1,048 / 1,397
76章 一難去るとまた……
1043. プリンから判明した事実
しおりを挟む
危険が伴うなら妹のアンナは連れてこない。兄としてはもちろんだが、事実上の夫としても認められなかった。強い口調でそう告げると、ルキフェルはからりと笑う。
「平気、もう危ない実験は終わったから。手伝って欲しいのは、僕と違う魔力の補充と実験の書き取り。心配なら結界つけるよ」
ひらひらと指先を振って指示するのは、若い青年に見えても大公だ。魔王城に勤める以上、分野が違っても上司だった。断るには正当な理由が必要だ。
「本当に危険はないか?」
「ない。僕の結界はルシファーと並んで強いんだから、心配いらないよ」
毛筋ほども傷つけないから。そこまで言われたら断れない。文官達が詰める部屋で書類を確認する妹アンナを連れに行った。
ルキフェルの後ろで片足を紐で繋がれたピヨが、なんとか解こうと暴れる。紐を焼き切ろうと協力するアラエル共々、ルキフェルにこんがりと焼かれた。
「暴れるなっての! 自分が悪いんだからね」
ルキフェルに叱られ、ピヨはしょんぼりと座り込んだ。哀れを誘う上目遣いで紐を解いてくれと強請るが、水色の髪をかき上げたルキフェルは首を横に振った。
「全然反省してない。そういう仕草は僕も得意だからバレるの。大人しくしてて」
「ぐぁあああ! 離せっ、離せぇ」
ピヨが大騒ぎして、慌てたアラエルがその口を塞いだ。口に押し当てられた羽を齧って突き、番に悲鳴を上げさせる。
「なんという! ピヨ、また騒動を起こしたのか!? ルキフェル様、申し訳ございません」
駆けつけたフェンリルが平身低頭、謝罪する。養い親のヤンは、すっかり保護者だった。アラエル以上に、ピヨの後始末に忙しい。
「実験終わったら離すよ。それまで押さえておいてくれる?」
「かしこまりました」
ピヨの羽の付け根を噛んで動けなくし、ヤンは前脚でピヨを押さえつけた。諦めたのか大人しくなったピヨの隣で、アラエルがほっと肩の力を抜く。なんだかんだ、幼い雛は母親がいないとダメなようだ。
「お呼びですか」
駆けつけたアンナに魔石をひとつ手渡す。
「これに魔力を補充してくれる? 無理がない範囲でいいよ。あとこれが結界ね」
魔法陣を地面に描いたルキフェルが指差す。約束通り結界も用意されたため、イザヤも筆記の準備を整えて待った。
「僕の言葉をメモしてくれたらいいよ。自動筆記だと、さっきみたいな爆発で途切れちゃって困るんだ」
ぼやきながら、ルキフェルは実験の様子を中継し始める。
「左が10年ほど前のプリン、右が本日製作のプリンね。材料も手法も変更なし。混ぜるのはリリス、器に入れるのも彼女。だけど蒸す作業だけイフリートだ。魔力を込めて作ってないのは確認したから、その先に進むね」
爆発したのは、魔力が込められた食べ物ではないか確認する作業中だった。ピヨの卵の一部が入っていたのを忘れていたため、大爆発が起きたのだ。
プリンを作ったリリスは、危ないからと火を使わせてもらえない。ルシファーの指示があるので、オーブンや蒸し器はイフリートが担当してきた。基本的に全く同じ条件のプリンだが、一番違うのは食材の取れた時期だ。
ルキフェルは魔の森の動物が飢えた理由を、餌の違いだと考えている。それを裏付ける材料として、今回の実験は必須だった。
結界で守ったプリンを並べ、そっと掬う。両方に魔道具を当てて計測し、それを聞いたイザヤがメモした。ずっと魔石に魔力を注いでいたアンナが、大きく深呼吸して肩の力を抜く。
「出来ました」
「ありがとう、僕にちょうだい」
手の上に置くと、結界で包んでルキフェルが受け取る。周囲の影響を受けないよう注意しながら、計測用の魔道具に魔石を乗せた。魔力の条件を変えて計測した結果を表にして記載する。イザヤは自分が作った表を眺め、数字が示す現象に気づいた。
「これは……」
「ああ、やっぱりね」
予想通りだった。少し焦げた袖を指先で弄りながら、ルキフェルは眉尻を下げた。
「平気、もう危ない実験は終わったから。手伝って欲しいのは、僕と違う魔力の補充と実験の書き取り。心配なら結界つけるよ」
ひらひらと指先を振って指示するのは、若い青年に見えても大公だ。魔王城に勤める以上、分野が違っても上司だった。断るには正当な理由が必要だ。
「本当に危険はないか?」
「ない。僕の結界はルシファーと並んで強いんだから、心配いらないよ」
毛筋ほども傷つけないから。そこまで言われたら断れない。文官達が詰める部屋で書類を確認する妹アンナを連れに行った。
ルキフェルの後ろで片足を紐で繋がれたピヨが、なんとか解こうと暴れる。紐を焼き切ろうと協力するアラエル共々、ルキフェルにこんがりと焼かれた。
「暴れるなっての! 自分が悪いんだからね」
ルキフェルに叱られ、ピヨはしょんぼりと座り込んだ。哀れを誘う上目遣いで紐を解いてくれと強請るが、水色の髪をかき上げたルキフェルは首を横に振った。
「全然反省してない。そういう仕草は僕も得意だからバレるの。大人しくしてて」
「ぐぁあああ! 離せっ、離せぇ」
ピヨが大騒ぎして、慌てたアラエルがその口を塞いだ。口に押し当てられた羽を齧って突き、番に悲鳴を上げさせる。
「なんという! ピヨ、また騒動を起こしたのか!? ルキフェル様、申し訳ございません」
駆けつけたフェンリルが平身低頭、謝罪する。養い親のヤンは、すっかり保護者だった。アラエル以上に、ピヨの後始末に忙しい。
「実験終わったら離すよ。それまで押さえておいてくれる?」
「かしこまりました」
ピヨの羽の付け根を噛んで動けなくし、ヤンは前脚でピヨを押さえつけた。諦めたのか大人しくなったピヨの隣で、アラエルがほっと肩の力を抜く。なんだかんだ、幼い雛は母親がいないとダメなようだ。
「お呼びですか」
駆けつけたアンナに魔石をひとつ手渡す。
「これに魔力を補充してくれる? 無理がない範囲でいいよ。あとこれが結界ね」
魔法陣を地面に描いたルキフェルが指差す。約束通り結界も用意されたため、イザヤも筆記の準備を整えて待った。
「僕の言葉をメモしてくれたらいいよ。自動筆記だと、さっきみたいな爆発で途切れちゃって困るんだ」
ぼやきながら、ルキフェルは実験の様子を中継し始める。
「左が10年ほど前のプリン、右が本日製作のプリンね。材料も手法も変更なし。混ぜるのはリリス、器に入れるのも彼女。だけど蒸す作業だけイフリートだ。魔力を込めて作ってないのは確認したから、その先に進むね」
爆発したのは、魔力が込められた食べ物ではないか確認する作業中だった。ピヨの卵の一部が入っていたのを忘れていたため、大爆発が起きたのだ。
プリンを作ったリリスは、危ないからと火を使わせてもらえない。ルシファーの指示があるので、オーブンや蒸し器はイフリートが担当してきた。基本的に全く同じ条件のプリンだが、一番違うのは食材の取れた時期だ。
ルキフェルは魔の森の動物が飢えた理由を、餌の違いだと考えている。それを裏付ける材料として、今回の実験は必須だった。
結界で守ったプリンを並べ、そっと掬う。両方に魔道具を当てて計測し、それを聞いたイザヤがメモした。ずっと魔石に魔力を注いでいたアンナが、大きく深呼吸して肩の力を抜く。
「出来ました」
「ありがとう、僕にちょうだい」
手の上に置くと、結界で包んでルキフェルが受け取る。周囲の影響を受けないよう注意しながら、計測用の魔道具に魔石を乗せた。魔力の条件を変えて計測した結果を表にして記載する。イザヤは自分が作った表を眺め、数字が示す現象に気づいた。
「これは……」
「ああ、やっぱりね」
予想通りだった。少し焦げた袖を指先で弄りながら、ルキフェルは眉尻を下げた。
20
お気に入りに追加
4,905
あなたにおすすめの小説
【毎日更新】元魔王様の2度目の人生
ゆーとちん
ファンタジー
人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。
しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。
膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。
なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。
暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。
神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。
それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。
神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。
魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。
そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。
魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです!
元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
君は、妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは、婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でも、ある時、マリアは、妾の子であると、知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして、次の日には、迎えの馬車がやって来た。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる