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76章 一難去るとまた……
1050. 瑠璃竜王の八つ当たり
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ベールはルキフェルの八つ当たりを受け止めていた。
「僕がっ! なんで、気を使って! 出てこなきゃ、ならないのさっ!」
単語を吐くたびに、炎や氷などの魔法が飛んでくる。防御に優れたベールは、ひとつずつ丁寧に相殺した。氷を炎で溶かし、炎を水で鎮静化させ、風刃を消滅させる。ソファの上のクッションを投げ終えた後、物騒になった八つ当たりも、大公という実力者同士なら遊びの範囲だ。
怯えた様子の侍従が後退る。彼らを巻き込まないよう調整するルキフェルと、一応結界を張って安全を確保するベールの魔法による応酬が一段落した。唇を尖らせたルキフェルに近づき、ぼすっと叩きつけられた拳を胸で受け止める。
伸ばした手で水色の髪を撫でた。幼子の頃からずっと役割は変わらない。感情豊かなルキフェルを宥めるベールは、青年姿の愛し子を抱きしめた。
「タイミングが悪かっただけです。ルキフェルが必要とされているのは変わりません。さあ、落ち着いて休憩しませんか」
ソファに座らせ、拗ねたルキフェルの機嫌を取る。これが別の誰かが相手なら、ベールは冷たく突き放すだろう。落ち着いてきたルキフェルが、こてんと首を傾けて膝枕の態勢をとった。見上げる先で穏やかに微笑む銀髪のベールは、青い瞳を細める。
笑みが浮かんだ口元も優しい眼差しも、とても居心地がよかった。出会ってすぐは、青い目の色が似ているから父親かと思った時期もある。実際は血の繋がる両親より長く一緒にいることになったけれど。
「昔、ベールがお父さんだと思ってた」
「父親の方がいいですか?」
「ううん。今の関係でいい」
父であり兄であり、同僚でもある。常に側にいて自分を優先してくれる存在がいるから、ルキフェルは自信をもって行動できるのだ。成長して手助けできる現状は、以前より居心地がよかった。
「生命力の件だけどね。まだ仮定段階……証拠や決定的な条件が見つからない。でも……食糧難は回避できると思うよ」
爆発したプリンの成分はしっかり分析した。結果を書いた紙は爆発で吹き飛んだけれど、内容は記憶している。忘れたくても忘れられない記憶力が役立っていた。分析した数字もきっちり覚えている。
「生命力が失われたのは、この秋からだ。夏より前なら動物が大量死してるはず」
根拠をしっかり示して説明する。こういう話し方をするルキフェルは、自分の考えを纏めている最中だった。だからとりとめもなく話が左右に飛ぶ。内容も曖昧だったり、不確定な情報をひたすら口に出すのだ。耳から再度取り込んだ情報を整理し、精査し、やがて結論を導き出す。
慣れているベールは穏やかに頷くだけで、相槌の声すら出さなかった。インプットし直す情報の妨げになる音は出さない。座るソファごと遮音結界で包んだ。
「秋以降で心当たりがあるのは、人族の滅亡と魔の森の眠り……あとモレクの死だけ。モレクの魔力は公爵位をもつ貴族の中でも指折りだった。大量の魔力が拡散したことで、魔の森は失われた魔力をかなり補ったと思う。でも循環しただけなんだよね」
失われた魔力は人族が持っていた。彼らは生まれるたびに魔力を微量持ち去り、死んでも還さない。そちらの返還の方が魔の森にとって大きな影響を与えたはず。
「人族1人当たりの魔力なんて、魔獣の爪の先程度だ。でもあれだけの数が繁殖したら、森の持つ魔力は相当奪われたと思う。それが一気に返ってきた……還った? どっちにしても吸収した魔力が森を満たしたのは間違いない。だって魔力がはぐれて浮遊してないんだから」
吸収されなければ、魔の森は人族の領地であった場所を埋め尽くすことはない。広がった森が木々の葉を揺らすこと自体、森が魔力を回収した証拠だった。
「僕がっ! なんで、気を使って! 出てこなきゃ、ならないのさっ!」
単語を吐くたびに、炎や氷などの魔法が飛んでくる。防御に優れたベールは、ひとつずつ丁寧に相殺した。氷を炎で溶かし、炎を水で鎮静化させ、風刃を消滅させる。ソファの上のクッションを投げ終えた後、物騒になった八つ当たりも、大公という実力者同士なら遊びの範囲だ。
怯えた様子の侍従が後退る。彼らを巻き込まないよう調整するルキフェルと、一応結界を張って安全を確保するベールの魔法による応酬が一段落した。唇を尖らせたルキフェルに近づき、ぼすっと叩きつけられた拳を胸で受け止める。
伸ばした手で水色の髪を撫でた。幼子の頃からずっと役割は変わらない。感情豊かなルキフェルを宥めるベールは、青年姿の愛し子を抱きしめた。
「タイミングが悪かっただけです。ルキフェルが必要とされているのは変わりません。さあ、落ち着いて休憩しませんか」
ソファに座らせ、拗ねたルキフェルの機嫌を取る。これが別の誰かが相手なら、ベールは冷たく突き放すだろう。落ち着いてきたルキフェルが、こてんと首を傾けて膝枕の態勢をとった。見上げる先で穏やかに微笑む銀髪のベールは、青い瞳を細める。
笑みが浮かんだ口元も優しい眼差しも、とても居心地がよかった。出会ってすぐは、青い目の色が似ているから父親かと思った時期もある。実際は血の繋がる両親より長く一緒にいることになったけれど。
「昔、ベールがお父さんだと思ってた」
「父親の方がいいですか?」
「ううん。今の関係でいい」
父であり兄であり、同僚でもある。常に側にいて自分を優先してくれる存在がいるから、ルキフェルは自信をもって行動できるのだ。成長して手助けできる現状は、以前より居心地がよかった。
「生命力の件だけどね。まだ仮定段階……証拠や決定的な条件が見つからない。でも……食糧難は回避できると思うよ」
爆発したプリンの成分はしっかり分析した。結果を書いた紙は爆発で吹き飛んだけれど、内容は記憶している。忘れたくても忘れられない記憶力が役立っていた。分析した数字もきっちり覚えている。
「生命力が失われたのは、この秋からだ。夏より前なら動物が大量死してるはず」
根拠をしっかり示して説明する。こういう話し方をするルキフェルは、自分の考えを纏めている最中だった。だからとりとめもなく話が左右に飛ぶ。内容も曖昧だったり、不確定な情報をひたすら口に出すのだ。耳から再度取り込んだ情報を整理し、精査し、やがて結論を導き出す。
慣れているベールは穏やかに頷くだけで、相槌の声すら出さなかった。インプットし直す情報の妨げになる音は出さない。座るソファごと遮音結界で包んだ。
「秋以降で心当たりがあるのは、人族の滅亡と魔の森の眠り……あとモレクの死だけ。モレクの魔力は公爵位をもつ貴族の中でも指折りだった。大量の魔力が拡散したことで、魔の森は失われた魔力をかなり補ったと思う。でも循環しただけなんだよね」
失われた魔力は人族が持っていた。彼らは生まれるたびに魔力を微量持ち去り、死んでも還さない。そちらの返還の方が魔の森にとって大きな影響を与えたはず。
「人族1人当たりの魔力なんて、魔獣の爪の先程度だ。でもあれだけの数が繁殖したら、森の持つ魔力は相当奪われたと思う。それが一気に返ってきた……還った? どっちにしても吸収した魔力が森を満たしたのは間違いない。だって魔力がはぐれて浮遊してないんだから」
吸収されなければ、魔の森は人族の領地であった場所を埋め尽くすことはない。広がった森が木々の葉を揺らすこと自体、森が魔力を回収した証拠だった。
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