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61章 側近少女の叙勲式

851. まだまだ課題だらけです

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 真剣な表情で、ルシファーが手を翳す。注ぎ込まれる魔力、調整しながら様子を見るルキフェル。そして結果を楽しみに目を輝かせる大公女たいこうじょ達の前に、映像が浮かび上がった。

「やった! 成功! ……あれ?」

 録画の再生に成功したと喜ぶルキフェルが眉をひそめた。何かおかしい。もしかして……。

「音が出ていない?」

 アベルが後ろから指摘する。今回のスクリーン投影と録画システムに関して、日本人は監修係として雇われた。いわゆる現場監督のような役割だ。技術を知る彼らの説明を、研究職は必死で魔法陣に書き起こした。現象を調べて魔法文字に置き換え、徹夜で仕上げたのに!

 まさかの音が録音されない不具合に、がくりとルキフェルが崩れ落ちる。水色の髪が床に着く前に、ベールが彼を支えた。

「大丈夫ですか? 次に生かせばいいのです。魔王軍の報告は画像で足りますが、この際ですから映像の保存も試しますか?」

 魔王軍の予算が多少余っている。そのため予算をそちらへ回すと融通をきかせるベールへ、ルキフェルが復活しないまま礼を言った。

「ありがと、研究室の予算は使い切ったから」

 助かると言いながらも、失敗から立ち直れない。昨夜あれほど練習し、その時は成功していたのだ。音も映像もきちんと保存され、再生が可能だった。今回と何が違ったのか。

 項垂れるルキフェルの目が、研究室の予算を注ぎ込んだ宝珠に向けられた。両手で撫でながら、ふと気づく。

「この宝珠、誰のだっけ?」

「保存期間を考えて、若い龍の宝珠を使ったが……」

 アベルが途中で言葉を切り、じっくりと宝珠を眺める。色が薄くないか? 最初にテストで使った映像は、もっと色の濃い宝珠だったような?

「宝珠は年を経ると色が濃くなり、魔力を帯びて容量が増えるんだぞ」

 けろりと情報を口にしたルシファーに、ルキフェルが身を起こして袖を掴んだ。ぐいっと引き寄せ、低い声で確認する。

「年を経ると、容量が増える? 魔力を帯びる? なんで言ってくれなかったのさ」

「聞かれなかった」

 悪びれずに返され、ルキフェルが頭を抱えた。その通りなのだが、知らなければ聞かないのは当たり前だ。宝珠関係の情報をすべて確認しなかったルキフェルが悪いのか、言わなかったルシファーや大公が悪いのか。

「すみません。ルキフェル、先に情報の突き合わせをするべきでした」

 ベールが申し訳なさそうに呟く。揉めているこちらをよそに、ベルゼビュートは映像に興味津々だった。

「あら、この角度は太って見えるわ」

「下から撮ると、足が長く見えるかも知れないわね」

 ルーシア達も、どうやったら美しく残せるか。映像に映る心構えの相談が始まっている。

「私は髪を結った方が細く見える」

 レライエが真剣に悩んでいると、抱っこされた翡翠竜はこともなく、さらりと意見を述べた。

「あまり細いと心配になるよ。でもライが綺麗に映りたいなら、身体の角度を斜めにしてみたらどうかな」

「「なるほど」」

 ルーサルカとシトリーが角度をあれこれ試し始め、そこに自撮り技術に詳しいアンナが加わった。

「こうよ、ほら……顔が小さく映るの」

 美を追求する女性達に混じり、リリスも自撮りの角度を練習し始めた。美しく映ることに夢中な女性陣と、技術で話し込む男性陣。綺麗に分かれた2組は、それぞれに情報を突き詰めていく。

「よし、これで結婚式までに技術を確立できる」

 今後の方向性を決めたルキフェルの拳は、新しい技術への期待と研究の成果を求めて強く握られていた。

「……この映像の保管方法も必要ですね」

 もっともな指摘をしたアスタロトは、宝珠の代わりになりそうな宝石や魔石を思い浮かべた。入手困難な品もあるが、ルシファーの収納に眠っているだろう。

「ほら、明日も早いんですから……解散しますよ」

 翌日も民からの祝福を受ける、ルシファーとリリスを休ませよう。アスタロトの号令がかかるものの、誰もが興奮冷めやらぬ様子で動かない。魔族上層部の夜は、騒がしく更けていった。
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