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60章 魔王妃殿下のお披露目

846. 類は友を呼ぶのですね

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 正面の大扉の外、廊下には驚くほど多数の民が駆け付けた。貴族優先のルールもないので、先着順で行儀よく並ぶ種族は各種入り混じっている。ケンカをしたら外へ放り出すとベールの訓示があったため、魔族はわくわくしながらも大人しく並んだ。

 普段は入場に合わせて開閉される大扉は、今回開いたままにされた。謁見と違い、他者に聞かれないよう気遣う必要がないのだ。相談事で謁見する場合は、他種族に聞かれたくない話も出る。今回は挨拶のみで、1人あたりの時間も少ない。聞かれて困る挨拶もないと判断された。開閉の手間と挟まるなどの危険を考慮した結果、開きっぱなしとなる。

 扉をくぐった謁見の間は、足元から玉座まで赤い絨毯が続く。絨毯の両側に公爵家の代表が並び、玉座へ向かう階段の途中に大公達が左右に分かれて立った。大公と公爵の間にリリスの側近たる少女達が並ぶ。現在時点で、玉座はまだ空席だった。

「魔王陛下、魔王妃殿下のご入場です」

 アスタロトの声が謁見の間に響き、仲良く腕を組んだ2人が姿を見せた。軽く会釈して微笑んだリリスが、ドレスのオープンスカートを指先で摘まんで腰掛ける。それを支えて手助けしたルシファーが、隣の玉座に座った。

 壇上に並ぶ2人の姿に、頑張って先頭を勝ち取ったオレリアが感涙する。

「すごく綺麗……素敵すぎるわ」

 婚約者と腕を組んで進み出ると「お披露目でのご婚約をお祝い申し上げます」と丁寧に挨拶した。鮮やかな緑のドレスに琥珀の宝石を飾ったオレリアに、リリスも笑顔で手を振る。挨拶を済ませると、次々と魔族が挨拶に訪れた。

 熊や鹿の魔獣を含め、獣人、竜人、神龍、竜……挨拶に並ぶ種族は尽きない。途中でエルフに抱きかかえられた鉢植え姿のアルラウネも混じり、ドライアドやリザードマン、ラミア達も顔を見せる。見覚えのある種族も、あまり接点のない魔族も、皆が一様にお祝いしてくれた。

 精霊たちはベルゼビュートの指示に従い、虹を作って花を舞わせ、忙しく謁見の間を彩る。舞台の演出のように光を降らせる精霊もいた。

「ルシファーはみんなに慕われてるのね」

「ん? リリスも同じだよ」

 途中でひそひそ会話する様子も「仲がいい」と喜ぶ魔族の列は終わりが見えなかった。さすがに3時間近く経つと、笑顔を作る頬もひきつりそうになる。

「ここで休憩をはさみます。1時間後から夕暮れまで挨拶を受けて、残った方は中庭に用意したテントに泊まってください。明日は朝9時からの謁見とします」

 予定をさらりと口にしたアスタロトが、並んだ魔族を書面に控えるよう文官に指示する。翌日に持ち越されることは確実なので、横入りや2度目の謁見を防ぐ必要があった。祝いなので2度3度と並びたい気持ちはわかるが、受ける側も大変なのだ。

 玉座に座るルシファー達が疲れるのだから、両側の少女や公爵達の疲労はさらに大きかった。大扉を閉めた途端、全員が溜め息をついて肩から力を抜く。

「肩が凝るわ」

 胸が大きいから重いのよ、小声で呟きながら肩を回して首や肩の凝りを解す。

「余計な一言が多いとこ、モテない理由だと思う」

 ルキフェルが辛辣な言葉を向ける。疲れているため言葉に容赦がなかった。ベールが甘やかすようにルキフェルを撫でて連れ出し、苦笑いしたアスタロトがルシファーに近づく。

「先ほどは良いところで邪魔してしまいましたね」

 謝罪はしないが、もう少し気遣えばよかったと匂わせるアスタロトの声に、肩を竦めてルシファーは身を起こした。甘えて手を伸ばすリリスの両腕が首に回ったのを確認して、魔王妃の玉座から抱き上げる。

 いつも思うが、リリスは軽すぎる。もう少し重くなってもいいのだが……。女性の体重に関する発言は、嫌われる原因になる。かつてアデーレやベールを始めとした複数の人に指摘されたので、二度と口にする気はないルシファーが、斜め後ろに控える側近を振り返った。

「仕方ないさ。時間はいくらでもある」

「今夜はちゃんとお休みくださいね。ご令嬢の寝顔を見つめて起きているなど、変質者と変わりません」

「え? そうなのか?!」

「それはそうでしょう。魔王妃殿下はどう思われますか?」

「私もルシファーの顔だったら、ずっと見てられるわ」

 どちらもどちら。似たもの夫婦、類は友を呼ぶ、同類相求む――類語が頭の中を駆け抜ける中、アスタロトは追及を諦めて、考えを放棄した。
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