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78章 温泉旅行は驚きがいっぱい

1084. ドM竜の一石二鳥

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 デカラビア子爵家へは、帰城時に雛を預かる予定だと伝えてもらった。すごい長文の感謝の手紙と共に、あの柑橘ジャムが添えられている。

「……どれだけ迷惑をかけているんだ?」

「うっかり預けるのも考えものですね」

 ひとまずこの屋敷に引き取るべきか。だがボヤならぬ半焼を引き起こしたばかりだ。唸る2人にリリスが意外な解決方法を示した。

「アラエルも来てるんだし、ピヨと一緒に火口にいてもらえばいいじゃない」

「「その手があった」」

 火口なら炎を噴こうが飛び込もうが、影響はない。成獣になった鳳凰の喧嘩ならまだしも、あの雛サイズなら大きな騒動は考えにくかった。長文の手紙に返事を出すついでに、それを伝えればいいだろう。

 軽く考えて手紙を読み始めた。分厚い手紙はロール状態で巻いてあった。読んだ部分を隣のアスタロトが読み、ルーサルカが丁寧に巻き直していく。リリスやシトリーが覗き込み、レライエは婚約者の鱗剥ぎに忙しかった。

 なんでも定期的に剥がないと、新しい鱗が出づらいとか。悲鳴をあげながらも剥いでもらうアムドゥスキアスは幸せそうだ。1枚剥ぐたびに、痛かった場所を撫でてもらう顔は、デレデレと崩れていた。

 そんな習慣あったでしょうか。アスタロトの疑問に、ルシファーも首を傾げる。ルキフェルも瑠璃竜王で定期的に美しい鱗が生え変わるのだが、剥ぐ姿を見た記憶はなかった。そこへ書類片手にルキフェルが現れる。ついでに温泉を楽しもうと、入浴用セット持参だった。

「何やって……翡翠竜、そんな趣味があったんだ?」

 同じ竜種で生え変わりがあるルキフェルがドン引きしている。どうやら翡翠竜の説明は自己流だったらしく、レライエの説明を聞くなり青ざめた。

「げっ、そんな痛いことしなくても数十年ごとに勝手に取れるじゃん」

「え?」

 レライエが手を止める。半分ほど剥げた鱗を摘んだまま、動きがストップした。

「あ、途中でやめないで」

 怒りのままにべりっと剥ぐ。

「お前、私に嘘を教えたのか?」

 睨む婚約者の前で、緑の竜はモジモジと短い両手を動かした。それからぼそぼそと理由を説明し始める。

 先日の財産確認の際、思ったより使っていたことに気づいたらしい。レライエへのプレゼントが主な使い道なのだが、その穴埋めに自分の鱗を売ろうと考えた。だが自分で剥ぐのは怖いので、レライエに頼んだ。膝の上に抱っこしてもらえて、痛い場所も撫でてもらえる。一石二鳥と考えたのが始まりだった。

「次はちゃんと話せ。嘘をついたら婚約を解消するぞ」

 目を見開いたアムドゥスキアスの頬を、ぽろぽろと涙が落ちる。竜珠と呼ばれる宝石に代わった涙が輝くが、踏み付けたアムドゥスキアスがしがみついた。

「やだ、番になって! 嘘つかない、嫌いにならないで」

 必死な姿に苦笑いし、レライエはしっかり約束を取り付けた。リリスが得意だった指切りまでして脅す。

「……羨ましくないけど、吐きそう」

 ルキフェルが顔を顰めて足元の竜珠を拾う。取り出した箱にすべてしまうが、アムドゥスキアスはまだ泣いていた。

「ねえ、アドキス。これで不足分は補えると思うよ」

 振り返った翡翠竜は思わぬ副産物に目を輝かせる。すぐに箱を覗き、数えてから婚約者への結納目録に書き足した。すべてプレゼントするらしい。

「ルキフェル、その書類は処理しておくから風呂入ってこい」

 直したばかりで快適だ。渡された書類を確認して署名しながら、ルシファーが手を振る。まだ入浴していなかったアスタロトが同行する旨を伝えると、すぐにベールが飛んできた。過保護っぷりは変わらない。

 城が留守じゃないかと苦笑いし、入浴したら帰るだろうと放置した。
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