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61章 側近少女の叙勲式
850. 新しい称号と祝福の響き
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夜の闇が空を暗く鎮める時刻、巨大スクリーンに着飾った正装の魔王と魔王妃が現れた。城下町の住人たちは今まで見られなかった光景に、目を輝かせる。魔王ルシファーの挨拶を聞き逃すまいと、呼吸音すらひそめる勢いで固唾をのんで見守った。
「これより、大公女の叙勲式を行う」
今まで空席だった魔王妃にリリスが決まった。魔王史8万年の歴史において、初めての出来事だ。そのため、魔王妃の側近という地位は存在しなかった。魔王の側近を『大公』としたのは、彼らが元魔王候補であったことが影響している。
既存の地位である『公爵』は一般的な爵位にあたるため、大公に次ぐ地位に就く少女達の権力が曖昧になる。立ち位置をはっきりさせるため、別の肩書が必要だった。『姫大公』は魔王妃の側近に与えようと考えられた地位だったが、様々な事情によりリリスに与えられる予定である。
残った方法は別の肩書を考える事だった。同じ大公を使えば、混乱を招く。実力などの面を見てもまだ未熟な彼女達を『大公』と同列に扱うのは難しかった。そこで『女大公』が候補に挙がったのだが……ベルゼビュートが女性なので、彼女もそちらに含まれてしまう。
諸般の事情を踏まえ、『大公女』という新しい単語を作ることとなった。まるで大公の娘のような名称だが、事実養女も混じっている。魔王妃にとって姉妹のような関係を築く側近なので、大公がそれぞれに庇護する形で落ち着いた。
「魔王妃リリスを支え、魔族の発展のために寄与して欲しい。それぞれに後見人として大公を当てるものとする」
ざわっとどよめいたのは、貴族達だった。大公女となる少女達の後見人が選定され、それが魔王の側近である事実は「彼女達を利用することを魔王が禁止した」という意味がある。妻や養女にして魔王妃の側近が持つ権限に手を出そうとすれば、大公が制裁に乗り出す意思表示だった。
これはアスタロトやベールが懸念した部分を打ち消す処置のひとつだ。権力から離れた研究職のルキフェルや、外回り中心のベルゼビュートはあまり深く考えなかった。しかし文官や武官のトップである2人は、事前に予防策を張ることの重要性を主張したのだ。
「「「「御前、失礼いたします」」」」
声を揃えた少女達はお揃いのドレスだった。全員が同じクリーム色のドレスだ。地模様がそれぞれ違うものの、同じ糸を紡いだ絹であつらえた。ルーシアは流水、ルーサルカは舞い散る葉、シトリーは右から左への斜線、レライエは揺らめく炎。それぞれの属性を示す模様は、これから彼女たちの正装に使われる公式デザインとなる。
ドレスと真珠の髪飾りを揃えた彼女達が跪礼を行う。その足元のサンダルも揃えていた。4人が赤い絨毯の前に並ぶのを待って、ルシファーが立ち上がる。黒いローブを捌いたルシファーの腕に、リリスが白い手を絡めた。
並んで階段を降り、最後の1段を残して足を止める。少女達の後ろにそれぞれの後見人となった大公が歩み寄り、最高礼で腰を折った。
ルーシアの後ろにベルゼビュートが立つ。水属性の彼女は精霊族であり、精霊女王が補佐に就く形となった。ルーサルカは義父のアスタロトだ。土や緑の属性に対応するならベルゼビュートが向いているが、アスタロトは頑として譲らなかった。
ベールは幻獣が得意とする風属性のシトリー、同じドラゴン繋がりでレライエにルキフェルがついた。レライエの婚約者が翡翠竜であることも影響している。今もちゃっかり婚約者の肩に乗って、小さな手でしがみつき頭を下げた。
「リリス」
促されて、ルシファーが取り出した宝石箱を手にする。叙勲自体は魔王の管轄だが、彼女たちへ証の勲章がついたサッシュを掛けるのは魔王妃の仕事だ。サッシュを用意した侍女長のアデーレ、勲章を捧げ持つ侍従のベリアルを従えて、リリスは前に進み出た。
「これからも私を支えてね、ルーシア」
「はい、お力になれるよう尽力いたします」
頭を下げたルーシアの青い髪を避けて、右肩から左の腰へかかる太い帯状のサッシュを掛ける。それから宝石箱を開いて勲章をサッシュに留めた。箱はベリアルが後ろに下げ、後で彼女達に渡される予定だ。
「ルーサルカにも苦労かけちゃうわ」
「お側に仕えさせてくださいませ」
にっこり笑うルーサルカが、サッシュが掛けやすいよう屈んでくれた。サッシュは全員同じ色でローズピンクだ。これはリリスの好きな薔薇の色から選ばれたもので、ルキフェルが設計した魔法陣が刺繍された特注品だった。
黒い肩だしドレスのリリスは、自分より身長の高いルーサルカにサッシュを掛け終えた。勲章をサッシュの目立つ位置に留めて微笑む。
「シトリーもいつもありがとう」
「これからずっと、お守りいたします」
銀の瞳を潤ませたシトリーにサッシュと勲章をつけ、軽く抱擁を交わす。くすくすと笑いながら離れた2人は同時にルシファーを振り返った。肩を竦めて大人の余裕を演出する魔王に、大公達が苦笑いを浮かべる。
「いっぱい迷惑かけるわよ。レライエ」
「フォローするのが私たちの役目です」
鮮やかなオレンジの髪を撫でてから、彼女にもサッシュや勲章を授与した。これで全員渡し終えた。彼女達は正式に『大公女』という新しい称号を得て、その立場を確たるものと公表したことになる。誰かが受け取るたびに沸き起こる祝福の拍手は、魔王城の謁見の間だけでなく……城外も含めて響き渡った。
「これより、大公女の叙勲式を行う」
今まで空席だった魔王妃にリリスが決まった。魔王史8万年の歴史において、初めての出来事だ。そのため、魔王妃の側近という地位は存在しなかった。魔王の側近を『大公』としたのは、彼らが元魔王候補であったことが影響している。
既存の地位である『公爵』は一般的な爵位にあたるため、大公に次ぐ地位に就く少女達の権力が曖昧になる。立ち位置をはっきりさせるため、別の肩書が必要だった。『姫大公』は魔王妃の側近に与えようと考えられた地位だったが、様々な事情によりリリスに与えられる予定である。
残った方法は別の肩書を考える事だった。同じ大公を使えば、混乱を招く。実力などの面を見てもまだ未熟な彼女達を『大公』と同列に扱うのは難しかった。そこで『女大公』が候補に挙がったのだが……ベルゼビュートが女性なので、彼女もそちらに含まれてしまう。
諸般の事情を踏まえ、『大公女』という新しい単語を作ることとなった。まるで大公の娘のような名称だが、事実養女も混じっている。魔王妃にとって姉妹のような関係を築く側近なので、大公がそれぞれに庇護する形で落ち着いた。
「魔王妃リリスを支え、魔族の発展のために寄与して欲しい。それぞれに後見人として大公を当てるものとする」
ざわっとどよめいたのは、貴族達だった。大公女となる少女達の後見人が選定され、それが魔王の側近である事実は「彼女達を利用することを魔王が禁止した」という意味がある。妻や養女にして魔王妃の側近が持つ権限に手を出そうとすれば、大公が制裁に乗り出す意思表示だった。
これはアスタロトやベールが懸念した部分を打ち消す処置のひとつだ。権力から離れた研究職のルキフェルや、外回り中心のベルゼビュートはあまり深く考えなかった。しかし文官や武官のトップである2人は、事前に予防策を張ることの重要性を主張したのだ。
「「「「御前、失礼いたします」」」」
声を揃えた少女達はお揃いのドレスだった。全員が同じクリーム色のドレスだ。地模様がそれぞれ違うものの、同じ糸を紡いだ絹であつらえた。ルーシアは流水、ルーサルカは舞い散る葉、シトリーは右から左への斜線、レライエは揺らめく炎。それぞれの属性を示す模様は、これから彼女たちの正装に使われる公式デザインとなる。
ドレスと真珠の髪飾りを揃えた彼女達が跪礼を行う。その足元のサンダルも揃えていた。4人が赤い絨毯の前に並ぶのを待って、ルシファーが立ち上がる。黒いローブを捌いたルシファーの腕に、リリスが白い手を絡めた。
並んで階段を降り、最後の1段を残して足を止める。少女達の後ろにそれぞれの後見人となった大公が歩み寄り、最高礼で腰を折った。
ルーシアの後ろにベルゼビュートが立つ。水属性の彼女は精霊族であり、精霊女王が補佐に就く形となった。ルーサルカは義父のアスタロトだ。土や緑の属性に対応するならベルゼビュートが向いているが、アスタロトは頑として譲らなかった。
ベールは幻獣が得意とする風属性のシトリー、同じドラゴン繋がりでレライエにルキフェルがついた。レライエの婚約者が翡翠竜であることも影響している。今もちゃっかり婚約者の肩に乗って、小さな手でしがみつき頭を下げた。
「リリス」
促されて、ルシファーが取り出した宝石箱を手にする。叙勲自体は魔王の管轄だが、彼女たちへ証の勲章がついたサッシュを掛けるのは魔王妃の仕事だ。サッシュを用意した侍女長のアデーレ、勲章を捧げ持つ侍従のベリアルを従えて、リリスは前に進み出た。
「これからも私を支えてね、ルーシア」
「はい、お力になれるよう尽力いたします」
頭を下げたルーシアの青い髪を避けて、右肩から左の腰へかかる太い帯状のサッシュを掛ける。それから宝石箱を開いて勲章をサッシュに留めた。箱はベリアルが後ろに下げ、後で彼女達に渡される予定だ。
「ルーサルカにも苦労かけちゃうわ」
「お側に仕えさせてくださいませ」
にっこり笑うルーサルカが、サッシュが掛けやすいよう屈んでくれた。サッシュは全員同じ色でローズピンクだ。これはリリスの好きな薔薇の色から選ばれたもので、ルキフェルが設計した魔法陣が刺繍された特注品だった。
黒い肩だしドレスのリリスは、自分より身長の高いルーサルカにサッシュを掛け終えた。勲章をサッシュの目立つ位置に留めて微笑む。
「シトリーもいつもありがとう」
「これからずっと、お守りいたします」
銀の瞳を潤ませたシトリーにサッシュと勲章をつけ、軽く抱擁を交わす。くすくすと笑いながら離れた2人は同時にルシファーを振り返った。肩を竦めて大人の余裕を演出する魔王に、大公達が苦笑いを浮かべる。
「いっぱい迷惑かけるわよ。レライエ」
「フォローするのが私たちの役目です」
鮮やかなオレンジの髪を撫でてから、彼女にもサッシュや勲章を授与した。これで全員渡し終えた。彼女達は正式に『大公女』という新しい称号を得て、その立場を確たるものと公表したことになる。誰かが受け取るたびに沸き起こる祝福の拍手は、魔王城の謁見の間だけでなく……城外も含めて響き渡った。
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