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69章 異世界からの落とし物

949. 拗ねたのかしらね

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「だって邪魔だったんだもの」

 幼児がカード化した理由を尋ねられたベルゼビュートは、まず言い訳から入った。つまり何か余計なことを言ったか、したか。叱られる心当たりがあるのだろう。

 無言で腕を組んで睨みつけるルシファーに、指先でくるくると毛先を巻くベルゼビュート。見つめ合う彼と彼女の間で、リリスがふくれっ面になった。

「もう! ベルゼ姉さんと見つめ合うなんて酷い」

 よくわからない癇癪を起こすリリスに「ごめんな」と表情を和らげるルシファーは、あわてて彼女の機嫌を取り始めた。ただの悋気かと周囲が放置するなか、頬と額へのキスで許してもらったルシファーは視線の位置を変更する。しかし上ではなく下へ動かしたため、今度は胸元を凝視してしまい居心地が悪い。

 視線の位置に困ったルシファーは、最終的にベルゼビュートの巻き毛を見つめることで決着した。腕にしがみついて牽制するリリスの必死さに、周囲は微笑ましさを覚えて穏やかに見守る。

「リリス様も立派に女性ね」

「嫉妬で魔王を尻に敷くなんて、他の方にはできませんわ」

 一応魔族最高位が魔王なので、他の方に簡単に同じことが出来たら困るわけだが……大公女達の感想にツッコミを入れながら、ルキフェルが肩を竦める。以前のリリスは幼い感情でルシファーを自分に引き付けようとしたが、ここ数年は明らかに女性として見て欲しいと願っていた。

 リリスを嫁にすると宣言したルシファーだが、リリスの振る舞いが幼いため庇護対象としての意識が強い。可愛がるし愛しているが、即座に欲望対象にならないのだ。長く一緒にいすぎた弊害と呼べるかも知れないが、これは当事者が何とかする問題だった。

 魔王の魔王が反応するんだから、問題ないだろ。投げやりにそう考えるルキフェルの前で、ベルゼビュートはもじもじと毛先を弄った。いい年して何を子供みたいな真似してるの。ルキフェルの視線に呆れが混じる。

「ちゃんと連れて歩いてたのよ。でもあの子歩くの遅いし、脇に抱えて移動することにしたわ。そしたら泣き出して……邪魔なのかって駄々こねるんだもの。思わず「そうよ」って返しちゃったら、こうなったから」

 なくさない様に胸の谷間に差し込んだらしい。身体にぴったりのドレスを好むベルゼビュートに、ポケットやバッグにしまう観念はなかった。ある意味、この状態のレラジェを収納空間に入れて、息の根を止めなかったことを褒めるべきだろう。

 考える前に行動するベルゼビュートなら、悪気なく殺した可能性も否定できないのだから。理由を聞くにつれ、大公女達の表情が引きつった。イポスは澄ました顔をしてるが、僅かに視線を斜め下に逸らす。一気に信頼を失った瞬間だった。

 ヤンは「赤子は面倒ですからな」と訳知り顔で頷く。自分の子はもちろん、隠居すると決めたらリリスの子守を任され、ピヨまで育てる羽目になった。彼はある意味、面倒な育児に関して経験豊富なのだ。

「……どうやったら戻る?」

「話しかけたら返事するかも知れないわ」

 ルシファーが手の中でカードを眺めながら呟き、リリスは腕にしがみついて答える。互いに真剣なのだが、いちゃつく恋人同士に見えるのは仕方ない。両思いのカップルなのだから。

「話しかけるのは何度もやったの。謝ったし宥めすかしたわ。ちょっとだけ魔力も流してみたけど、反応がなくてお手上げね」

「ふーん。拗ねたのかしら」

 納得していない様子のリリスが、空を指さした。嫌な予感がして、周囲が青ざめる。

「どかんしたら目が覚めるかも!」

「待て、リリス。それは……」

 危険だと止めるより早く、リリスの雷がルシファーごとカードを貫いた。
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