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59章 お祭りはそれでも続行
835. 美味しい物は好きだと思うの
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救出された女性達は、過去に人族の魔術師に捕まった女性が暮らす家で預かることが決まった。ダークプレイスにある施設は、過去の粛清騒動で発見された獣人女性が今も住んでいる。捕まって首輪をつけられたうえ、人族の兵士に乱暴された彼女たちの心の傷は深く、当初は異性を見ると怯えた。それは家族であっても同じだ。
親族もつらいが当事者はもっと苦しんでいた。そんな彼女らが産んだ子供と一緒に、現在も保護施設は被害者の生活を支援する。国の予算を使って保護される彼女らは、ようやく笑顔が見られるようになってきた。少しの時間であれば、父親や兄との交流も行っているらしい。
魔王ルシファーとしては、傷ついた民に寄り添ってやりたいが……どんなに顔が整っていようと異性である。彼女らを怯えさせる可能性があるとして、大公ベルゼビュートの管轄とされてきた。
「あのね、私が行ってくるわ。ルシファーの代わりに出来る事でしょう?」
護衛のイポス、4人の側近もすべてが女性だ。フェンリルのヤンは雄なので置いていくが、一番自由に動ける人物であり、魔王ルシファーの代理として申し分ない女性だった。
「だが……」
懸念を示すルシファーに、アスタロトは言葉をかぶせた。
「とても良い考えですね」
珍しくアスタロトが手放しで褒めたため、リリスは頬を緩ませた。筆舌に尽くしがたい苦しみを味わった女性を見舞いたい。ルシファーが口にした言葉を聞いた彼女は、代わりに自分が行くと言い出したのだ。保護された彼女らを見た側近の中で、ルーシアは少し複雑な思いを抱えていた。
「とても素晴らしいことですが、もう少し時間が必要だと思いますわ」
ルーシアは今はやめるべきと告げる。明日は魔王妃のお披露目が行われるが、それは魔族にとって祝い事だ。幸せの絶頂にある女性が、不幸のどん底から助けられたばかりの女性に「お気の毒だわ」と同情したら、どうなるか――。
侯爵令嬢として人に羨ましがられる立場で育ったからこそ、ルーシアは厳しい教育を施された。恵まれた立場や外見、両想いの婚約者の存在が他者にどう見えるか。妬まれないよう、常に人にやさしく微笑みを絶やさず……そう教えられたルーシアにとって、リリスが傷つく未来を無視することは出来ない。
貴族出身ではないレライエやルーサルカは思いつかない。子爵令嬢であるシトリーも、同族内でのぬるい環境しか経験していなかった。長寿で魔力に恵まれた精霊の貴族は、己がどれだけ他種族の羨望を集めるか知っている。
「ダメなの?」
「リリス様は素直な方でお優しいですが……傷ついた人の前に幸せな人が立つだけで、相手をさらに深く傷つけることがあります。数日の時間をおいて、落ち着いてからお会いしても遅くないと思います」
ルーシアの進言に、ルーサルカは複雑そうな顔をした。確かに自分が助けられた時、愛されて幸せそうなリリスを見て羨ましいと思った。その気持ちをもっと拗らせたら、リリスを罵ったかもしれない。シトリーやレライエも顔を曇らせた。
「ルシファー様、リリス様はよい側近を選びましたね」
様子を見ていたアスタロトが、くすくすと笑う。どうやらリリスの好きにさせた際の、4人の反応を見ていたらしい。こんな場面で試さなくてもいいものを……彼女らがそのまま会いに行こうとしたら、何らかの理由を付けて延期させたのだろう。
ルキフェルに転移で運ばれた女性と、ベールが抱きかかえた子供達は、安心できる清潔で明るい部屋にいる。人数が急に増えるため、面倒を見る侍女も手配した。彼女たちの心の傷が早く癒えるよう、願う気持ちは誰も同じなのだ。
「ルーシアの意見はわかったわ、ありがとう。明日のお披露目が終わったら、皆で甘いお菓子を作って侍女に運んでもらいましょう。誰だって美味しい物は好きだと思うの。私が直接行かなくても、届けてもらうことは出来るでしょ?」
いいことを思いついた。リリスがそう提案すると、今度は満場一致で採用された。
親族もつらいが当事者はもっと苦しんでいた。そんな彼女らが産んだ子供と一緒に、現在も保護施設は被害者の生活を支援する。国の予算を使って保護される彼女らは、ようやく笑顔が見られるようになってきた。少しの時間であれば、父親や兄との交流も行っているらしい。
魔王ルシファーとしては、傷ついた民に寄り添ってやりたいが……どんなに顔が整っていようと異性である。彼女らを怯えさせる可能性があるとして、大公ベルゼビュートの管轄とされてきた。
「あのね、私が行ってくるわ。ルシファーの代わりに出来る事でしょう?」
護衛のイポス、4人の側近もすべてが女性だ。フェンリルのヤンは雄なので置いていくが、一番自由に動ける人物であり、魔王ルシファーの代理として申し分ない女性だった。
「だが……」
懸念を示すルシファーに、アスタロトは言葉をかぶせた。
「とても良い考えですね」
珍しくアスタロトが手放しで褒めたため、リリスは頬を緩ませた。筆舌に尽くしがたい苦しみを味わった女性を見舞いたい。ルシファーが口にした言葉を聞いた彼女は、代わりに自分が行くと言い出したのだ。保護された彼女らを見た側近の中で、ルーシアは少し複雑な思いを抱えていた。
「とても素晴らしいことですが、もう少し時間が必要だと思いますわ」
ルーシアは今はやめるべきと告げる。明日は魔王妃のお披露目が行われるが、それは魔族にとって祝い事だ。幸せの絶頂にある女性が、不幸のどん底から助けられたばかりの女性に「お気の毒だわ」と同情したら、どうなるか――。
侯爵令嬢として人に羨ましがられる立場で育ったからこそ、ルーシアは厳しい教育を施された。恵まれた立場や外見、両想いの婚約者の存在が他者にどう見えるか。妬まれないよう、常に人にやさしく微笑みを絶やさず……そう教えられたルーシアにとって、リリスが傷つく未来を無視することは出来ない。
貴族出身ではないレライエやルーサルカは思いつかない。子爵令嬢であるシトリーも、同族内でのぬるい環境しか経験していなかった。長寿で魔力に恵まれた精霊の貴族は、己がどれだけ他種族の羨望を集めるか知っている。
「ダメなの?」
「リリス様は素直な方でお優しいですが……傷ついた人の前に幸せな人が立つだけで、相手をさらに深く傷つけることがあります。数日の時間をおいて、落ち着いてからお会いしても遅くないと思います」
ルーシアの進言に、ルーサルカは複雑そうな顔をした。確かに自分が助けられた時、愛されて幸せそうなリリスを見て羨ましいと思った。その気持ちをもっと拗らせたら、リリスを罵ったかもしれない。シトリーやレライエも顔を曇らせた。
「ルシファー様、リリス様はよい側近を選びましたね」
様子を見ていたアスタロトが、くすくすと笑う。どうやらリリスの好きにさせた際の、4人の反応を見ていたらしい。こんな場面で試さなくてもいいものを……彼女らがそのまま会いに行こうとしたら、何らかの理由を付けて延期させたのだろう。
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いいことを思いついた。リリスがそう提案すると、今度は満場一致で採用された。
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