953 / 1,397
69章 異世界からの落とし物
948. 再会は予想外の姿で
しおりを挟む
くしゃ……軟らかそうな音で崩れる球体は、二つに割れた。中から粘度の高い液体がどろりと流れ、地面を焼いた。じゅっと溶かす音を響かせて緑が茶になり黒に変色する。酸毒に似た鼻をつく臭いを、ルキフェルは結界で隔離した。
採取して保管する手順は慣れた。危険な物体を数多く解剖して研究する部署を統括するルキフェルは、手早く臭いや煙を分離する。ふわりと漂った臭いに鼻をひくつかせ「酸性だ」と分類して収納へ放り込んだ。
どろりと溶け出た液体から核を注意深く魔法陣で包み、活動を停止させる。赤く虹彩に見えた部分が核で間違いない。そのまま魔法陣を瓶に変えて収納空間へ入れた。これで変質の心配はないし、生き物だったとしても生命活動が完全に停止する。生き物を入れられない収納の特性を逆手にとった安全策だった。
「僕はこれを調べるから帰るね」
新しい研究材料を手に入れた青年は、子供だった頃と同じに目を輝かせ浮かれた様子で笑う。
「危なくないの? ロキちゃん」
「もう平気だよ。収納内で呼吸も時間も停止すれば死ぬからね。生きてたら、それこそストラスの専門分野だし。研究所内は完全隔離してるから」
緊急時は研究所ごと収納空間へしまえるよう、足元に魔法陣を刻んだルキフェルは笑顔で説明する。研究とともに死ぬなら本望と、志願する研究員は魔法陣を容認していた。そのくらいの心意気がなければ、休憩すら満足に取れない研究所に就職しない。
未知の物体や症状を調べることと、己の命を秤にかけて前者を選ぶ強者ばかりの部署だった。危険なので、大公かオレが一緒でないと見学も許可されないリリスは、ふーんと生返事をする。あまり興味はないらしい。
「……ところで、ベルゼ」
巻き毛を指先でくるくる直そうとする側近に声をかけると、慌てて直立不動の石像のように固まった。
「は、はいっ!」
「預けたレラジェはどこやった?」
合流した時から連れていなかったが……面倒になってそこらに捨ててたら困る。ルシファーが指摘すると、リリスも手を叩いて「そうよ」と話に乗ってきた。
リリスの後ろに控えるイポスが複雑そうな顔をする。好奇心旺盛で、次々とターゲットを変更する主君に振り回されるのはだいぶ慣れた。何か言い出しそうな予感に、黒髪が流れる背中をじっと見つめる。
「レラジェなら……ここですわ」
ふくよかな胸の谷間に手を突っ込み、ベルゼビュートは1枚のカードを取り出した。説明が不得手な精霊女王は見て貰えばわかるとばかりに、カードをルシファーに差し出す。尋ねたのはリリスだが、安全確認が終わるまでルシファーは渡さないだろう。その判断は正しかった。
少しぬくもりの残るカードを受け取り、裏と表を何度も確認してひらひら振ってみた。しかし何も起きない。ぴょんぴょんと背伸びして覗くリリスの差し出した手は、早く渡してと要求する。迷った末に結界に包んでからリリスに渡した。
「どうしてカードになったの?」
ルキフェルの尋ね方は独特だ。どうやってカードにしたか、ではない。レラジェが自分でカードに変化したと判断した。その考えに至った途中を省いて答えを突きつけるのは、彼の癖だった。頭の回転が早く、一流の記憶力を誇るルキフェルは他人の考えを待つのが焦ったい。
途中経過を省いて、答えだけ求める。外見と違い、変わらぬルキフェルの個性的な一面だった。リリスから受け取ったカードを撫でたり引っ掻いたりして確認し、軽く火で炙っている。
「ルキフェル、壊すなよ」
「わかってる。ちょっとだけ」
そのちょっとで研究室は何度も吹き飛んでいるのだが、彼は一向に懲りない。好奇心の方を優先してしまう。危険なので、レラジェの姿絵カードを一度取り上げた。
採取して保管する手順は慣れた。危険な物体を数多く解剖して研究する部署を統括するルキフェルは、手早く臭いや煙を分離する。ふわりと漂った臭いに鼻をひくつかせ「酸性だ」と分類して収納へ放り込んだ。
どろりと溶け出た液体から核を注意深く魔法陣で包み、活動を停止させる。赤く虹彩に見えた部分が核で間違いない。そのまま魔法陣を瓶に変えて収納空間へ入れた。これで変質の心配はないし、生き物だったとしても生命活動が完全に停止する。生き物を入れられない収納の特性を逆手にとった安全策だった。
「僕はこれを調べるから帰るね」
新しい研究材料を手に入れた青年は、子供だった頃と同じに目を輝かせ浮かれた様子で笑う。
「危なくないの? ロキちゃん」
「もう平気だよ。収納内で呼吸も時間も停止すれば死ぬからね。生きてたら、それこそストラスの専門分野だし。研究所内は完全隔離してるから」
緊急時は研究所ごと収納空間へしまえるよう、足元に魔法陣を刻んだルキフェルは笑顔で説明する。研究とともに死ぬなら本望と、志願する研究員は魔法陣を容認していた。そのくらいの心意気がなければ、休憩すら満足に取れない研究所に就職しない。
未知の物体や症状を調べることと、己の命を秤にかけて前者を選ぶ強者ばかりの部署だった。危険なので、大公かオレが一緒でないと見学も許可されないリリスは、ふーんと生返事をする。あまり興味はないらしい。
「……ところで、ベルゼ」
巻き毛を指先でくるくる直そうとする側近に声をかけると、慌てて直立不動の石像のように固まった。
「は、はいっ!」
「預けたレラジェはどこやった?」
合流した時から連れていなかったが……面倒になってそこらに捨ててたら困る。ルシファーが指摘すると、リリスも手を叩いて「そうよ」と話に乗ってきた。
リリスの後ろに控えるイポスが複雑そうな顔をする。好奇心旺盛で、次々とターゲットを変更する主君に振り回されるのはだいぶ慣れた。何か言い出しそうな予感に、黒髪が流れる背中をじっと見つめる。
「レラジェなら……ここですわ」
ふくよかな胸の谷間に手を突っ込み、ベルゼビュートは1枚のカードを取り出した。説明が不得手な精霊女王は見て貰えばわかるとばかりに、カードをルシファーに差し出す。尋ねたのはリリスだが、安全確認が終わるまでルシファーは渡さないだろう。その判断は正しかった。
少しぬくもりの残るカードを受け取り、裏と表を何度も確認してひらひら振ってみた。しかし何も起きない。ぴょんぴょんと背伸びして覗くリリスの差し出した手は、早く渡してと要求する。迷った末に結界に包んでからリリスに渡した。
「どうしてカードになったの?」
ルキフェルの尋ね方は独特だ。どうやってカードにしたか、ではない。レラジェが自分でカードに変化したと判断した。その考えに至った途中を省いて答えを突きつけるのは、彼の癖だった。頭の回転が早く、一流の記憶力を誇るルキフェルは他人の考えを待つのが焦ったい。
途中経過を省いて、答えだけ求める。外見と違い、変わらぬルキフェルの個性的な一面だった。リリスから受け取ったカードを撫でたり引っ掻いたりして確認し、軽く火で炙っている。
「ルキフェル、壊すなよ」
「わかってる。ちょっとだけ」
そのちょっとで研究室は何度も吹き飛んでいるのだが、彼は一向に懲りない。好奇心の方を優先してしまう。危険なので、レラジェの姿絵カードを一度取り上げた。
20
お気に入りに追加
5,069
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる