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74章 事後処理が一番大変
1023. 足止め成功?
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運ばれた書類の山で、執務室内が見渡せない。これはアスタロトが姿を消すための仕掛けだ。侍従のベリアルに命じて書類を足元に積み直させた。
「助かったぞ、ボーナスだ」
コボルトの好きな鹿肉を渡す。不満そうな顔をするアスタロトに、にやりと笑った。お前の考えなどお見通しだ。見えない隙間を縫って、窓から出入りして転移を使う気だろう。だが、アベルとルーサルカの狩猟デートの邪魔はさせない。
「陛下、笑っていないで書類を処理してください」
「わかった。お前もここで読み上げをしろ」
普段と違う「陛下」という余所余所しい呼び方に、アスタロトの苦い感情が窺える。今回に関しては自分の失態絡みではないため、ルシファーは強気だった。膝の上にお姫様を乗せているので、さらに機嫌もいい。
辺境で行われた人族殲滅作戦は、一段落した。逃げた者がいないか、捜索と調査はもちろん継続している。この辺は1匹逃すと30匹に増えるという表現で、魔族の戒めとして残る風習だった。少なくとも1ヶ月ほどは捜索範囲を広げながら、魔王軍が巡回することになる。
その辺の資材や食料の調達許可、現地での建物や街道を含む人工物損壊に関する申請、新しい交代人員の補充など。書類は多岐にわたった。淡々と読み上げるアスタロトの様子を見ながら、ルシファーは先ほど説明された書類に署名した。上で次の書類が読み上げられ、内容に一部修正を加えて許可する。
苦情の処理が回ってきたことに気づき、眉を顰めたアスタロトが脇に避けた。噂の差し戻し箱だ。ここに入れられた書類は不備や内容を審査した上で、改めて再提出となる。文官にとって恐怖の箱だった。
苦情の書類は対処の専門部署へ戻すよう一筆添え、次の書類に目を通した。誤字を発見してしまい、そっと二重線を引いて直す。
「陛下、それは戻した方が」
「もう直したから」
アスタロトがそうやって返すから、文官が怯えるんだろう。そう考えるルシファーは間違っていない。事実をきちんと捉えていた。だが逆に考えれば、こうしてルシファーが甘やかすほど文官に緩みが生じる。溜め息をついて、アスタロトは手元の書類を机に置いた。
「よろしいでしょうか?」
「なんだ」
「こうして甘やかすことで、彼らは手を抜きます。事実、そういった傾向が見られたから差し戻しの箱を用意した経緯がありますし、書類は完全に仕上げて提出するよう躾ける必要があります」
「……躾けると言うな、可哀想だぞ。誰だって間違いはある。それをあげ連ねて差し戻していたら、彼らの効率や士気が落ちる」
きょろきょろと2人の顔を見つめるリリスが、くすくす笑いだした。
「どっちも正しいのに、どうしていつもぶつかるのかしら」
指摘されて、その通りだとルシファーが苦笑いした。アスタロトも虚をつかれた表情で、リリスを見つめる。
「こうしたらどう? 内容に問題がある書類の箱と、配達間違いや文字の間違いの箱を分けるの」
「さすがリリス。そうしよう」
「わかりました。箱を用意いたします」
アスタロトがあっさりと受け入れた後、何かあるたびに専用箱が増えていき……最後にまた箱が纏められることになるのだが。それは数年後のことだ。今はまだ「素晴らしいアイディア」として、魔王の執務室で採用されたばかり。
嬉しそうなリリスが口に飴を放り込み、愛用の箱からチョコを取り出してルシファーの口に押し込んだ。
「では残りを片付けてしまいましょう」
アスタロトはちらりと窓の外を窺う仕草をしたものの、そのまま書類を読み上げ始めた。
「助かったぞ、ボーナスだ」
コボルトの好きな鹿肉を渡す。不満そうな顔をするアスタロトに、にやりと笑った。お前の考えなどお見通しだ。見えない隙間を縫って、窓から出入りして転移を使う気だろう。だが、アベルとルーサルカの狩猟デートの邪魔はさせない。
「陛下、笑っていないで書類を処理してください」
「わかった。お前もここで読み上げをしろ」
普段と違う「陛下」という余所余所しい呼び方に、アスタロトの苦い感情が窺える。今回に関しては自分の失態絡みではないため、ルシファーは強気だった。膝の上にお姫様を乗せているので、さらに機嫌もいい。
辺境で行われた人族殲滅作戦は、一段落した。逃げた者がいないか、捜索と調査はもちろん継続している。この辺は1匹逃すと30匹に増えるという表現で、魔族の戒めとして残る風習だった。少なくとも1ヶ月ほどは捜索範囲を広げながら、魔王軍が巡回することになる。
その辺の資材や食料の調達許可、現地での建物や街道を含む人工物損壊に関する申請、新しい交代人員の補充など。書類は多岐にわたった。淡々と読み上げるアスタロトの様子を見ながら、ルシファーは先ほど説明された書類に署名した。上で次の書類が読み上げられ、内容に一部修正を加えて許可する。
苦情の処理が回ってきたことに気づき、眉を顰めたアスタロトが脇に避けた。噂の差し戻し箱だ。ここに入れられた書類は不備や内容を審査した上で、改めて再提出となる。文官にとって恐怖の箱だった。
苦情の書類は対処の専門部署へ戻すよう一筆添え、次の書類に目を通した。誤字を発見してしまい、そっと二重線を引いて直す。
「陛下、それは戻した方が」
「もう直したから」
アスタロトがそうやって返すから、文官が怯えるんだろう。そう考えるルシファーは間違っていない。事実をきちんと捉えていた。だが逆に考えれば、こうしてルシファーが甘やかすほど文官に緩みが生じる。溜め息をついて、アスタロトは手元の書類を机に置いた。
「よろしいでしょうか?」
「なんだ」
「こうして甘やかすことで、彼らは手を抜きます。事実、そういった傾向が見られたから差し戻しの箱を用意した経緯がありますし、書類は完全に仕上げて提出するよう躾ける必要があります」
「……躾けると言うな、可哀想だぞ。誰だって間違いはある。それをあげ連ねて差し戻していたら、彼らの効率や士気が落ちる」
きょろきょろと2人の顔を見つめるリリスが、くすくす笑いだした。
「どっちも正しいのに、どうしていつもぶつかるのかしら」
指摘されて、その通りだとルシファーが苦笑いした。アスタロトも虚をつかれた表情で、リリスを見つめる。
「こうしたらどう? 内容に問題がある書類の箱と、配達間違いや文字の間違いの箱を分けるの」
「さすがリリス。そうしよう」
「わかりました。箱を用意いたします」
アスタロトがあっさりと受け入れた後、何かあるたびに専用箱が増えていき……最後にまた箱が纏められることになるのだが。それは数年後のことだ。今はまだ「素晴らしいアイディア」として、魔王の執務室で採用されたばかり。
嬉しそうなリリスが口に飴を放り込み、愛用の箱からチョコを取り出してルシファーの口に押し込んだ。
「では残りを片付けてしまいましょう」
アスタロトはちらりと窓の外を窺う仕草をしたものの、そのまま書類を読み上げ始めた。
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