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76章 一難去るとまた……

1043. プリンから判明した事実

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 危険が伴うなら妹のアンナは連れてこない。兄としてはもちろんだが、事実上の夫としても認められなかった。強い口調でそう告げると、ルキフェルはからりと笑う。

「平気、もう危ない実験は終わったから。手伝って欲しいのは、僕と違う魔力の補充と実験の書き取り。心配なら結界つけるよ」

 ひらひらと指先を振って指示するのは、若い青年に見えても大公だ。魔王城に勤める以上、分野が違っても上司だった。断るには正当な理由が必要だ。

「本当に危険はないか?」

「ない。僕の結界はルシファーと並んで強いんだから、心配いらないよ」

 毛筋ほども傷つけないから。そこまで言われたら断れない。文官達が詰める部屋で書類を確認する妹アンナを連れに行った。

 ルキフェルの後ろで片足を紐で繋がれたピヨが、なんとか解こうと暴れる。紐を焼き切ろうと協力するアラエル共々、ルキフェルにこんがりと焼かれた。

「暴れるなっての! 自分が悪いんだからね」

 ルキフェルに叱られ、ピヨはしょんぼりと座り込んだ。哀れを誘う上目遣いで紐を解いてくれと強請るが、水色の髪をかき上げたルキフェルは首を横に振った。

「全然反省してない。そういう仕草は僕も得意だからバレるの。大人しくしてて」

「ぐぁあああ! 離せっ、離せぇ」

 ピヨが大騒ぎして、慌てたアラエルがその口を塞いだ。口に押し当てられた羽を齧って突き、番に悲鳴を上げさせる。

「なんという! ピヨ、また騒動を起こしたのか!? ルキフェル様、申し訳ございません」

 駆けつけたフェンリルが平身低頭、謝罪する。養い親のヤンは、すっかり保護者だった。アラエル以上に、ピヨの後始末に忙しい。

「実験終わったら離すよ。それまで押さえておいてくれる?」

「かしこまりました」

 ピヨの羽の付け根を噛んで動けなくし、ヤンは前脚でピヨを押さえつけた。諦めたのか大人しくなったピヨの隣で、アラエルがほっと肩の力を抜く。なんだかんだ、幼い雛は母親がいないとダメなようだ。

「お呼びですか」

 駆けつけたアンナに魔石をひとつ手渡す。

「これに魔力を補充してくれる? 無理がない範囲でいいよ。あとこれが結界ね」

 魔法陣を地面に描いたルキフェルが指差す。約束通り結界も用意されたため、イザヤも筆記の準備を整えて待った。

「僕の言葉をメモしてくれたらいいよ。自動筆記だと、さっきみたいな爆発で途切れちゃって困るんだ」

 ぼやきながら、ルキフェルは実験の様子を中継し始める。

「左が10年ほど前のプリン、右が本日製作のプリンね。材料も手法も変更なし。混ぜるのはリリス、器に入れるのも彼女。だけど蒸す作業だけイフリートだ。魔力を込めて作ってないのは確認したから、その先に進むね」

 爆発したのは、魔力が込められた食べ物ではないか確認する作業中だった。ピヨの卵の一部が入っていたのを忘れていたため、大爆発が起きたのだ。

 プリンを作ったリリスは、危ないからと火を使わせてもらえない。ルシファーの指示があるので、オーブンや蒸し器はイフリートが担当してきた。基本的に全く同じ条件のプリンだが、一番違うのは食材の取れた時期だ。

 ルキフェルは魔の森の動物が飢えた理由を、餌の違いだと考えている。それを裏付ける材料として、今回の実験は必須だった。

 結界で守ったプリンを並べ、そっと掬う。両方に魔道具を当てて計測し、それを聞いたイザヤがメモした。ずっと魔石に魔力を注いでいたアンナが、大きく深呼吸して肩の力を抜く。

「出来ました」

「ありがとう、僕にちょうだい」

 手の上に置くと、結界で包んでルキフェルが受け取る。周囲の影響を受けないよう注意しながら、計測用の魔道具に魔石を乗せた。魔力の条件を変えて計測した結果を表にして記載する。イザヤは自分が作った表を眺め、数字が示す現象に気づいた。

「これは……」

「ああ、やっぱりね」

 予想通りだった。少し焦げた袖を指先で弄りながら、ルキフェルは眉尻を下げた。
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