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63章 温泉から始まる視察旅行

871. どの親も似たようなもので

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 鳳凰と並んで火口に詳しい炎龍のお墨付きがでたので、街は一気に盛り上がる。夜の花火の準備を行うのは、小柄な獣人達だ。鼻が利くので、火薬の調合を得意とする者が多かった。獣人でも頭だけや耳と尻尾だけなど、人族に近い外見の者は手先も器用だ。いくつもの花火玉を収納魔法で移動させた。

 噴火から退避した屋台も路上に戻って、子供達が走り回る。

「鳳凰達をあまり叱るなよ。アラエルとピヨは一応、視察の随行員扱いだ」

 普段は城門から動けないアラエルだが、ピヨは遊びたい盛りである。母と思い込んだヤンについていくと駄々を捏ね、地団太を踏んで城門前の広場にヒビを入れた。鳳凰は火口に集まるが、らんは火口を引き寄せる。ある意味、鳳凰族最強の青い鳥だった。

 魔王城に火口を作られると迷惑なので、渋々ベールが許可を出したのだ。別行動で火口へ向かったと聞いたが、まさか魔王と魔王妃のお披露目見物に鳳凰が集まった火口と思わなかった。偶然が積み重なった結果、鳳凰と鸞合わせて7羽という事態を招いた。それでも噴火を小規模に抑えられたのは不幸中の幸いである。

「陛下、甘すぎます」

「アスタロト、いつ……来たのだ?」

 魔王モードを保ちつつ、顔が引きつるルシファーの腕に抱き着くリリスは笑顔で挨拶した。こういった場面で空気を読まない彼女は、最強なのかも知れない。

「先ほどからここにいましたよ」

 気づかなかったルシファーが悪い。言外に切り捨て、アスタロトは首輪付きの鳳凰達の前に立つ。捕獲した時点で魔力を封じたため、ただの大きな鳥の群れだった。通りいっぱいに縦に並ぶ鳳凰は、大きすぎて邪魔だ。アラエルの背に乗るピヨは、見慣れた毛皮を見つけて飛び降りた。

「ママだ! ママぁ!! ……ぐぇ」

 アラエルの首輪に取り付けた鎖が短く、飛び降りる途中でピヨは宙づり状態となった。首に嵌まった首輪のせいで、哀れな姿だ。ヤンはてくてくと近づき、少しサイズを大きくしてピヨを背に乗せた。足場が出来たおかげで、ピヨは首つりから解放される。

「ママぁ」

「何度も言うたが、我は雄ぞ」

 呆れ交じりのヤンのぼやきを無視し、ピヨは灰色の狼にしがみつく。丁寧に毛づくろいして、頬ずりし、懐いた姿は周囲をほっこりさせた。

「住民の怒りもさほどではありませぬゆえ、夜に鳳凰の舞をご覧になってはいかがか。魔王妃殿下のご来訪を祝すにも、鳳凰が罪を贖うにもぴったりにございましょう」

 デカラビア子爵の提案に、住民は喜んだ。鳳凰の舞は有名だ。彼らは番で過ごし、同族と大きな群れを作らないので、滅多にみられないことで希少価値があった。舞える鳳凰が6羽もいるのなら、それを披露させるのも娯楽として楽しめる。

「よかろう、そのように手配せよ。鳳凰達には順番を決めて火口を使うよう、よく言い聞かせてくれ」

 これでこの件は終わり。そうルシファーが切り上げた正面で、側近の吸血鬼王はにっこり笑った。その笑みに背筋がぞくりと震え、ルシファーは反射的にリリスを抱き寄せる。大切なものは手から離さない。子供のような理論で、リリスを背に隠そうとした。

「陛下、いかがなさいました?」

「何でもない」

 この場で陛下と呼ぶのは本来正しいのに、本能が「やばいぞ」と囁く。機嫌が悪いのを察したルシファーの斜め後ろで、ルーシアとレライエがこそこそと同僚に耳打ちした。首をかしげながらもルーサルカが数歩前に出て、アスタロトに話しかける。

「お義父様、欲しいアクセサリーがあります」

「もちろん買いにいきましょう、どこの店ですか」

 あっさり獲物から目を離したアスタロトは、先ほどの凍り付きそうな眼差しと冷たい笑みが嘘のように穏やかな声で答えた。危機を脱したルシファーが「助かった」と呟き、ルーシア達に礼を言う。その背中に気づきながらも、アスタロトは機嫌がよかった。

「ルーシアやレライエも一緒にいいですか」

「ええ、もちろんです」

「「え?」」

 ルーサルカにアスタロトの機嫌を取らせようとした2人は逃げ損ね、ルーサルカが指さす店へ一緒に入っていった。冷や汗を風で乾かしたルシファーが、大きく息をついて火口方面を振り返る。もう噴石も落ち着いたようだ。結界を解除し、リリスに声をかける。

「準備もあるし、お風呂入ろうか」

「そうね! 今日はオレンジの薔薇がいいわ」

 やはり温泉でも薔薇は浮かべるらしい。頷いて薔薇の手配をするルシファーとリリスが転移で屋敷に帰ると、護衛なのに置いて行かれたヤンが悲しそうに遠吠えした。
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