上 下
919 / 1,397
67章 襲撃の残り火

914. 祝賀ムードのパレードを

しおりを挟む
 大歓迎と書かれた旗を振る人々に迎えられ、リリスは満面の笑みで手を振りまくる。急遽呼ばれたヤンがフェンリル姿で馬の代わりに、魔王と魔王妃を乗せる演出もされた。巨人や身体の大きな種族が中心の街は、門や道からして大きくて広い。

 小山サイズの灰色魔狼の背に乗っても、門にぶつからないのは有難い。ヤンも尻尾を振りながらご機嫌で通過した。魔狼の拠点である森から少し離れているが、買い物の際に巨大な種族が歩きやすいという理由で、魔熊や幻獣などが好んで買い物に訪れる街だった。

 領主が巨人であるため、大らかで他種族に寛容なことから観光地としても人気がある。冬は雪が多く積もる地域なので、屋根に雪を解かす魔法陣が刻まれているのも特徴だった。

「魔法陣がたくさん!」

 ヤンの上からだと低い屋根の上が見えるため、リリスは興奮した様子であちこちの屋根を指さす。ずっと使う魔法陣なので、カラフルな刻印が多かった。家ごとに個性を出しているのだ。

「ヤン、急で悪かったな」

 現在まだピヨとの接触禁止期間中であり、門番のアラエルと一緒に魔王城の中庭警備をしていた。魔王ルシファーに心酔するヤンは、ぶんぶんと尻尾を振り回す。

「いえ、我が君のお役に立てるならそれ以上の幸せはございません」

 子供の頃は足を開いて跨ったリリスだが、さすがにアデーレの淑女教育を受けた今は横向きに座る。しかし進行方向が気になるので、落ち着かないらしい。抱き寄せて膝の上に横抱きにすると、首に手を回したリリスは笑顔で礼を口にした。

「自分が小さくなったみたい」

 イポスがくすくす笑いながら周囲を見回す。この街に来たのは初めてだが、父や同僚から話には聞いていた。巨人用に作られた建物のドアが重いことや、明かり取りの小窓がテラスの窓に匹敵すること。そんな噂を実際に体験できるとは思わなかった。

 珍しく感情を出して周囲を見回すイポスだが、大公女達も目を輝かせて同意する。

「小さな精霊から見た私達も、こんな感じなのかしら」

「子供の頃に遊んだ人形になった気分ね」

 ルーシアやシトリーが呟くと、アベルと並んで歩くルーサルカも上を向いた。一度見上げると、大きな街に迷い込んだ小人の気分で、足元が疎かになる。全員が上を見上げて歩く中、最初に躓いたのはレライエだった。

「きゃっ!」

「ライ!!」

 削った石を並べた街道の段差に躓いた彼女を、翡翠竜が受け止める。バッグから大急ぎで飛び出したアムドゥスキアスの上に倒れた彼女は、下敷きになった婚約者を撫でた。

「助かった。ありがとう」

「いえ」

 照れて両手で顔を覆う翡翠竜の頬がほんのり赤い。

「いっそ、もっと強く潰していただいても……」

 続いたM発言を、聞かなかったフリでスルーしたレライエが身を起こす。元の大きさに戻ったアムドゥスキアスだが、小型化してバッグに戻ろうとして動きを止めた。他の竜より一回り小さい彼は、ぐるりと回りを見回すと、恐る恐る提案した。

「ライ、私の背に乗りませんか?」

「いいのか!?」

 目を輝かせたアムドゥスキアスは嬉しそうに「はい」と答えて、背に婚約者を乗せる。一緒に乗ったのはルーシアだった。シトリーは自分の羽を出してひらひらと舞っている。高さが自在に操れるので、自分で飛ぶ方を選んだらしい。

 イポスがヤンの斜め後ろを歩き、反対側をアスタロトが続く。義父と手を繋いだルーサルカは、逆の手をアベルに預けて歩きだした。旗を振って歓迎する人々に、幸せな魔王と魔王妃をお披露目するため、ヤンはことさらゆっくりと歩を進める。

 街の中央に位置する巨人族の侯爵家に到着するまで、彼らは笑顔で人々に手を振り続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」  長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。  魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2023/06/04  完結 ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2021/12/25  小説家になろう ハイファンタジー日間 56位 ※2021/12/24  エブリスタ トレンド1位 ※2021/12/24  アルファポリス HOT 71位 ※2021/12/24  連載開始

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「貴様のような下賤な魔女が、のうのうと我が妻の座を狙い画策するなど! 恥を知れ」  味方のない夜会で、婚約者に罵られた少女は涙を零す。その予想を覆し、彼女は毅然と顔をあげた。残虐皇帝の名で知られるエリクはその横顔に見惚れる。  欲しい――理性ではなく感情で心が埋め尽くされた。愚かな王太子からこの子を奪って、傷ついた心を癒したい。僕だけを見て、僕の声だけ聞いて、僕への愛だけ口にしてくれたら……。  僕は君が溺れるほど愛し、僕なしで生きられないようにしたい。  明かされた暗い過去も痛みも思い出も、僕がすべて癒してあげよう。さあ、この手に堕ちておいで。  脅すように連れ去られたトリシャが魔女と呼ばれる理由――溺愛される少女は徐々に心を開いていく。愛しいエリク、残酷で無慈悲だけど私だけに優しいあなた……手を離さないで。  ヤンデレに愛される魔女は幸せを掴む。 ※2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/07/09  完結 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) ※メリバ展開はありません。ハッピーエンド確定です。 【同時掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...