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65章 新しい生活環境とは
886. 見事に再現された古傷
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「すごい、そっくりだわ」
爆破される前の室内そっくりに仕立てられていた。部屋の間取り、備え付けの家具や絨毯、カーテンに至るまで……時間を巻き戻したようだ。驚いた様子の2人に、アスタロトがくすくす笑いながら種明かしをした。
「侍従や侍女、掃除係まで総出で記憶を持ち寄り復元しています。可能な物には復元魔法を直接かけ、無理な物は記憶を頼りに作り直しました。絨毯やカーテンはアラクネ達の製作時の記録から、家具は職人たちが記憶を掘り起こして試行錯誤ですね」
笑うアスタロトの後ろから、ルキフェルを伴ったベールが顔を見せた。彼らも知っていたらしい。もしかしたら口出しした可能性もあった。廊下でわくわくしながら見守る、侍従のコボルトや侍女アデーレの姿も見える。ベールとルキフェルが口を開いた。
「ようやくお披露目できました」
「凄いでしょう? 作品に関するドワーフの記憶力は異常だよ、研究してみたくなっちゃった」
製作した家具や建物に関する記憶は、ドワーフにとって一生の財産だという。それらを書面に残すのは文官だが、ドワーフは口伝えで弟子に教える。それを改良して師を凌ぐ作品を作るのが、弟子の最大の恩返しとされてきた。
そんな彼らにとって「まったく同じ品」を作り直すのは、さぞ気が引けただろう。出来るなら前回よりよい品を作りたいのがドワーフなのだから。
「素晴らしい作品だ。ドワーフやアラクネ達の才能に敬服した。これほどの傑作を与えられたのだ、魔王として報いなければならないな」
努力に感謝し、彼らの才能を褒めた。同じ部屋を再現した彼らへの褒賞は、望みをアスタロトが聞き取って与える予定だ。それとは別に魔王から存外の誉め言葉を得て、ドワーフの親方は照れた様子で髭をもじもじと弄る。
「おろして、ルシファー」
するりと腕を解いて中に入ったリリスは、天井や家具を確認しながらぐるぐると見回し、嬉しそうに駆け戻ってきた。両手を広げて抱き留めるルシファーに、興奮で赤くなった頬で満面の笑みを浮かべる。
「本当にそっくりよ! 凄いわ、ルシファーが折った鏡台の脚も……」
「しーっ、それは秘密だと言っただろう?」
復元魔法でその場で直したが、鏡台の脚が折れた事実を知るのは当事者2人とアデーレのみ。どうやら彼女がバラしたらしい。大公達の後ろに控えながらも、口元を手で隠す姿は「悪戯成功」と思っているのだ。叱る気などなかった。
「ご苦労だった。心より感謝する」
「喜んでもらえてよかっただ」
親方がくしゃりと顔を潰して笑い、弟子達も頬を緩める。思い出してアスタロトに命じた。
「今夜は好きなだけ酒を飲むといい。ハイエルフのワイン15樽を彼らに持たせてくれ」
ドワーフの酒好きは有名だ。祭りで楽しめる献上品のワインを多めに渡すことにしたルシファーに、ドワーフから歓声が上がった。侍従や侍女にもそれぞれ褒美を与える約束をして、リリスと2人きりで部屋の扉をしめる。
見覚えのある机の傷に頬を緩めた。幼いリリスを寝かしつけてからの仕事をこなすため持ち込んだ机の裏を覗き込む。足元で遊んだリリスが積み木をぶつけた痕跡の再現に、思わず笑いが漏れた。誰かが積み木で何度も叩いたのだろうか。
「覚えてるか、リリス。ここに積み木を投げつけただろう?」
「いいえ、でも……誰が知ってたの?」
「積み木を片付けたベリアル辺りかもしれないな」
懐かしい記憶を呼び起こす部屋をぐるりと回り、ベッドに腰を下ろした。行儀が悪いと叱る奴もいない。隣に座ろうとしたリリスの腕を掴み、膝の上に座らせた。
「さて、明日からまた頑張りますか」
早朝までの自由時間を楽しむため、2人は手を取り合ってバスルームへ向かう。もう少ししたら夕餉が運ばれてくるだろうから。
爆破される前の室内そっくりに仕立てられていた。部屋の間取り、備え付けの家具や絨毯、カーテンに至るまで……時間を巻き戻したようだ。驚いた様子の2人に、アスタロトがくすくす笑いながら種明かしをした。
「侍従や侍女、掃除係まで総出で記憶を持ち寄り復元しています。可能な物には復元魔法を直接かけ、無理な物は記憶を頼りに作り直しました。絨毯やカーテンはアラクネ達の製作時の記録から、家具は職人たちが記憶を掘り起こして試行錯誤ですね」
笑うアスタロトの後ろから、ルキフェルを伴ったベールが顔を見せた。彼らも知っていたらしい。もしかしたら口出しした可能性もあった。廊下でわくわくしながら見守る、侍従のコボルトや侍女アデーレの姿も見える。ベールとルキフェルが口を開いた。
「ようやくお披露目できました」
「凄いでしょう? 作品に関するドワーフの記憶力は異常だよ、研究してみたくなっちゃった」
製作した家具や建物に関する記憶は、ドワーフにとって一生の財産だという。それらを書面に残すのは文官だが、ドワーフは口伝えで弟子に教える。それを改良して師を凌ぐ作品を作るのが、弟子の最大の恩返しとされてきた。
そんな彼らにとって「まったく同じ品」を作り直すのは、さぞ気が引けただろう。出来るなら前回よりよい品を作りたいのがドワーフなのだから。
「素晴らしい作品だ。ドワーフやアラクネ達の才能に敬服した。これほどの傑作を与えられたのだ、魔王として報いなければならないな」
努力に感謝し、彼らの才能を褒めた。同じ部屋を再現した彼らへの褒賞は、望みをアスタロトが聞き取って与える予定だ。それとは別に魔王から存外の誉め言葉を得て、ドワーフの親方は照れた様子で髭をもじもじと弄る。
「おろして、ルシファー」
するりと腕を解いて中に入ったリリスは、天井や家具を確認しながらぐるぐると見回し、嬉しそうに駆け戻ってきた。両手を広げて抱き留めるルシファーに、興奮で赤くなった頬で満面の笑みを浮かべる。
「本当にそっくりよ! 凄いわ、ルシファーが折った鏡台の脚も……」
「しーっ、それは秘密だと言っただろう?」
復元魔法でその場で直したが、鏡台の脚が折れた事実を知るのは当事者2人とアデーレのみ。どうやら彼女がバラしたらしい。大公達の後ろに控えながらも、口元を手で隠す姿は「悪戯成功」と思っているのだ。叱る気などなかった。
「ご苦労だった。心より感謝する」
「喜んでもらえてよかっただ」
親方がくしゃりと顔を潰して笑い、弟子達も頬を緩める。思い出してアスタロトに命じた。
「今夜は好きなだけ酒を飲むといい。ハイエルフのワイン15樽を彼らに持たせてくれ」
ドワーフの酒好きは有名だ。祭りで楽しめる献上品のワインを多めに渡すことにしたルシファーに、ドワーフから歓声が上がった。侍従や侍女にもそれぞれ褒美を与える約束をして、リリスと2人きりで部屋の扉をしめる。
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「覚えてるか、リリス。ここに積み木を投げつけただろう?」
「いいえ、でも……誰が知ってたの?」
「積み木を片付けたベリアル辺りかもしれないな」
懐かしい記憶を呼び起こす部屋をぐるりと回り、ベッドに腰を下ろした。行儀が悪いと叱る奴もいない。隣に座ろうとしたリリスの腕を掴み、膝の上に座らせた。
「さて、明日からまた頑張りますか」
早朝までの自由時間を楽しむため、2人は手を取り合ってバスルームへ向かう。もう少ししたら夕餉が運ばれてくるだろうから。
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