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67章 襲撃の残り火

914. 祝賀ムードのパレードを

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 大歓迎と書かれた旗を振る人々に迎えられ、リリスは満面の笑みで手を振りまくる。急遽呼ばれたヤンがフェンリル姿で馬の代わりに、魔王と魔王妃を乗せる演出もされた。巨人や身体の大きな種族が中心の街は、門や道からして大きくて広い。

 小山サイズの灰色魔狼の背に乗っても、門にぶつからないのは有難い。ヤンも尻尾を振りながらご機嫌で通過した。魔狼の拠点である森から少し離れているが、買い物の際に巨大な種族が歩きやすいという理由で、魔熊や幻獣などが好んで買い物に訪れる街だった。

 領主が巨人であるため、大らかで他種族に寛容なことから観光地としても人気がある。冬は雪が多く積もる地域なので、屋根に雪を解かす魔法陣が刻まれているのも特徴だった。

「魔法陣がたくさん!」

 ヤンの上からだと低い屋根の上が見えるため、リリスは興奮した様子であちこちの屋根を指さす。ずっと使う魔法陣なので、カラフルな刻印が多かった。家ごとに個性を出しているのだ。

「ヤン、急で悪かったな」

 現在まだピヨとの接触禁止期間中であり、門番のアラエルと一緒に魔王城の中庭警備をしていた。魔王ルシファーに心酔するヤンは、ぶんぶんと尻尾を振り回す。

「いえ、我が君のお役に立てるならそれ以上の幸せはございません」

 子供の頃は足を開いて跨ったリリスだが、さすがにアデーレの淑女教育を受けた今は横向きに座る。しかし進行方向が気になるので、落ち着かないらしい。抱き寄せて膝の上に横抱きにすると、首に手を回したリリスは笑顔で礼を口にした。

「自分が小さくなったみたい」

 イポスがくすくす笑いながら周囲を見回す。この街に来たのは初めてだが、父や同僚から話には聞いていた。巨人用に作られた建物のドアが重いことや、明かり取りの小窓がテラスの窓に匹敵すること。そんな噂を実際に体験できるとは思わなかった。

 珍しく感情を出して周囲を見回すイポスだが、大公女達も目を輝かせて同意する。

「小さな精霊から見た私達も、こんな感じなのかしら」

「子供の頃に遊んだ人形になった気分ね」

 ルーシアやシトリーが呟くと、アベルと並んで歩くルーサルカも上を向いた。一度見上げると、大きな街に迷い込んだ小人の気分で、足元が疎かになる。全員が上を見上げて歩く中、最初に躓いたのはレライエだった。

「きゃっ!」

「ライ!!」

 削った石を並べた街道の段差に躓いた彼女を、翡翠竜が受け止める。バッグから大急ぎで飛び出したアムドゥスキアスの上に倒れた彼女は、下敷きになった婚約者を撫でた。

「助かった。ありがとう」

「いえ」

 照れて両手で顔を覆う翡翠竜の頬がほんのり赤い。

「いっそ、もっと強く潰していただいても……」

 続いたM発言を、聞かなかったフリでスルーしたレライエが身を起こす。元の大きさに戻ったアムドゥスキアスだが、小型化してバッグに戻ろうとして動きを止めた。他の竜より一回り小さい彼は、ぐるりと回りを見回すと、恐る恐る提案した。

「ライ、私の背に乗りませんか?」

「いいのか!?」

 目を輝かせたアムドゥスキアスは嬉しそうに「はい」と答えて、背に婚約者を乗せる。一緒に乗ったのはルーシアだった。シトリーは自分の羽を出してひらひらと舞っている。高さが自在に操れるので、自分で飛ぶ方を選んだらしい。

 イポスがヤンの斜め後ろを歩き、反対側をアスタロトが続く。義父と手を繋いだルーサルカは、逆の手をアベルに預けて歩きだした。旗を振って歓迎する人々に、幸せな魔王と魔王妃をお披露目するため、ヤンはことさらゆっくりと歩を進める。

 街の中央に位置する巨人族の侯爵家に到着するまで、彼らは笑顔で人々に手を振り続けた。
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