泉旅行は驚きがいっぱい
1084. ドM竜の一石二鳥
しおりを挟む
デカラビア子爵家へは、帰城時に雛を預かる予定だと伝えてもらった。すごい長文の感謝の手紙と共に、あの柑橘ジャムが添えられている。
「……どれだけ迷惑をかけているんだ?」
「うっかり預けるのも考えものですね」
ひとまずこの屋敷に引き取るべきか。だがボヤならぬ半焼を引き起こしたばかりだ。唸る2人にリリスが意外な解決方法を示した。
「アラエルも来てるんだし、ピヨと一緒に火口にいてもらえばいいじゃない」
「「その手があった」」
火口なら炎を噴こうが飛び込もうが、影響はない。成獣になった鳳凰の喧嘩ならまだしも、あの雛サイズなら大きな騒動は考えにくかった。長文の手紙に返事を出すついでに、それを伝えればいいだろう。
軽く考えて手紙を読み始めた。分厚い手紙はロール状態で巻いてあった。読んだ部分を隣のアスタロトが読み、ルーサルカが丁寧に巻き直していく。リリスやシトリーが覗き込み、レライエは婚約者の鱗剥ぎに忙しかった。
なんでも定期的に剥がないと、新しい鱗が出づらいとか。悲鳴をあげながらも剥いでもらうアムドゥスキアスは幸せそうだ。1枚剥ぐたびに、痛かった場所を撫でてもらう顔は、デレデレと崩れていた。
そんな習慣あったでしょうか。アスタロトの疑問に、ルシファーも首を傾げる。ルキフェルも瑠璃竜王で定期的に美しい鱗が生え変わるのだが、剥ぐ姿を見た記憶はなかった。そこへ書類片手にルキフェルが現れる。ついでに温泉を楽しもうと、入浴用セット持参だった。
「何やって……翡翠竜、そんな趣味があったんだ?」
同じ竜種で生え変わりがあるルキフェルがドン引きしている。どうやら翡翠竜の説明は自己流だったらしく、レライエの説明を聞くなり青ざめた。
「げっ、そんな痛いことしなくても数十年ごとに勝手に取れるじゃん」
「え?」
レライエが手を止める。半分ほど剥げた鱗を摘んだまま、動きがストップした。
「あ、途中でやめないで」
怒りのままにべりっと剥ぐ。
「お前、私に嘘を教えたのか?」
睨む婚約者の前で、緑の竜はモジモジと短い両手を動かした。それからぼそぼそと理由を説明し始める。
先日の財産確認の際、思ったより使っていたことに気づいたらしい。レライエへのプレゼントが主な使い道なのだが、その穴埋めに自分の鱗を売ろうと考えた。だが自分で剥ぐのは怖いので、レライエに頼んだ。膝の上に抱っこしてもらえて、痛い場所も撫でてもらえる。一石二鳥と考えたのが始まりだった。
「次はちゃんと話せ。嘘をついたら婚約を解消するぞ」
目を見開いたアムドゥスキアスの頬を、ぽろぽろと涙が落ちる。竜珠と呼ばれる宝石に代わった涙が輝くが、踏み付けたアムドゥスキアスがしがみついた。
「やだ、番になって! 嘘つかない、嫌いにならないで」
必死な姿に苦笑いし、レライエはしっかり約束を取り付けた。リリスが得意だった指切りまでして脅す。
「……羨ましくないけど、吐きそう」
ルキフェルが顔を顰めて足元の竜珠を拾う。取り出した箱にすべてしまうが、アムドゥスキアスはまだ泣いていた。
「ねえ、アドキス。これで不足分は補えると思うよ」
振り返った翡翠竜は思わぬ副産物に目を輝かせる。すぐに箱を覗き、数えてから婚約者への結納目録に書き足した。すべてプレゼントするらしい。
「ルキフェル、その書類は処理しておくから風呂入ってこい」
直したばかりで快適だ。渡された書類を確認して署名しながら、ルシファーが手を振る。まだ入浴していなかったアスタロトが同行する旨を伝えると、すぐにベールが飛んできた。過保護っぷりは変わらない。
城が留守じゃないかと苦笑いし、入浴したら帰るだろうと放置した。
「……どれだけ迷惑をかけているんだ?」
「うっかり預けるのも考えものですね」
ひとまずこの屋敷に引き取るべきか。だがボヤならぬ半焼を引き起こしたばかりだ。唸る2人にリリスが意外な解決方法を示した。
「アラエルも来てるんだし、ピヨと一緒に火口にいてもらえばいいじゃない」
「「その手があった」」
火口なら炎を噴こうが飛び込もうが、影響はない。成獣になった鳳凰の喧嘩ならまだしも、あの雛サイズなら大きな騒動は考えにくかった。長文の手紙に返事を出すついでに、それを伝えればいいだろう。
軽く考えて手紙を読み始めた。分厚い手紙はロール状態で巻いてあった。読んだ部分を隣のアスタロトが読み、ルーサルカが丁寧に巻き直していく。リリスやシトリーが覗き込み、レライエは婚約者の鱗剥ぎに忙しかった。
なんでも定期的に剥がないと、新しい鱗が出づらいとか。悲鳴をあげながらも剥いでもらうアムドゥスキアスは幸せそうだ。1枚剥ぐたびに、痛かった場所を撫でてもらう顔は、デレデレと崩れていた。
そんな習慣あったでしょうか。アスタロトの疑問に、ルシファーも首を傾げる。ルキフェルも瑠璃竜王で定期的に美しい鱗が生え変わるのだが、剥ぐ姿を見た記憶はなかった。そこへ書類片手にルキフェルが現れる。ついでに温泉を楽しもうと、入浴用セット持参だった。
「何やって……翡翠竜、そんな趣味があったんだ?」
同じ竜種で生え変わりがあるルキフェルがドン引きしている。どうやら翡翠竜の説明は自己流だったらしく、レライエの説明を聞くなり青ざめた。
「げっ、そんな痛いことしなくても数十年ごとに勝手に取れるじゃん」
「え?」
レライエが手を止める。半分ほど剥げた鱗を摘んだまま、動きがストップした。
「あ、途中でやめないで」
怒りのままにべりっと剥ぐ。
「お前、私に嘘を教えたのか?」
睨む婚約者の前で、緑の竜はモジモジと短い両手を動かした。それからぼそぼそと理由を説明し始める。
先日の財産確認の際、思ったより使っていたことに気づいたらしい。レライエへのプレゼントが主な使い道なのだが、その穴埋めに自分の鱗を売ろうと考えた。だが自分で剥ぐのは怖いので、レライエに頼んだ。膝の上に抱っこしてもらえて、痛い場所も撫でてもらえる。一石二鳥と考えたのが始まりだった。
「次はちゃんと話せ。嘘をついたら婚約を解消するぞ」
目を見開いたアムドゥスキアスの頬を、ぽろぽろと涙が落ちる。竜珠と呼ばれる宝石に代わった涙が輝くが、踏み付けたアムドゥスキアスがしがみついた。
「やだ、番になって! 嘘つかない、嫌いにならないで」
必死な姿に苦笑いし、レライエはしっかり約束を取り付けた。リリスが得意だった指切りまでして脅す。
「……羨ましくないけど、吐きそう」
ルキフェルが顔を顰めて足元の竜珠を拾う。取り出した箱にすべてしまうが、アムドゥスキアスはまだ泣いていた。
「ねえ、アドキス。これで不足分は補えると思うよ」
振り返った翡翠竜は思わぬ副産物に目を輝かせる。すぐに箱を覗き、数えてから婚約者への結納目録に書き足した。すべてプレゼントするらしい。
「ルキフェル、その書類は処理しておくから風呂入ってこい」
直したばかりで快適だ。渡された書類を確認して署名しながら、ルシファーが手を振る。まだ入浴していなかったアスタロトが同行する旨を伝えると、すぐにベールが飛んできた。過保護っぷりは変わらない。
城が留守じゃないかと苦笑いし、入浴したら帰るだろうと放置した。
10
お気に入りに追加
4,916
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「貴様のような下賤な魔女が、のうのうと我が妻の座を狙い画策するなど! 恥を知れ」
味方のない夜会で、婚約者に罵られた少女は涙を零す。その予想を覆し、彼女は毅然と顔をあげた。残虐皇帝の名で知られるエリクはその横顔に見惚れる。
欲しい――理性ではなく感情で心が埋め尽くされた。愚かな王太子からこの子を奪って、傷ついた心を癒したい。僕だけを見て、僕の声だけ聞いて、僕への愛だけ口にしてくれたら……。
僕は君が溺れるほど愛し、僕なしで生きられないようにしたい。
明かされた暗い過去も痛みも思い出も、僕がすべて癒してあげよう。さあ、この手に堕ちておいで。
脅すように連れ去られたトリシャが魔女と呼ばれる理由――溺愛される少女は徐々に心を開いていく。愛しいエリク、残酷で無慈悲だけど私だけに優しいあなた……手を離さないで。
ヤンデレに愛される魔女は幸せを掴む。
※2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/07/09 完結
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
※メリバ展開はありません。ハッピーエンド確定です。
【同時掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる