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60章 魔王妃殿下のお披露目
843. いざ! お披露目に
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魔王の妻には2つの称号が与えられる。公的な顔である『魔王妃殿下』と、私的な面を補う『姫大公』。どちらも重要だが、今日のお披露目で魔王妃の地位が確定となる。かつて魔王の妻となった女性がいないため、新しい地位のお披露目は正式な婚約と同時に披露される予定だった。
姫大公の地位は大公位より上になり、魔王の妻である証拠に与えられる称号のひとつだ。貴族の称号として最上位に位置するため、魔王直轄領の一部が領地として彼女の管轄となる。結婚式を終えて初めて『姫大公』の称号が有効になる仕組みは、民のためのシステムではなかった。
魔王の大量の財産を分与し、魔王直轄領を分割する目的がある。これによってリリスにも魔王と同等の権力と権威を与え、民にはっきりと魔王妃の地位を認識させるのがアスタロト達の考えだった。
ここまで複雑なことをしなくても、大半の貴族や民は歓喜でリリスを迎えるだろう。しかしどれだけ善良に見える種族でも、妬みや僻みは存在した。魔王の妻になっただけと認識されれば、危害を加えられる可能性もゼロではない。
誰かがリリスを傷つけようとしても、魔の森が守り、ルシファーが守るため無事だろう。問題は危害を加えようとした種族を、魔王が滅ぼす危険性だった。容赦なく滅ぼしてしまう未来を懸念し、リリスの立場を明確にすることで牽制する。それでも仕掛けるバカなら滅びても自業自得だった。
「緊張しているか?」
お披露目用のテラスに、まだ人影はない。20人ほどが立てる広さの銀龍石が、テラスの土台から屋根まで彫刻を施されて、魔王城の一角に作られたのは数か月前だった。ドワーフ渾身の名作だと太鼓判を押されたテラスの屋根は空を舞う神獣や聖獣が表現され、柱は世界樹を示す。下の土台に掘られたのは、ありとあらゆる種族だった。
魔獣や竜、獣人、花人族やラミア、エルフ……数えきれない種族が手を取り合う姿が、緻密な彫刻技術で彫り込まれている。各種族は魔王と魔王妃のお出ましを待ちながら、自分達の彫られたテラスのデザインに大喜びだった。
指さしながら母親が子供に自らの種族を示す。子供が目を輝かせて端から種族名を口にし、わからなくなると父親に尋ねた。カップルが自分たちの種族が並んで刻まれたことに頬を緩め、ざわざわと中庭の騒ぎは尽きることがない。
「皆、喜んでくれたわね」
「リリスの案がよかったからだ」
ドワーフに尋ねられ、全魔族を彫刻出来たら素敵だと告げたのはリリスだった。思わぬ提案にドワーフ達はすぐに検討し、答えを出す。難しい彫刻になるが、だからこそ魔族一の腕を誇るドワーフの一生物の仕事になると。子孫に誇れる傑作を彫り上げるため、ドワーフはあちこちで各種族の姿を正確に写し取った。
「ドワーフ達が頑張ってくれたもの。あとで何か差し入れをしましょう」
にこにこと笑顔を振りまくリリスの額にキスを落とし、酒の手配が一番喜ばれるだろうと予想をつける。ちらりとアスタロトに視線を向ければ、心得た側近が頷いた。
薄絹の向こうから聞こえる声に緊張が高まる。リリスがぎゅっとルシファーの腕を引き寄せた。腕に胸を押し付けている事実に気づかないリリスは、一房の純白の髪を握る。お守りのようにいつも気持ちを落ち着けてくれる髪をたどってルシファーを見上げた。
「行こうか」
「うん」
頷いたリリスは、わくわくする気持ちを隠さずに口元を緩める。薄絹が風の精霊によって持ち上げられ、火の精霊が光を調整し、水の精霊が虹を作り出す。大地の精霊が用意した花弁が、下で見守る民の上に降り注いだ。
一歩踏み出す。ぶわっと押されるような歓声と感情が押し寄せて、リリスが笑顔になった。ルシファーとリリスの姿を見た魔族は大騒ぎになる。
「魔王様万歳!」
「リリス様ぁ!!」
男女問わず大騒ぎになり、何を口走っているのか聞き取れない。あまりの勢いに驚き、後ろにいたアスタロトが思わず結界を張ったほど……魔族の声は大きかった。
姫大公の地位は大公位より上になり、魔王の妻である証拠に与えられる称号のひとつだ。貴族の称号として最上位に位置するため、魔王直轄領の一部が領地として彼女の管轄となる。結婚式を終えて初めて『姫大公』の称号が有効になる仕組みは、民のためのシステムではなかった。
魔王の大量の財産を分与し、魔王直轄領を分割する目的がある。これによってリリスにも魔王と同等の権力と権威を与え、民にはっきりと魔王妃の地位を認識させるのがアスタロト達の考えだった。
ここまで複雑なことをしなくても、大半の貴族や民は歓喜でリリスを迎えるだろう。しかしどれだけ善良に見える種族でも、妬みや僻みは存在した。魔王の妻になっただけと認識されれば、危害を加えられる可能性もゼロではない。
誰かがリリスを傷つけようとしても、魔の森が守り、ルシファーが守るため無事だろう。問題は危害を加えようとした種族を、魔王が滅ぼす危険性だった。容赦なく滅ぼしてしまう未来を懸念し、リリスの立場を明確にすることで牽制する。それでも仕掛けるバカなら滅びても自業自得だった。
「緊張しているか?」
お披露目用のテラスに、まだ人影はない。20人ほどが立てる広さの銀龍石が、テラスの土台から屋根まで彫刻を施されて、魔王城の一角に作られたのは数か月前だった。ドワーフ渾身の名作だと太鼓判を押されたテラスの屋根は空を舞う神獣や聖獣が表現され、柱は世界樹を示す。下の土台に掘られたのは、ありとあらゆる種族だった。
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指さしながら母親が子供に自らの種族を示す。子供が目を輝かせて端から種族名を口にし、わからなくなると父親に尋ねた。カップルが自分たちの種族が並んで刻まれたことに頬を緩め、ざわざわと中庭の騒ぎは尽きることがない。
「皆、喜んでくれたわね」
「リリスの案がよかったからだ」
ドワーフに尋ねられ、全魔族を彫刻出来たら素敵だと告げたのはリリスだった。思わぬ提案にドワーフ達はすぐに検討し、答えを出す。難しい彫刻になるが、だからこそ魔族一の腕を誇るドワーフの一生物の仕事になると。子孫に誇れる傑作を彫り上げるため、ドワーフはあちこちで各種族の姿を正確に写し取った。
「ドワーフ達が頑張ってくれたもの。あとで何か差し入れをしましょう」
にこにこと笑顔を振りまくリリスの額にキスを落とし、酒の手配が一番喜ばれるだろうと予想をつける。ちらりとアスタロトに視線を向ければ、心得た側近が頷いた。
薄絹の向こうから聞こえる声に緊張が高まる。リリスがぎゅっとルシファーの腕を引き寄せた。腕に胸を押し付けている事実に気づかないリリスは、一房の純白の髪を握る。お守りのようにいつも気持ちを落ち着けてくれる髪をたどってルシファーを見上げた。
「行こうか」
「うん」
頷いたリリスは、わくわくする気持ちを隠さずに口元を緩める。薄絹が風の精霊によって持ち上げられ、火の精霊が光を調整し、水の精霊が虹を作り出す。大地の精霊が用意した花弁が、下で見守る民の上に降り注いだ。
一歩踏み出す。ぶわっと押されるような歓声と感情が押し寄せて、リリスが笑顔になった。ルシファーとリリスの姿を見た魔族は大騒ぎになる。
「魔王様万歳!」
「リリス様ぁ!!」
男女問わず大騒ぎになり、何を口走っているのか聞き取れない。あまりの勢いに驚き、後ろにいたアスタロトが思わず結界を張ったほど……魔族の声は大きかった。
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