上 下
1,008 / 1,397
72章 世界の異物を取り除くか

1003. ひとつ終わると次か

しおりを挟む
 応援でさらに数人の侍女を連れ、リリスも戻った。単純な作業なのだが、だからこそ疲れるのも事実だ。魔法で数秒で片付く作業を、黙々と手作業で分類した。

「こういうの、意外でした」

 アンナが呟く。なんでも魔法陣で解決できると思っていたので、魔族は本当に優れた種族だと感心したのに……なんとも原始的な作業である。

「こんなもんだろう。一長一短というやつだ」

 イザヤは淡々と妹に答え、ひとまず拾った書類の向きだけ直す。そこで思いついたように分業化を提案した。拾うだけの人、向きを直す人、大きく分類する人、さらに細かく箱に片付ける人。そうすれば作業は効率が良くなるのでは?

 彼らしい提案に、ルシファーが飛びついた。性格だろうか。リリスは拾うだけを立候補し、ルシファーは最後の一番面倒な分類を担当した。手分けして作業を始めた部屋の外で日差しが傾き、やがて夕日が沈み切って暗くなる頃、ようやく書類は分類が終わった。

 部屋を出た当初と同じ、机にきちんと積まれた書類を見て感動する。途中で空腹を覚えたリリスにより、全員の口に飴が詰め込まれていた。

「元通り、ね」

「ああ、みんな助かった。ありがとう」

 リリスとルシファーが顔を綻ばせ、その場で手伝った侍女や日本人を労い、その場は解散となった。日本人に関しては、帰りが遅くなったのでアベルの分も含め、夕食の唐揚げを手土産に持たせる。帰宅して食事の支度をせずに済むと、アンナは大喜びで持ち帰った。侍女達にもボーナスが確約され、全員ホクホク顔だ。

「イポス、一緒に夕飯しましょう」

「いえ。今夜は父と約束がございますので、また今度」

 断り文句かと思えば、すぐにサタナキア将軍が迎えにきた。

「お前は残ったのか」

 人族殲滅戦なら、真っ先に飛び出すと思った。意外な人物が残ったものだと呟けば、彼は苦笑いする。

「部下に、前回も出たのだから手柄を譲れと言われましたので、今回は魔王城の警護担当です」

 こんなことなら前回を譲ればよかったですな。からりと笑った将軍は、迎えにきた娘と腕を組んで退室した。残された2人と1匹は顔を見合わせる。

「アデーレを誘う?」

「いや、オレ達だけでいいだろう」

 今日は疲れたので、夕食を食べたらゆっくりしたい。思わぬハプニングを笑うルシファーに、リリスも素直に頷いた。いつの間にか退室していたアデーレが、別の侍女とともに食事の準備ができたと伝えにくる。彼女にも休むよう伝え、2人は自室に移動した。今度こそきちんと窓が閉まっているのを確認し、書類をすべて箱に入れて蓋をしている。

「今日はリリスの好物のコカトリスの唐揚げを用意したぞ」

「嬉しい! ヤンもたくさん食べるのよ」

「ご相伴に預かりますぞ」

 どこでそんな言葉を覚えたのか、雑談に興じながら自室へ移動する。奥の角部屋は直接廊下に面していないため、手前のリビングとして使用する部屋の扉を開けた。用意された夕食の匂いが漂う。食事専用の部屋もあるのだが、リリスを拾ってから使用するのはもっぱらこちらの部屋だ。

 開けた扉の先で、何やら動く影があった。

「曲者ですぞ!」

 唐揚げ泥棒だと勇んだヤンが飛びかかり、小柄な影を押さえつけた。

「僕だよぉ」

 口に唐揚げを頬張ったレラジェの姿に、リリスは手を叩いて「見つかった」と喜び、厄介ごとの予感にルシファーは額を押さえた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?! 異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。 #日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/08/13……完結 2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位 2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位 2024/07/01……連載開始

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...