1,077 / 1,397
78章 温泉旅行は驚きがいっぱい
1072. 叱る者と許す者が必要
しおりを挟む
「ピヨっ! 何をしたのだ」
母親代わりのヤンが叫ぶ。刷り込みから始まった母子関係だが、種族も違うのによく面倒を見ている。そんな達観した感想を持ちながら、ルシファーがヤンの耳の間を撫でた。
「気に病むな。ピヨは自由すぎる」
だからといって別邸を燃やしてもいい理由にはならないが、鸞の雛であるピヨならやりかねない。今夜の宿が半焼しても、ルシファーはさほど怒っていなかった。
どの種族もそうだが、子供の頃は力加減を間違えてあちこち壊すものだ。翡翠竜は魔王城を半壊させたし、ルキフェルに至っては山をひとつ吹き飛ばした。屋敷の半焼など、まだまだ可愛いものだ。そう考えるルシファーと違い、アスタロトは納得しなかった。
「ルシファー様、甘いことを言っているから成長しないのです。ピヨのことを考えるなら、もっとキツく叱る必要があります」
「だが、ヤンとお前が叱るのだろう? ピヨに逃げ場がないではないか」
追い詰めすぎると家出するぞ。ちくりと釘を刺すのは、かつて息子が家出したアスタロトへの嫌味だった。昔の失態を突かれ、アスタロトが思わず黙り込む。
「あの……ごめんなさい。掃除して、たら……その」
恐々口を開いたピヨを、リリスが手招きした。
「おいでなさい。私が聞いてあげるから」
最強の純白魔王を後見にしたお姫様の言葉に、ピヨの目から大粒の涙が溢れた。ぺたぺたと焼けた炭の上を歩き、リリスのスカートにしがみ付く。わんわん泣き出した姿に、ヤンは困り顔で尻尾を下ろした。
泣きながらピヨがした説明によると、火口へ遊びに来た際に「魔王陛下と姫様が遊びに来るんだって」と仲間が話しているのを聞いた。しばらく使っていない屋敷の埃を払うつもりで、羽毛を使って掃除を始めた。ところが届かない隅の埃を焼き払おうとして……うっかり炎を吐いてしまう。
火力の調整に失敗した炎は、屋敷の柱に燃え移りあっという間に広がってしまった。消そうとしてもうまくいかず、焦っていたところに魔王一行が到着したという。
「次は気をつけろよ」
「そうよ。ピヨがケガをするじゃない」
甘いルシファーとリリスに対し、レライエはびしっと注意した。
「火力の調整ができないなら、炎を使ってはダメだ。誰かを傷つけてからでは、悔やんでも間に合わないぞ」
自らも炎の属性を持ち自在に操るレライエは、ドラゴンの家系だ。竜人族を名乗る以上、人並み以上に厳しい訓練を経て魔法を使いこなしてきた。甘い考えのピヨにイライラするのだ。
炎は風と並んで他者を傷つけやすい属性だった。水や土の属性と違い、治癒と対極に位置する。傷つけてから泣くのではなく、傷つけないように自分に厳しくして泣いておけ。そう教わったレライエは、ピヨに近づくと頭をこつんと拳骨で叩いた。
「誰かを傷つけたくないなら、きちんと学べ」
「うっ……わか、った」
ぐすっと鼻を啜り、それでもピヨはしっかり頷いた。母親役であるヤンの毛皮に顔を突っ込みながら、ではあったが。レライエの言うことが正しいと理解した。
「どの程度損傷したか、確認しましょうか」
アスタロトが苦笑いする。ピヨは鳳凰として1~2歳の子供と同等だ。言い聞かせてもまた騒動を起こすのは目に見えていた。それでも本人が反省したのだから、これ以上責める必要はないだろう。
問題は今夜の宿として、この屋敷が使えるかどうか……である。無理なら、デカラビア子爵家に連絡して借りるなり、魔王城へ戻る手筈を整えなければ。現実的な方向へ思考を向けたアスタロトへ、ルシファーは事もなげに答えた。
「安心しろ。前回の事件の後、ルキフェルが設置した復元魔法陣があるはずだ」
水をかけず、空気を遮断して消したのもそのためだ。魔法陣が刻まれた床を探しに、焼け焦げた屋敷に足を踏み入れた。
母親代わりのヤンが叫ぶ。刷り込みから始まった母子関係だが、種族も違うのによく面倒を見ている。そんな達観した感想を持ちながら、ルシファーがヤンの耳の間を撫でた。
「気に病むな。ピヨは自由すぎる」
だからといって別邸を燃やしてもいい理由にはならないが、鸞の雛であるピヨならやりかねない。今夜の宿が半焼しても、ルシファーはさほど怒っていなかった。
どの種族もそうだが、子供の頃は力加減を間違えてあちこち壊すものだ。翡翠竜は魔王城を半壊させたし、ルキフェルに至っては山をひとつ吹き飛ばした。屋敷の半焼など、まだまだ可愛いものだ。そう考えるルシファーと違い、アスタロトは納得しなかった。
「ルシファー様、甘いことを言っているから成長しないのです。ピヨのことを考えるなら、もっとキツく叱る必要があります」
「だが、ヤンとお前が叱るのだろう? ピヨに逃げ場がないではないか」
追い詰めすぎると家出するぞ。ちくりと釘を刺すのは、かつて息子が家出したアスタロトへの嫌味だった。昔の失態を突かれ、アスタロトが思わず黙り込む。
「あの……ごめんなさい。掃除して、たら……その」
恐々口を開いたピヨを、リリスが手招きした。
「おいでなさい。私が聞いてあげるから」
最強の純白魔王を後見にしたお姫様の言葉に、ピヨの目から大粒の涙が溢れた。ぺたぺたと焼けた炭の上を歩き、リリスのスカートにしがみ付く。わんわん泣き出した姿に、ヤンは困り顔で尻尾を下ろした。
泣きながらピヨがした説明によると、火口へ遊びに来た際に「魔王陛下と姫様が遊びに来るんだって」と仲間が話しているのを聞いた。しばらく使っていない屋敷の埃を払うつもりで、羽毛を使って掃除を始めた。ところが届かない隅の埃を焼き払おうとして……うっかり炎を吐いてしまう。
火力の調整に失敗した炎は、屋敷の柱に燃え移りあっという間に広がってしまった。消そうとしてもうまくいかず、焦っていたところに魔王一行が到着したという。
「次は気をつけろよ」
「そうよ。ピヨがケガをするじゃない」
甘いルシファーとリリスに対し、レライエはびしっと注意した。
「火力の調整ができないなら、炎を使ってはダメだ。誰かを傷つけてからでは、悔やんでも間に合わないぞ」
自らも炎の属性を持ち自在に操るレライエは、ドラゴンの家系だ。竜人族を名乗る以上、人並み以上に厳しい訓練を経て魔法を使いこなしてきた。甘い考えのピヨにイライラするのだ。
炎は風と並んで他者を傷つけやすい属性だった。水や土の属性と違い、治癒と対極に位置する。傷つけてから泣くのではなく、傷つけないように自分に厳しくして泣いておけ。そう教わったレライエは、ピヨに近づくと頭をこつんと拳骨で叩いた。
「誰かを傷つけたくないなら、きちんと学べ」
「うっ……わか、った」
ぐすっと鼻を啜り、それでもピヨはしっかり頷いた。母親役であるヤンの毛皮に顔を突っ込みながら、ではあったが。レライエの言うことが正しいと理解した。
「どの程度損傷したか、確認しましょうか」
アスタロトが苦笑いする。ピヨは鳳凰として1~2歳の子供と同等だ。言い聞かせてもまた騒動を起こすのは目に見えていた。それでも本人が反省したのだから、これ以上責める必要はないだろう。
問題は今夜の宿として、この屋敷が使えるかどうか……である。無理なら、デカラビア子爵家に連絡して借りるなり、魔王城へ戻る手筈を整えなければ。現実的な方向へ思考を向けたアスタロトへ、ルシファーは事もなげに答えた。
「安心しろ。前回の事件の後、ルキフェルが設置した復元魔法陣があるはずだ」
水をかけず、空気を遮断して消したのもそのためだ。魔法陣が刻まれた床を探しに、焼け焦げた屋敷に足を踏み入れた。
10
お気に入りに追加
4,943
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる